ボウエイ戦線こうりゃく中

「まとまって戦っててもらちが明かない! 各員予定通り配置につき次第敵内部に侵入せよ!」


「了かい!」


 迫りくるキノコ怪人を発火弾でうちたおし、時にけりで道を開いて前へ前へと進む。予定ではコウイチと俺がそれぞれ二時方向と十時方向、ダイチとリエカが四時方向と八時方向から同時に敵内部入るはずだった。だが、この雪崩みたいなキノコ怪人たちがそんな悠長なことを許してくれるとは思えない。ので、俺は作戦を一部変更し、同時突入ではなく、順次突入へと切り替える。


 俺とリエカ、ダイチとコウイチ、二手に分かれて先へと進む。


『こちらしぃな。みんな聞こえる?』


 いつもよりもクリアな音がインカムから聞こえてきた。おれはリエカとうなずき合って音声チャンネルを解放する。


「こちらヒトヨシ、リエカ班。通信聞こえている、何かわかったのか?」


 言葉の後にコウイチからも同じような通信が入る。


『キノコ怪人の群れの中に変種を発見。画像送るね』


 ピピッとリエカの右うでの装置から音と光が出る。


「受け取ったわ。各員に回すわね」


 ピピピとリエカが機械を操作すると、サングラスの片側に映像から切り抜いた画像が表示された。前が見づらくなるけど、コレは便利だ。


『画像受け取ったよ、こいつに注意すればいいんだよね?』


 これはダイチの声だ。


『そう、要注意。ただ、見切れててわたしにも種類が良く分からないから、何してくるかわからない』


「了かい!」


 通信で声がそろった。


 そろそろリエカが突入する八時方向地点のはず。ぐるっと、走っていた足を止めて、超巨大キノコ怪人のカベを触る。


 後ろではリエカがキノコ怪人と応戦している。時間はない、一発勝負だ。


 一歩下がって刀の柄へと手をかける。息を軽く吐きだして、それから居合の要領で刀を抜き放つ!


 横一閃して手のひらを返し、下へと平行線を引くように再度切払う。それから振りかぶって、縦に二閃!


 少し厚めのベニヤ板を切り抜いた気分だ。


 四角く傷の入ったその真ん中をけっとばす。そうすると、内側に向ってカベが抜ける。


「リエカ、中入れ!」

「了かい!」


 応戦していたリエカがちらりとこっちを見て、それからすぐさま銃をホルスターに入れて全力しっ走してくる。そのまま中に飛び込むつもりだ。リエカと入れ替わるように、銃をとり、キノコ怪人に向って発砲し走り出す。


 リエカがあけた穴の中に飛び込むのが横目で見れた。キノコ怪人を引き付けつつ、当初の予定通り十時方向へと向かう。中では援護できないから、うまくやってくれよ!


 キノコ怪人をけ散らしつつ前進する。さすがにこの数相手に一人きりだと、しんどい!


 だけど、弱音をはいている場合じゃない。


『コチラリエカ、内部侵入に成功。敵はなし』


『同じくダイチも中に入ったよ。こっちも何もいない、これから探索に入る』


 走っていると、通信が入る。どうやらリエカだけじゃなくて、ダイチも無事に中に入ることが出来たらしい。


 俺が入るべき十時地点もそろそろだ――!


『ヒーチャン班長、気を付けて』


 しぃながおれに注意を促してきた。けいかいのために一度振り返る。おれを追いかけてくるキノコ怪人たちとは少しはなれている事を確認して、それから前を向き直した。


 ら、

「なっ――?! いきなり前に!?」

 そいつは突然おれの目の前に現れた。


 白く細長いカサ。そのカサの上に叫びをあげる人の顔みたいな黒いもようがある。体はほかのキノコ怪人よりもほっそりしている。ゆらゆら、ゆれておれのほうへとすぅーと近づいてくる。コイツ、早い!


 ななめ前へと転がって新型とすれ違うように回ひする。


 そしてすぐさま立ち上がり、追撃のために銃をかまえた。のだが、

「いない……!? どこに消えた?!」

 いるはずのそいつのすがたはなかった。思わず舌打ちをして、それからすぐさま向き直して十時方向を目指して走る。


『分かった。そいつの正体はヒトヨタケ怪人。するっと地面の中にもぐって移動する。動きもほかのキノコ怪人よりずっと早い』


「ヒトヨシ、了かい!」


 しぃなの通信に俺以外のみんなも返事をする。ヒトヨタケ怪人に陽動されてキノコ怪人の群れの中に押し込められてしまうと、大変なことになるから、コレは重要な情報だ!


『コチラコウイチ、侵入に成功』


 コウイチからの報告がインカムから届く。これでおれ以外全員が中に入ったことになる。しかし、この後ろの群れを一人で相手しながらどうやって中に押し入ればいいんだ?


「コチラヒトヨシ。敵の数が予想以上に多い、敵が手薄な場所はあるか?」


『コチラしぃな。かんそくした、敵の四割がヒーチャン班長のほうに集まってる。そのままだと物量にまけちゃう』


 四割だって……! こういうのは四人いるんだから、均等に三割前後で割り振るべきだろ! と悪たいをつきたくなった。だが、おれはすぐに思いなおす。


 このキノコのカベは簡単に刃が刺さるのに表面は結構つるつるしてるから上るのにはツライはずだ。そしてあいつらは電柱も登れない。SデザートSHI-Kをホルスターに戻してフック銃を取る。ナイフ型の補助アタッチメントを取り付け、走りっぱなしのまま適当に狙いをつけてフック銃の引き金を引く。


 バビュンっと飛び出した刃付きのピアノ線が四メートルほど上のキノコカベに突き刺さる。やった成功だ! 急いで固定用のバンドで手首と銃を固定して巻き取りようのコックを引く。


 ギュィンとおれの体がフック銃の巻き戻りによって引っ張り上げられる。眼下にはわらわら群がるキノコ怪人。宙ぶらりんの状たいで俺はカベに取り付いた。


「こういう使い方はあんまりしたくないんだけど……、仕方ないよな」


 さやから抜いたキノコ切ミライの切先をカベへと突き立てて、無理やり押し込む。それから峰へと足をかけて力任せに押す。カベもキノコ怪人の一部だからこそ、こんなふうに力任せにこじ開けられる。


 だけど、十分な長さまで切り口を広げた直後に、ギシィッ! とフック銃の先がかしいだ。この高さから落ちたら洒落にならない! 高くにうちすぎたと後悔しながら今度は縦に刀を突き立て、さっきと同じ要領で上から下に体重をかける。取りあえずこれで侵入口の確保は完了。


 ぴったりと超巨大キノコ怪人のカベに背中を付けて、銃を空に向けて構え、適当に発砲した。


 空中で足場もなく、片手で適当に銃の引き金を引けば反動を押さえることもできないし、踏ん張ることもできない。つまり、打った銃の反作用で体が後ろに押し込まれるのだ! あとはその反動で『十字』にいれた切込み部分を無理やり押して強引に中に入る。


 のだが、銃をうった反動でフック銃の先がすっぽ抜けた!


「し、しまっぁぁぁぁ!」


 これじゃあ結局落ちる!


 外でキノコの群れの中に落下するよりはマシかもしれないが、それでもこんな高さから落ちたらケガする!


『ヒーチャン班長さんフック銃!』


 しぃなから通信が入った! そうか! その手があった! おれは落ちながらカベに向かってもう一度フック銃を適当にうつ! バビュンっとまたしても銃の先が飛び出してカベに突き刺さる! すぐさまコックを引いて、巻き取る。地面スレスレでおれの体がビーンと止まり、スルスル上へと持ち上げらていく。それから、カベに刀を突き立てて、それにつかまり、フック銃をカベにうっては下るというおさるさん染みた奇行を繰り返してやっと地面に足を付けた。


「コチラヒトヨシ、侵入に成功した」


 改めてあたりを見回す。そこは乳白色で異様に白い空間。ふしぎな静けさがある。明かりなんてどこにもないのに、明るい。コレは一体どうなってるんだ?


『コチラしぃな。全員が中に入ったのを確認。各員はマッピングおよびばくだんの設置を開始して』


「ヒトヨシ了かい!」

「コウイチ了かい!」

「ダイチ了かい!」

「リエカ了かい!」


 作戦が第二段階に入ったことを知らせるしぃなの言葉に全員の声がそろう。

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