ボウエイ戦線しんこう中
「みんな準備は出来てるな」
作戦実行の一時間前。移動中の軍用車両の中で俺たち十四班は円陣を組んでいた。
コウイチ、ダイチ、リエカ、しぃな。それぞれの顔を見る。お互いがお互いのことを確認する。これからやるのは危険な仕事だ。この胞子じごくのような世界で自由に動き回れるおれたちにしかできない仕事だ。ほかの誰も代わってなんてくれない。いや、代わりがいたとしても俺はさらさらゆずる気なんてない。だってこれは俺たちの任務だ。
「十四班ファイト――! 」
班長らしくかけ声をかける。
「オー!」
みんなの声がそろった。もうこれで逃げ場はない。いまさらおくびょう風に吹かれたって遅いのだ。
「お前ら、そろそろつくぞ」
運転席から
言葉の通り車は少ししてから止まった。
ドアを開けて外へと出る。高く晴れた空がまぶしい。外に作られた急造の作戦司令部。大人たちはあっちこっちに動き回る。もちろんみんな防ご用のマスクを装着している。その中で一番大きなテントへと向かう。
テントの下には大きな機材が置いてあり、動作を確認している大人たちとそれからマスクで顔を覆った
「第十四作戦班現着しました!」
全員そろって敬礼し、よしと言われてから敬礼を解く。
「全員今回の作戦は頭に入っているな?」
きりっとした
「四方向から敵内部にしん入して、内部構造を調べつつ爆弾を仕掛け、すべて終わったら脱出して起ばく」
「よろしい。今回の任務は重大だ、この胞子の舞う中でも自由に動ける君たちに全てが掛かっている。失敗すればここまで押し上げた最前線基地を失うことになる、心してかかれ」
「はい!」
声をそろえてもう一度敬礼する。
それだけを伝えると先生はその場をあとにする。背中を見送って、しぃな以外の四人で最後の装備点検をするために別のテントへ向かう。しぃなはこの場に残って、この大きな機材と最終調整だ。
コウイチとダイチは武器が大量に詰んである車へ、俺とリエカは
「おう、中に装備出してあるから、あとは自分でやんな」
もどってきた俺たちに
ありがとうございます!
「その、いつも、ありがとう……! 感謝してるわよ!」
珍しくリエカが
「ははは、珍しいこともあるもんだ。だが、気負いすぎるなよ」
「わ、分かってるわよ、このあたしに抜かりなんてあるはずないじゃない!」
照れてるらしく、謎の捨て台詞と共にリエカは車のドアを出来る限り乱ぼうに開けたみたいだ。
「寺島班長、いや仁理、班長のお前がみんなの頼りだからな、ほかのやつらの手本になってやれよ」
リエカを追いかけて後ろに乗り込もうとしたおれの背中を
「分かってます。任せといてください!」
グッと拳をにぎって
SデザートSHI-Kを一度ばらして、つまりやバネの具合を確かめ、中からススをはらい、元に戻す。今回使う粘土状のばくだんを丁寧にバッグパックにつめる。今回はそれ以外のばくはつ物は使えない。設置したばくだんに万が一引火したりすると作戦がおじゃんになるからだ。ふだんとは量が逆転した通常弾倉と発火弾倉を装備する。一応、フック銃と固定用のバンド、それからピアノ線の先につけるられるナイフ型の補助アタッチメントもベルトのホルスターに下げる。ついでに意味があるかどうかは分からないけど、手りゅう弾の代わりにフラッシュグレネードを二つ装備しておく、が使えるとも思えない。なぜならば、キノコ怪人がどうやって世界を認識しているのかが全く謎だからだ。
最後に今回のおれの相ぼうになる日本刀をさやから抜いて刀身を確認し、それから車の外に出て柄をにぎりこんで構えを作る。木刀よりもにぎり易かった。急ごしらえではあるけどおれの手の型を取って専用のグリップを仕込んでもらったのだ。ベルトに追加されたさや止めに刀を入れる。準備は完ぺきだ。
ぐるっと肩を回してそれから車の中のリエカへと振り返った。
「なんだそれ?」
俺と同じように銃をばらしていたリエカは何故かメガネをかけていた。メガネをかけて右手につけた通信用デバイスをガチャガチャといじっている。
「通信の確認してるのよ。ジーチャン班長もこれ着けて」
ぽーんとやたらカッコいいサングラスを投げてよこす。受け取ったおれは取りあえずそれを身に着ける。サングラスを付けるのなんて初めてだった。
「意外に暗くないな」
「右のツルに小さいボタンあるでしょ、それ押して」
感想はスルーされた。仕方がないのでリエカの言うとおりにする。
ぷつっ、と一瞬サングラスごしの視界がゆれた。軽くノイズが走って、それからサングラスの上にいくつかの情報が表示される。気温や湿度、風向きや今の時間などの情報だった。しかしそれがずっと表示され続けるのはじゃまっ気だと思った。
「そのサングラスは透過撮影デバイスって言って、あんたの見てる景色をそのまま親機に送信するモノよ。これで内部のマッピングをして、最適な場所にばくだんをしかけるわ」
「なるほど、でもこの表示消せないのか?」
「左のツルのボタンを押せば時間以外は消えるわよ」
押してみた。確かにきれいさっぱり消えた。左上に時間表示だけが残る。
リエカは右手のデバイスの画面をじぃと見つめている。
「ちょっとその辺歩いて来てみて」
言われるままに車から降りてあっちこっち空を見る。
「うん、接続良好ね。もういいわよ、ありがと」
おれはサングラスを付けたままで振り返ると、とりあえず親指を立てておく。車から降りてきたリエカがおれの横に並ぶ。
「お待たせみんなー」
コウイチがダイチといっしょに手を振ってこっちに戻ってきた。二人とも肩から見慣れない大きなバッグを背負っている、あの中に武器が一通り入ってるのだろう。
四人そろったおれたちはまた車に乗り込む。
「準備は良いみたいだな。それじゃ行くぞ!」
「はい!」
最前線に設営された基地からさらに車で進む。この先はあの超巨大キノコ怪人の影響で空気中の胞子濃度がさらに高くなっているらしく、防ご用のマスクをつけていても
そんな危険な中なのに
「二人ともこのサングラスをつけてくれ」
「これは? ヒトヨシくんもつけてるけど……?」
情報送信用のメガネ型デバイスを二人にわたす。ダイチのはおれと同じサングラスタイプで、コウイチのはリエカのと似ているメガネタイプだ。
「情報通信用の撮えいデバイスよ。着けたら右のツルのボタンを押して、情報表示が邪魔なら左のツルのボタンを押せば消えるわ」
装備を付けた二人はそろって「おお!」と声上げていた。
「ねぇ、そういえばヒトヨシくん?」
「なんだ? 作戦の確認なら……」
新装備に一しきりおどろき終えたコウイチがちょんちょんとおれの肩をつついてきた。
「いや、そうじゃなくって、ヒトヨシくんのその刀って名前あるのかなって、思ってさ」
「なに? アンタ、ものに名前付ける人なの?」
コウイチの言葉にリエカがいぶかしむような表情をした。
「いやいや、銃にだって型番とか名前とかついてるでしょ? だったら刀にだってついてるのかなって思ってさ」
「そう言われればそうねぇ」
リエカは反論に納得した様子でうでを組む。
「名前っていうか、銘はあるよ。キノコ切ミライ」
おれはさやから刀身をわずかに抜いて、手元近くに彫り込まれた銘を見せる。
「へえ、キノコを切って未来を切り開く、みたいで格好いいね」
のぞきこんだダイチが感心したように声を出す。
「そろそろ着くぞ、俺は長居できねぇからな」
「了かい!」
がたんと一度大きく車がゆれた。それから
ちっ、という小さな舌打ちが聞こえた気がした。
「お前らつかまってろ!」
ギャリギャリギャリギャリ! とブレーキ音がひびく。まどから外を見ればキノコ怪人の群れがわらわらしていた。
俺たちは車が止まるのと同時にバンっ! とドアを開いて転がるように外へと飛び出す。
「各員配置に着け!」
キノコ怪人の前に踊りだしたおれは大声で叫ぶ。コウイチが、ダイチが、リエカが、車から続いて飛び出してくる。
「ここからは俺たちの仕事だ! こいつらを蹴散らして進むぞ!」
「了かい!」
そしてキノコ怪人へと先制攻げきをしようとしたその時、後ろから煙と共に何かが発射された。
振り返ると、車のドアを開けた
「援護は期待するなよぉ!」
続けて、別のランチャーを取り出してもう一発うつ。だが、それで弾は打ち止めらしい。
「任せてください!」
キノコ怪人の一団がドカンっ! とばく発した。火の手が上がる。ばたんと車のドアが閉まる音がして、それからエンジン音がなる。
燃えるキノコ怪人の群れの中を突っ切るために火の中へ向かって走り出す。
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