幽霊女子のゆめちゃん~霊界一の美少女幽霊がクセつよ過ぎて夏の想い出が色褪せない~
月本 招
第一夜 初めまして、ゆめちゃん
【ナレーション】
夏の夕闇が降りてオレンジ色の空が藍色に塗り潰されていく。
窓にかかったレースのカーテンが風で波打つように揺れると、その時、すぅっと屋外から通り抜けて何かが部屋の中へ入ってきた。
そのままベッドに寝そべって天井を見上げている少年の視界に入り、ふわふわと宙に浮いている。
少年の視界に映るのは、見た目は少し大人びた、白いワンピース姿の可愛らしい少女。
しかし――
***
嬉しうらめし、こんばんはっ!
やぁ! アタシは幽霊女子のゆめちゃんだよ。
あり? あんま驚かないじゃん。こいつぁ拍子抜けだなぁ。
いいかい、幽霊ってのはさぁ、驚かれることが大好物なんだよ。アタシたちの存在意義って言ってもいいくらいなのさ。
だから、そんな態度じゃいつまで経っても幽霊に好かれることはできないよ。
……幽霊なんかに好かれてたまるか、だと?
ふふ~ん、言ってくれるじゃないか。
じゃあ、キミがアタシと仲良くしてくれるまで、この幽霊のゆめちゃんがずっと憑りついてあげるから覚悟しなさーい。
【すーっと耳元に近づいてきて】
ふふ、いーや、ダーメ。
アタシはこう見えて執念深いんだ。何せ幽霊だからね。
だから、キミも諦めて早いところアタシを受け入れちゃうといいよ。
まぁそういう訳だから、これからどうぞよろしくね。
***
【二人はベッドの上に並んで腰かけている】
ん、「ゆめ」って名前はどんな字を書くのって?
へぇぇ、なぁんだ、アタシに興味津々なんじゃないか、このこのぉ。
しょうがないねぇ。そんなに知りたいなら教えてあげてもいいかな。
幽霊の「
……は? ちょっと何なのその顔?
人の名前でどん引くのマジでやめてくんないかな。そんな顔されると、さすがのアタシもショックなんだけど。
ん、マジモンの幽霊なんて洒落にならないって?
何言ってんの。幽霊なんてそこら中にいるんだよ。ただキミに見えていないだけで、くっくっくっ。
怖いから笑うなって?
さっきは驚いてくれなかったくせに、随分とアタシを都合のいい女扱いしてくれるじゃないか!
初対面なのに秒でアタシの扱いが雑になってきている気がするんですけどぉ!
てゆーか、どこをどう切り取っても怖くないでしょーが!
幽霊界隈ではめちゃくちゃ可愛いって評判なんだよ。
そんなアタシのどこが怖いって言うのさ。
存在?
う……そんなこと言われたって……存在はどうしようもないじゃないか。
呪われる?
いやいや、そんなことしないってば!
キミが大人しくしていればね。【ボソッと】
ただ、アタシはさ、キミのことがちょこーっとだけ気になって……。
は? いやいや、ロックオンなんてしてないっての!
大体なんだよ、幽霊にロックオンされるって!
そもそもキミってそんなに人に恨み買うようなことしたのかい?
うん、そうでしょ。
なら問題ないじゃない。その辺を彷徨っていた地縛霊がたまたま遊びに来たとでも思えば、くっくっくっ。
あー、ごめんごめん。今のはちょっと狙ったわ。テヘ。
***
ねぇ、キミっていつもそんな感じなのかい?
いや、だってアタシがこれだけ盛り上げているのに、全然楽しそうじゃないじゃん。
幽霊相手に盛り上がれる訳がない?
逆にそんなヤツがいたとしたら、完全に頭がイカれてる?
おうおう小僧、言ってくれるじゃないか。
幽霊を怒らせるとどうなるか、その身体に二度と消えない呪印を刻み込んでやろうかぁ!?【いかにも怖がらせる口調で】
……ねぇちょっと、本気で怯えるのはやめなさい。
別に幽霊なんてほとんどの人には害はないんだから、怯えるだけ損なんだってば。
それより、アタシは普通に接してくれたら嬉しいんだけどな。
だって、アタシはキミと仲良くなりたくてここへやってきたんだから。
何でって、そりゃあ……その……。【困った表情を浮かべている】
まぁその、あれだ!
アタシってばめちゃくちゃ陽キャのリア充に見えるけど、実はあんまり友達がいないんだよね。
ぼっちの幽霊?
ちょっと、変なあだ名つけるのやめてよねー。
って、自分で言ったくせに何で笑いを堪えてんのよ。
……ふふ、いいじゃん。
キミが楽しそうにしていると、アタシも楽しいし、元気が出てくるよ。
そうだよ。実は幽霊だって元気が欲しいのさ。
元は人間だからね。感情だってあるし、落ち込む時だってあるんだよ。
だからさ、そんなに警戒しなくても大丈夫。
アタシってば基本無害だし、何ならたまにウィットに富んだ幽霊ギャグをぶちカマしたりもするし。
お、幽霊ギャグが聞きたい?
そのフリ勘弁してよねー、これだから全く素人は。
ハードルを上げられてから笑いを取るってことがどれだけ難しいことかキミは知って……。
あー、わかったわかった、オーケイオーケイ。【肩を
溢れる面白オーラでバレてしまっていたかもしれないけど、何を隠そうこのゆめちゃん。こんなにキュートなナリをしているのに霊界屈指のギャガーとしても名を馳せているからね。
くっくっくっ、笑い過ぎて腹筋がねじ切れても知らないよ。
よっしゃいっくぞぉぉぉ!【テンション全開】
1,000兆個のギャグを持つ、ゆめちゃんの幽霊ギャグぅぅぅぅ!
ダジャレ編!【さぁ、ここからは完全に振り切って】
【SE:どろろんっ!】
ほらぁ! やっぱりホラー映画じゃーん!
【SE:ひゅ~どろどろどろ】【少年は無反応】
う~ら~め~に~で~たぁ~! ゆめちゃん悲しぃっ!
【SE:ひゅ~どろどろどろ】【少年は無反応】
う~ら~め~にゅ~! 大将、おかわりっ!
【SE:ひゅ~どろどろどろ】【ピキピキピキ←空気が凍る音】
……
笑えよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!【ブチギレ】
キミ、アタシに何か怨みでもあんの?
呪うよ、マジで!
味覚をぶっ壊して、二度とコロッケを食べられなくしてやろうか!?【地味にかなり怖いことを言うゆめちゃん】
え? 効果音が気になって、他が全然入ってこない?
ぬぬぬ……、この1,000兆個のギャグを持つアタシとしたことが、まさか演出でミスるとは……。
まぁ、今日のところはおあいこだね。
ってあれ?
ふふふ……あはは!
そうそう、そうだよ。
実は面白かったんでしょー?
ん、違う?
必死なアタシが面白かったって?
チッチッチッ、わかってないねー。
今のはここまで計算した笑いなんだよ。
いや、ウソじゃないって。
幽霊はウソなんてつきませんー。【子供っぽく】
――まぁいっか。
今日のところはさ、キミの笑った顔が見たかっただけなんだから。
――――
★作者のひとり言
ここまでお読みいただきありがとうございます!
このお話は全7回となっていますので、もし、続きが気になるという方がいらっしゃいましたら、ぜひフォローをしていただけると大変嬉しいです(>人<;)
では、ぜひまた次回お会いしましょう!
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