第61話 神社の境内にて
歩美のヤラカシで縦ロール榎本が特大のダメージを食らった翌日の放課後、重徳たちAクラスの面々は第8ダンジョン部の部室へと向かっている。その途中歩美が重徳に向かって…
「あのう… ノリ君、やっぱり榎本さんにきちんとお詫びしたほうがいいですよね。あんなことになった原因は私にありますし…」
どうやら歩美は昨日自分のウッカリで周囲に迷惑… ことに縦ロール榎本に女子の尊厳を丸ごと叩き潰すような大恥をかかせてしまった件を心から反省しているよう。だが重徳の反応は…
「歩美、その件はなるべく触れないでいたほうがいいと思うぞ」
「えっ、でも私の責任ですし…」
「いや、人間誰しも触れてほしくない黒歴史が存在するんだ。ここは敢えて何も見なかったフリをするのが賢明だと思う」
「そうですか… わかりました。ノリ君の言う通りにします」
ひとまず歩美が納得した表情なのでこの件はお仕舞となる。だが横から梓が…
「歩美、そもそも昨日呼び出した怪物は何なんだ? 私でさえも体が震えて一歩も動けなくなってしまったぞ」
「ああ、そうでした。梓ちゃんたちにはまだ何もお知らせしていなかったんですよね。あれは私が使役する式神零式です。お父さんが作ってくれた呪符で召喚できるんですよ」
「あれが式神なのか… 陰陽師が登場する物語の中の存在かと思っていたけど、まさか実在するとは思わなかったな。歩美はいつの間にそんな大そうなモノを操れるようになったんだ?」
「これでも一応神社の娘ですから、小さい頃からお父さんに習って色々と修業はしていたんです。ここ最近になってようやくちょっとだけ術が使えるようになってきました」
「そうなのか。私からすると子供の頃から遊び場にしていた近所の神社だけど、歩美のお父さんはスゴイ力があったんだな」
梓は歩美と幼馴染みとはいえ、その父親が現役最強の陰陽師だという話は聞かされてこなかったらしい。そのおかげで今回の事件が発生するまで普通の神社の神主だと思い込んでいたよう。
とまあこのような話をしながら部室へと入っていくと、そこには真由美先輩とアリス先輩二人の姿があるだけ。
「あれ? 真由美先輩とアリス先輩だけしかいないんですか?」
「ああ、他の2年生はクラスで何かやっているみたいだ。今のところは私たちだけだよ」
二人の先輩に挨拶を済ませると重徳たちは思い思いの席に着く。するとドアが開いて部室に入ってくる楓の姿が。
「皆さんこんにちは。先輩方、お疲れ様です」
と言いつつ当然のような表情でロリ長の隣に腰掛けている。だが重徳の目からするとなんだか普段と様子が違う。少々頭を巡らせて考えていると、ようやく彼が感じた違和感の原因に気付いたよう。
「桐山さん、今日はひとりなの?」
今まで楓が部室にやってくるときは必ずと言っていいほどその隣には縦ロール榎本がいたのだが、今日に限ってはなぜか彼女ひとり。それが違和感の原因だと重徳はようやく気付いたらしい。
「え~と… 小夏は今日欠席なんです。午前中にラインを送ってみたんですけど、まだ返事が返ってきません」
楓は昨日の縦ロール榎本の大失態を直接目撃したわけではないので、詳しい事情は聞かされていない。それよりも気になるのはあの縦ロールが欠席という点。もしかして精神的ショックで学院を休んでいるというのか? そして仲のいい楓に返信も出来ないほど落ち込んでいるというのだろうか? そんな疑問が重徳の脳裏をよぎるが、彼が何かを言い出す前に反応したのは他ならぬ歩美。
「それは大変です! やはり榎本さんがお休みした原因は私ですよね。ここはメッセージでキッチリとお詫びをしないと」
などと言いつつスマホを取り出している。歩美の意図を察した重徳は、彼女がグループラインを開く前にその手を抑えている。
「歩美、絶対にヤメるんだ。今縦ロール榎本にメッセージを送るのは傷口に塩… いやハバネロ入りのラー油を擦り込むようなものだぞ」
確かに重徳の言葉には一理ある。落ち込んで学院を欠席しているところにラインで追撃などという行為は、縦ロール榎本の精神にトドメを刺しかねない。ふと梓のほうを見ると「トドメを刺してやれ」という意味合いの光を少しだけ湛えているような気もしないではないが、重徳は敢えて無視する。するとそこに横から声が…
「そうね、榎本さんも色々とショックだろうし、ここはそっとしておいてあげましょう」
とっても優しい声で発言するのはアリス先輩。彼女は自分の小さな失敗を縦ロール榎本を隠れ蓑にすることでなかったことにしている。世の中バレなければ何とかなるといういい見本かもしれない。さらに追加で真由美先輩が…
「いい、榎本さんが戻ってきても絶対に例の件は口外禁止よ。何事もなかった風で温かく迎えましょう」
全員に釘を刺している。せっかく入部してくれたのに、こんなことでヤメられてはいけないという部長としての使命感が働いたモノかもしれない。
ともあれ本日はダンジョンに入る予定ではないので、その場で解散。重徳はカレンとの約束があるので、大急ぎで自宅に戻ってダンジョンに向かうことになっている。ということでもっと何かを喋りたげな歩美に断腸の思いで手を振って、義人を引き連れて帰宅する重徳であった。
◇◇◇◇◇
この週は何事もなく過ぎていく。学院を欠席した縦ロール榎本は翌日にはまったく何事もなかったように部室に顔を出し、恐るべき鋼のメンタルで梓に迫るといういつもの光景を繰り広げていた。やはりあの時の梓の「トドメを刺してしまえ」という視線は実は正解だったのかもしれない。
そして5月の第3週を迎えた水曜日。昼食時に歩美が一緒に食事をしている全員に向かって話を切り出す。
「皆さん、すみません。実は私は明日と明後日は学院を欠席させてもらいます」
「ああ、そうか。もうそんな時期なんだな」
梓が訳知り顔で返事をしているが、重徳には一体何があるのかサッパリ理解できないよう。もしかして大きな病気とか、親戚の不幸とか、そんなマイナスの考えが頭に浮かんで心配そうな表情を歩美に向けている。
「ノリ君、そんな心配しなくても大丈夫です。実は次の土日はウチの神社の例大祭なんです。私はその準備のために2日間学院をお休みさせてもらうだけですから」
「なんだ、そうだったのか」
重徳としてはホッと一安心。確か以前に歩美から「5月の3週目に例大祭がある」とは聞いていたものの、ついつい頭の中からすっかり抜け落ちていたよう。その点梓は歩美との付き合いが長い分、この時期に例大祭があるという事情にすぐにピンときている。
「皆さんもぜひとも例大祭に遊びに来てください。屋台もいっぱい出ますし、とっても賑やかですよ」
「そうなんだ。だったらせっかくだしみんなで行ってみようか」
「師匠、自分は師匠の行くところだったらどこでも喜んでお供するッス」
「フッ、人間共が神に祈る場など我に相応しいとは思わぬが、我が同胞がそこまで言うのであらば顔を出さなくもない」
「義人君、通訳をお願いします」
「たぶん喜んで行くと言っているッス」
これまで春香の厨2言語の通訳はもっぱら重徳が務めていたが、あまりに面倒なのでここ最近義人に丸投げ状態。義人も厨2の沼にドップリと両足を浸かっていただけあって、春香が言わんとしている内容を正確に理解している。それにしても厨2病患者というのはどうしてこうも回りクドイ物言いしかできないのだろうか。
ともあれどうやら全員前向きに捉えている感触なので、歩美はさらに追加して…
「実は日曜日の夜に私が奉納神楽を舞う予定なんです。皆さんにも見ていただきたいので、どうせでしたら日曜日に来ていただけないでしょうか」
「歩美、そもそも私は近所だから土曜日も顔を出すぞ」
「梓ちゃんハナッから屋台巡りが目的ですよね」
「もちろんだ。チョコバナナとタコ焼きはお祭りには欠かせない必須アイテムだからな」
色気よりも食い気が最優先の梓らしいセリフ。その他にも焼き鳥と焼きトウモロコシ、ジャンボフランク、大判焼き、ソフトクリーム、りんご飴等々、屋台に並ぶ美味しそうな食べ物を全制覇する勢いで照準を定めているのは言うまでもない。
「それから信長君、今日が最後になりますが、どうかよろしくお願いします」
「もちろんだよ。先週と比べてひとつひとつの動きに優雅さが増しているから僕としても教え甲斐があるよ」
「歩美、信長に何を教わっているんだ?」
重徳としては警戒感を抱かずにはいられない。何しろこのロリ長という人物は重徳の中でとんでもない変態扱いなのだから。
「ノリ君、実は先週から放課後に舞のアドバイスを信長君にしてもらっているんです。おかげさまでだいぶ上達しました」
「ああ、そういうことだったのか」
重徳としては一安心。こう見えてもロリ長は幼い頃から本格的に舞踊を習ってきたいわば専門家。歩美の奉納神楽が上達するように一役買っているらしい。ここで重徳が何かに気付いたように…
「せっかくだからダンジョン部のメンバーも一緒に祭りに行くのはどうだろう。先輩たちも誘って」
「うん、いいんじゃないかな」
ロリ長は諸手を挙げて賛成している。どうせロクな企みではないのは明白だが、せっかくのお祭りだから人数は多いほうがいいに決まっている。梓ひとりが縦ロール榎本の顔を思い浮かべてやや引き気味な表情。心の中でダンジョン部とは別行動で屋台巡りを楽しむ方向に作戦を変更しているよう。
ということでこの日の放課後は重徳、、歩美、梓、ロリ長、彩夏、康代というメンバーで御中神社へと向かう。せっかくなので歩美の練習風景を見学させてもらおうという目的でAクラスの面々だけが参加となっている。ちなみに義人はそのままひとりで四條流の道場に行くので不在。春香もわざわざ放課後に出掛けるのは面倒だと言って自宅に帰っている。
六人で駅に向かう道を歩いていると、重徳とロリ長がアイコンタクトで頷き合っている。
「ノリ君、一体どうしたんですか?」
重徳の隣を歩いている歩美は、どうやら彼の奇妙な行動に違和感を覚えたよう。
「いや、気にしても仕方がないんだけど、俺たちを尾行している人間がいるんだよ」
「えっ、尾行ですか? この前みたいにまた変な人たちが私たちを襲おうとしているとかですか?」
「いや、そうそうあんなヤクザ連中に後を付けられることなんてないよ。今回の尾行者は学院の生徒だ」
「ええぇぇぇ! 一体どなたが私たちを尾行するんですか?」
「歩美、ちょっと声が大きいぞ。向こうに勘付かれるだろう」
「そうでした。すみません」
「ひとまずは何も気づかないフリでこのまま歩くんだ」
ということで、いかにも他愛もない話をする風を装って一同は駅に向かう舗道を歩いていく。
そしてそのまま駅に入って改札を過ぎた辺りで立ち話を開始。そのまま少しだけ時間を潰しつつ、重徳とロリ長は尾行者の様子を横目で窺う。そして間もなく電車がホームに入ってくるというタイミングで全員が脱兎のごとく階段を駆け下りて電車に飛び乗る。
六人が無事に電車に乗り込んでドアが閉じると、今降りてきたばかりの階段に視線を向ける。そこには縦ロール榎本と楓が呆然とした表情で立ち尽くす光景が飛び込んでくるのであった。
◇◇◇◇◇
「上手く撒けたようだな」
「楓さんにはちょっと申し訳ないけど、練習の邪魔はされたくないからね」
珍しくロリ長が公私の区別をキッチリとつけている。もちろん舞の練習の邪魔になるのは楓ではない。断じてないはず。もうひとりのほうが何かと厄介を引き起こすと相場が決まっている。残り少ない練習の機会を縦ロール榎本に邪魔されないように、こうして彼女たちを上手く撒いて電車に乗り込んだという次第。今頃ホームに取り残された二人の悔しそうな表情が目に浮かんでくる。
そのまま電車に揺られて二駅。御中神社の最寄り駅で一同は降りていく。歩美と梓にとっては毎日通学する道なのでスタスタ歩いていくのは当然として、重徳も何度か訪れた勝手知ったる道のりなので道順に迷いはない。おそらくロリ長も何度かやってきているので、ある程度は見知った道なのだろう。だが彩夏と康代までがすでに何度も来ている様子で歩いているのが重徳にとってはちょっと意外に映る。
15分ほど歩くと神社に到着。重徳と梓は境内が見渡せる縁側に腰を下ろしているが、他の面々は社務所の中へと消えていく。しばらくすると本殿と社務所を繋いでいる屋根付きの渡り廊下に四人が姿を現す。ロリ長は制服のままだが、歩美、彩夏、康代の3名は緋袴に白衣姿で髪をキッチリと結って奉書紙で巻いてある。この光景に重徳はちょっとビックリ。
「二宮さん、歩美が巫女装束なのはわかるけど、なんで聖女の二人まで同じ格好をしているんだ?」
「ああ、彩夏と康代の二人は歩美のお父さんにスカウトされたんだよ。奉納の舞は元々10人の巫女で行うものなんだけど、今まで巫女役を務めていた氏子の若い女性が就職や結婚なんかで地元を離れてしまって人数が足りなくなったらしい。そこであの二人に声が掛かったんだ。私も『ぜひ巫女役に』と言われたんだが、そんなガラじゃないから断ったよ」
「なるほど、そういう理由があったんですか」
歩美のお父さんも色々と苦労が絶えないんだなぁ~… などという感慨を抱いている重徳。それとは別に、渡り廊下を歩いていた歩美たちは神楽殿に入ると姿が見えなくなる。それもそのはずでまだ設営が完全に終わっていない神楽殿は周囲をブルーシートで覆われており、内部の様子が外からはまったく見えないようになっている。
そのまま重徳と梓が縁側に佇んでいると神楽殿から荘厳な雅楽の音色が響いて、時折ロリ長の声も聞こえてくる。どうやら練習を開始してまだ日が浅い彩夏と康代に色々とアドバイスを送っているよう。
内部の様子は聞こえてくる音でしかわからないが、想像よりもはるかに熱のこもった練習が行われている様子が伝わてくる。重徳と梓は縁側に座ったままその様子をボーっとしたままで聞いているだけ。
しばらくそのまま無言で縁側に座っている二人だが、ふと本殿に目を向けると賽銭箱の前に小さな人影が二つあることに気付く。重徳には見覚えのない10歳前後の女の子と小学校に入るか入らないかの男の子の姿。おそらくこの二人は姉弟なのだろう。小さな手を合わせて熱心に神様に頼みごとをしている様子は、見ているだけでなんだか微笑ましくなってくる。
かなり長い時間本殿の前で手を合わせる姉弟だが、その二人の姿を見つめる梓にはなんだか見覚えがあるような表情。しばらくすると入り口の鳥居のほうから別の人影と二人を呼ぶ声が飛び込んでくる。
「おーい、二人とも神社に行くならちゃんと私にひと言言ってくれないと心配するでしょう」
その人影はどうやら姉弟のさらに年上の姉らしい。中学校の制服姿で本殿に向かって歩いていくる。だがそれよりも重徳を驚かせたは、縁側に座っている梓の行動。彼女は本殿に向かって歩く女子中学生に向かって大きな声をあげる。
「圭子、久しぶりだな」
「あれっ、梓先輩じゃないですか」
どうやら圭子という名の中学生と梓は知り合いだったよう。ここは梓の地元なのでこうして顔見知りがいたとしてもなんら不思議でもなんでもない。
梓に向かってペコリと挨拶した圭子は参拝を終えた幼い妹弟の手を引いて重徳たちの前にやってくる。重徳が三人の姉弟をよくよく観察すると、制服姿の圭子はまだしも下の二人が身にまとう服はずいぶんと着古しており、所々にほつれや縫い直した形跡が見られる。
「圭子、久しぶりだな。よかったらそこに座らないか」
「えっ、でもお隣にいるのは梓先輩の彼氏さんじゃないんですか? お邪魔したらなんだか悪いですよ」
「圭子、冗談は休み休み言うもんだぞ。こんなセクハラ大魔王が私の彼氏なんて、それは一体どんな悪夢だ。どっちかというとコイツは歩美の彼氏だ」
「ああ、歩美先輩の彼氏さんですか。私は滝川圭子です。こっちが妹の明子でこっちが弟の陽太です」
「どうも初めまして。四條重徳です」
「えっ、四條って、もしかして四條流の人ですか?」
「まあそうだけど。なんで知ってるの?」
「実は私、ちょっと前まで空手の道場に通っていて、そこの師範が『この辺で最強は四條流で間違いない』って言っていたんです」
「ああ、そういうことか。まあウチのジイさんが最強なのは否定できないけど、どこにでもある普通の道場だよ」
なにが「普通の道場」だというのだろうか? ジジイのレベル3600を筆頭にして重徳以下の門弟たちでさえレベル100クラスがゴロゴロいるなんて状況は、最強以外の言葉が思いつかない。
と、ここで梓が何かに気付いたように声をあげる。
「圭子、今『空手をやっていた』といったな。もしかしてヤメてしまったのか?」
「はい、実はウチの父親がとんでもないロクでなしで、酒に溺れた挙句に借金を残して蒸発したんです。母親はその返済のために毎日身を粉にして働いて、それで肉体的にも精神的にも参ってしまって今寝込んでいるんです。私は妹や弟の面倒をみるために空手はヤメました」
「そうか… そんな事情があったのか。あれだけ熱心に取り組んでいた空手をヤメるなんて、なんだかもったいないな。それよりも、なんで蒸発してしまった父親の借金をお前たちが返さないといけないんだ?」
「それがタチの悪いところの借金で、暴力団の名前を出して脅かしてくるから逆らえなくて…」
重徳にも何となく事情が察せられてくる。要はアコギな借金取りにいわれのない返済を迫られて生活苦に喘いでいるという話のよう。話の流れが掴めてきた重徳は、ここである提案をする。
「もしかしたらその借金はチャラに出来るかもしれないけど、もっと詳しい話を聞けせてもらえるかな」
「えっ、でも相手は暴力団の名前まで出して脅してくるヤツらですよ」
「四條、いくら何でも相手が暴力団絡みというのはマズいんじゃないのか?」
圭子と梓が心配そうに尋ねてくるが、重徳はまったく心配はいらないという表情で首を横に振る。
「大丈夫だよ。四條流に掛かればヤクザなんて幼稚園児と同レベルだから。まあ大船に乗ったつもりで任せておけばいいよ」
胸を張って答える重徳に対して、今度は意外な方向から声が掛かる。
「お兄ちゃん、本当にお母さんを怖いおじさんたちから助けてくれるの?」
不安そうに切り出すのは圭子の妹の明子。実はこの幼い二人は母親が早く元気になるように神様にお願いしに神社に来ていたよう。そこに偶然重徳が居合わせたのは、もしかしたら本当に神様の計らいかもしれない。
「ああ、このお兄さんに任せなさい。怖いおじさんたちが今後一切お母さんに近づかないようにキッチリとオハナシしてあげるから」
明子に向ける重徳の表情は限りなく優しい。だがその心の中では、幼い子供にまで辛い生活を負わせる連中に天誅を下すという固い決意が湧き起こっている。対して明子の目に映る重徳はまるで救いをもたらす神様の使いのよう。キラッキラの瞳で重徳を見つめている。ということで聞き取り再開。
「それで、次の取り立てはいつなんだ?」
「明後日の予定です」
「よしわかった。明後日取り立てに来た連中を締め上げてから、連中の事務所に乗り込むぞ」
「四條、本当にやるつもりなのか?」
「ここまで話を聞いておいて、見て見ぬフリはできないだろう」
「歩美がいつもお前を止める気持ちがなんとなくわかってきたぞ」
梓さえも呆れる重徳の暴走ぶり。だがすでにこの時、彼の脳内ではあこぎな闇金業者をキッチリと型に嵌め込む算段が出来上がりつつある。
「それじゃあ、明後日の放課後に色々と準備をして家に行くから待っててくれな」
「お兄ちゃん、本当に来てくれるの?」
「もちろんだよ。味方も何人か連れていくけどビックリしないでいてくれよな」
「お兄ちゃん、約束だよ。絶対にお母さんを助けてね」
「ああ、約束する」
重徳は明子を指切りを交わしている。その様子を一体どうしたものかと不安げに見つめる梓と思いっ切り迷惑をかけてしまったと後悔する表情の圭子の姿がそこにはあった。
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歩美の練習の付き添いで御中神社に顔を出したまではいいが、そこで思わぬ梓の後輩との出会い。そして彼女たち姉弟が置かれている苦境を知り手を貸す決心をした重徳。果たしてどのような成り行きになるのか、姉弟は本当に借金苦から救われるのか… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!
「面白い」「続きが早く読みたい」「重徳は人が良さ過ぎ」
などと感じていただいた方は、是非とも☆☆☆での評価やフォロー、応援コメントへのご協力をお願いします!
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