第48話 聖女たちのダンジョン


 翌日の午前、重徳たち1年生は実技実習の時間でいつものように演習場で訓練を行っている。だがこの場に歩美の姿はない。彼女は予定通り本日は丸1日ダンジョンで訓練を行う聖女たちと一緒に集合場所に向かっている。



「四條、お前は歩美が心配ではないのか? 平気な顔をしていつものように訓練を開始しているが、もしかしてお前は薄情者なのか?」


「二宮さん、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。付き添いの教員と3年生の先輩が引率してくれるんですから。それにダンジョンとはいっても1階層だったら、出てくる魔物はゴブリン程度で大した危険はないです」


「そうなのか。私はまだダンジョンに入ったことがないから、全ての場所が危険に満ち溢れているように感じるんだが」


「もちろん俺も内部がどうなっているかは魔物図鑑で調べた程度ですが、その辺は慣れの問題じゃないですかね。もっとも慣れたら慣れたなりに危険があるから油断はできないんだろうけど」


 誰でも未知の場所に足を踏み込むのは不安が付きまとう。いくら勇者といえども梓がこれからダンジョンに向かう歩美の心配をする気持ちはわからないでもない。


 とはいえ1階層でも最も安全なホールで午前中は魔法の練習。そして午後は付き添いの先輩パーティーの後ろについてゴブリン討伐の見学の予定となっている。もちろんこの間に午前中に練習で消費した魔力の補充も併せて行うという、どこから見ても危険度Fランクの今回のミッション。


 そして今回は初めてダンジョンに入る聖女たちのために3年生の先輩聖女がマンツーマンで指導に当たる。先輩たちは魔法の使い方だけではなくて、ダンジョン内での行動で注意すべきことなども併せて教えてくれる予定となっている。


 更に貴重な聖女を守るために3年生から選抜された勇者と聖騎士や戦士が総勢40人護衛に付く万全の護衛態勢が整えられている。これだけ厳重なガード役が用意されていればそうそう危険があるとは思えない。歩美には心置きなく初のダンジョンをその目で確かめてもらいたいと願っている重徳。とここで…



「師匠、体が解れて来たので一手付き合って欲しいッス」


「義人、いい覚悟だ! 軽く揉んでやるぞ」


 こうして重徳たちはいつものように訓練を開始するのだった。






 一方その頃、校門の付近に集合している聖女たちは…



「いよいよ初のダンジョンね。ちょっと緊張してきたわ」


「どんな魔法を練習するのか楽しみね」


「今日は体内に魔力を取り込むのがメインと聞いているわ。あとは先輩のお手本を見ながら初級の回復魔法をちょっとだけ練習すればお仕舞らしいの」


「さすがは情報通の康代ね。確かに魔力がないと魔法は使えないから、できるだけ満タンになるまで取り込まないとね」


 いつもは口さがないクラスの聖女たちも初のダンジョン行きを目の前にして真剣な表情をしている。その中でただひとり聖女に混ざっている歩美はポツンと集団から離れたまま。とはいえこれから初めて足を踏み込むダンジョンという場所がどのようなモノななのか好奇心めいた気持ちは持ち合せている。その時…


「1年生の聖女たちは2人1組になってくれ。そこに3年生の聖女2名と護衛役の男子生徒が入って臨時のパーティーを組むんだ」


 指導教官の指示が飛ぶが、これには歩美がちょっと困り顔。「果たして自分とパーティーを組んでくれるクラスメートが居るのだろうか?」と困惑した表情を浮かべている。何しろ歩美自身、聖女の皆さんとは入学以来1ヶ月間ほとんど会話を交わしたことがない。本人的にはかなり悲しい出来事だと言えるが、聖女たちは歩美がそこにいても誰もいないかのように無視を決め込んでいる。まあこれもエリートの中に偶然紛れ込んでしまった一般人の悲哀とでもいうべきなのだろうか。


 おそらく歩美自身、梓や重徳が居なかったらこんな状況に我慢が出来なかったかも知れない。だが今は毎日一緒に居る仲間や部活の先輩たちに囲まれて結構充実した日々を送っており、おまけに重徳とも仲良くなってこれ以上ないほどの幸せ気分を味わっている。しかも初めて恋した男の子が常に一緒に居てくれて守ってくれるのだから、これ以上贅沢を言ったら罰が当たるくらいに考えていそう。


 とはいっても現状クラスの聖女たちは誰も歩美に声を掛けようともしない。むしろ「無職の一般人とパーティーを組むくらいだったらひとりのほうがマシ」くらいに考えていそう。どうすればいいのかと考えあぐねている歩美。だが彼女の背後から突然声が掛かる。



「よかったら私とペアになってもらえないか?」


「えっ、あ、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」


 予期せぬ誘いに歩美は戸惑いながらも、せっかくの好意を受け取ろうと決めたよう。



「私は上条彩夏だ。今まであまり話をしたことはなかったんだけど、最近の君たちの活躍ぶりには注目していたんだ。よろしく頼む」


「鴨川歩美です。でも本当に私でいいんですか?」


「ああ、ロクでもない聖女たちと一緒に組むくらいなら鴨川さんと一緒の方が得るモノが多いはずだ」


「ありがとうございます。こうして聖女の方とまともにお話をするのは初めてです」


 なんだか嬉しくなってくる歩美。同時にクラスの女子にもこんな人が居たんだと知ってちょっとビックリしている様子も窺える。雰囲気が梓とちょっとだけ似ていて、たぶんサッパリとした気性の人物なのではなどと感じている。ひょっとしたらこれからも仲良く出来そうな淡い期待も… するとそこへ3年生の先輩たちがやって来る。



「今日1日このパーティーで一緒にダンジョンに入るぞ。俺は勇者の近藤だ」


「よろしくね、聖女の安藤よ」


「同じく、足立です」


「剣士の富永だ」


 先輩たちが自己紹介をしてくれるので、歩美たちも挨拶がてら自己紹介。



「聖女の上条です。どうぞよろしくお願いします」


「一般人の鴨川です。足手まといにならないようにします」


 歩美が一般人と聞いて先輩方は一瞬戸惑った表情を浮かべるが、すぐに元の落ち着いた態度を取り戻す。クラスの生徒とは違って歩美に対して馬鹿にするような態度も見受けられない。



「一般人だろうが何だろうがダンジョンに入ったら出来ることをしてもらう。それがパーティーというものだからな」


 近藤先輩の言葉はダンジョン部の先輩が歩美に言ってくれたのと同じ響きを持っている。考え方が自分たち1年生と比べて大人なのだろうか… なんてことが歩美の頭の中に浮かんでくる。歩美がちょっとだけ周囲を見渡してみると、気負い気味の1年生に比べて先輩たちからは余裕と貫禄が窺える。これがこの学園で2年間学んできた成果というものなのだろうか。だが歩美にはちょっと不思議な点が。


(確かに先輩たちは私たちよりも考え方が大人でしっかりとリードしてくれそうな雰囲気がありますが、その… なんというか単純な頼もしさだけでいったらノリ君のほうが圧倒的に上というか、この場にいる全員が束になって掛かってもノリ君ひとりに全く歯が立たないような… ああ、たぶんこれは私の贔屓目に違いないです。きっと私の目に映るノリ君が輝きすぎちゃってこんなふうに感じてしまうのでしょう)


 歩美は重徳が現在レベル100の大台に限りなく近づいているという事実をまったく知らされていない。だが本能的に感じる安心感かはたまた女の直感なのかはわからないが、現実は歩美が感じた通り。この場に集う全員が束になっても重徳に軽く一蹴されるほどのレベル差が生じている。


 そんな歩美の勝手な感想とは別に、今度は彩夏が先輩聖女に話し掛けている。



「さすがは3年生の先輩ですね。彼女が一般人と聞いて全く動じていない。それに比べてうちのクラスの聖女たちときたら」


「上条さん、それは大間違いよ。私たちも入学した当時は今の1年生と大差なかったわ。でもね、ダンジョンで命懸けの戦いを繰り返していると勇者とか聖女とかそんなものは関係なくなってくるの。パーティーが協力しないと誰かが怪我をしたり命を落とす危険があるわ。だからこそそんなどうでもいいことは横に置いて自然に協力するようになるのよ。そのうち1年生もわかってくるわ」


(さすが3年生の先輩です! ダンジョン部の先輩たちもそうでしたが、魔物と命懸けの戦いを経験した安藤先輩の言葉には含蓄があります。お互いの命を預ける本当のパーティーとはきっとそういうものなんですね。改めて私はダンジョンに入ると決断したことが間違っていなかったと思っています。だって、こんなに素晴らしい人たちと知り合いになれたんですから)


 彩夏だけでなく隣で聞いている歩美まで先輩の話に感動にも似た感情を抱く。命懸けの魔物との戦いで得た絆の重要性を改めて深く心に刻む二人。


 そうこうするうちに他の聖女たちも先輩たちとのパーティーを組み終えて自己紹介や簡単な打ち合わせ等を済ませる。


 こうして準備を整えると、引率の教官の後を付いてダンジョンに向かって出発。


(冒険者登録をした時に入り口のゲートまで見学をしましたが、いよいよ内部に入るのかと思うと身が引き締まる思いですね)


 そして歩美は登録カードをゲートの改札のようになっているセンサーに押し当てて内部に踏み込みんでいく。



「なんとも言えない不思議な空間だな」


「本当にここが別世界なんだと感じますね。ダンジョン部の先輩が言っていたとおりです」


「鴨川さんはもうダンジョン部に入部しているのかい?」


「はい、3週間近く前に第8ダンジョン部に入部しました」


「そうだったんだ。もしよかったら後でその第8ダンジョン部の話を訊かせてもらえないか。雰囲気が良さそうだったら私も入部を検討したいんだ」


「それはぜひ。先輩方はとっても優しくて丁寧に色々と教えてくれます」


 なんだか彩夏が新たに第8ダンジョン部に加入する方向で話は進んでいる。新たに聖女まで入部と訊いたら、部長の真由美先輩をはじめとした2年生が望陀の涙を流して喜ぶかもしれない。


 さて初めてダンジョンの内部を目にする歩美や彩夏には、石造りの壁に囲まれた通路はその狭さゆえの圧迫感だけではなくて、ある種の神秘的なムードさえ漂わせる雰囲気にやや飲まれ気味。


(ピラミッドの内部に入るとこんな感想を持つような気がします。さすがにピラミッドには入ったことはないんですけど…)


 などとツラツラ考えながら通路を進んでいく。そして…



「しばらく通路を進むと広くなっている場所がある。そこに全員が集結する予定だ」


 即席パーティーのリーダーを務める近藤が先頭に立って通路を進む。行動予定がしっかりと頭に入っているのは頼もしい限り。さすがは勇者といえよう。歩美たちのパーティーはまだ魔物とは遭遇していないが、用心して周囲に注意を払う様子が伺える。しかし結局歩美たちは1体の魔物も出会わずに集合地点に到着。もっとも入り口からホールに至る通路は魔物との遭遇はごく稀なポイントなので、出会ったほうが逆に不運といえなくもない。



「緊張して歩いていたけど、魔物が全然出なかったからちょっと拍子抜けした」


「上条さん、今日は安全第一で魔法の練習を始めるんだから、魔物が出ないに越したことはないのよ」


 先輩聖女の足立志野が諭すように教えている。さらに続けて…



「ダンジョンでは目的の達成が第一で魔物との戦闘は可能な限り避けるのが安全に活動する鉄則なの。だからここまで魔物と遭遇しなかったのは喜ぶべきよ」


 確かに彼女の言う通りであろう。どこかの誰かのように魔物と見るや自分から飛び掛かっていったり、さらにその人物の祖父のように罠と知りながら自ら隠し部屋に踏み込んでいくようなマネは普通の冒険者なら絶対にしないはず。


 まあそれはともかくとして、無事にすべてのパーティーがホールに集結を済ませる。



「全員集まったな。それでは3年生の指示に従って各自魔力を体に取り込んでくれ」


 点呼を取ってから教官の指示が飛ぶ。聖女たちは広場になっている中心に集まって、その周囲を教官と護衛役の3年生が取り囲んで安全を確保しながらの訓練開始。何しろダンジョンの内部にしか魔力が存在しないので、まずはこうして魔力を体に取り込まないと聖女や魔法使いは何もできない。


 歩美の隣では彩夏が先輩聖女二人から丁寧なレクチャーを受けて効率いい呼吸法を実践している。そのやり方はどうやら重徳が歩美たちに教えた方法と丸っきり同じよう。歩美も見よう見真似で魔力を取り込みつつ、折角だから体内で魔力の循環まで始める。


 ちなみに歩美が結界構築に用いているのは一般的には霊力と呼ばれている力。これは魔力とは違って地球自体が惑星の内部から生み出す自然エネルギーのようなもので、陰陽術でいうところの地脈とか竜脈に沿って地表の下を流れている。そして霊力が湧き出す場所というのは日常的に耳にするいわゆるパワースポットという箇所。もちろん歩美の自宅である御中神社も境内には霊力が湧き出すポイントが存在する。この霊力というのは魔力との親和性が高く体内で混ぜ合わせることも可能なほか、互いに代用としても使用できる。ということは歩美は日常的に魔力と似た性質をもつ霊力を体内に吸収しているので、実は今さらこの場で魔力を吸収する必要がない。


 ということもあって、重徳と父親からレクチャーされた霊力の循環を開始。軽く目を閉じて意識をおヘソの辺りに向けると自分の体内に宿る力が感じ取れてくる。これは結界術が使いこなせるようになった時点で歩美の体内でより顕著になった現象。その力をゆっくりと体内に循環させると次第に体が温かくなってくる。以前何度も繰り返した気の循環は全然上手くいかなかったが、不思議なことに歩美にとって霊力の循環はごく自然に出来る。これはおそらく力との相性とか得手不得手の問題だと考えていいだろう。


 そのまましばらく神力を循環させる練習を続けていると、先輩聖女が声を掛けてくる。



「それじゃあ、まず最初に回復魔法を体験してもらいましょうか」


「えっ、いきなり回復魔法ですか?」


 彩夏から素っ頓狂な声が上がっている。聖女が用いる魔法の中で最も高度で、なおかつもっとも汎用性が高いのがこの回復魔法。それをいきなり「体験しろ」などと言われるのは途轍もなく高いハードルのように聞こえたらしい。



「あなたが魔法を用いるんじゃないわ。被験者になってもらうのよ。鴨川さんもこちらにいらっしゃい」


 ということで3年生聖女の近くに1年生二人が集まってくる。先輩聖女は護身用の小型ナイフを取り出すと…



「これで指先に小さな傷を作って」


 いきなりとんでもない命令が下される。自分で指を傷つけろとは結構な無茶振りのように聞こえて戸惑った表情に変わる歩美と彩夏。



「そんな顔しないで。私たちの魔法で傷跡ひとつ残らないように治癒するから、怖がらずに傷をつけてみなさい」


 ここまで説明されてようやく合点がいく二人。回復魔法がどのようなモノかを身をもって知るいい機会を先輩たちが用意してくれていると気付く。両者とも薄っすら血が滲む程度の傷を指先に刻むと、その手を先輩聖女に差し出していく。



「はい、回復」


 傷付いた指先に先輩聖女が片方の手の平を翳してそこから生じる真っ白な光を浴びてしばし待っていると、あっという間に傷が塞がって傷跡自体が時間の経過とともに薄くなっていく。



「スゴイです。これが回復魔法なんですね」


「こんなに素晴らしい力だとは思わなかったな」


 歩美と彩夏は二人とも目を見張っている。手を翳してそこから生み出された光を照射するだけで傷が跡形もなく消え失せる… これこそがある意味奇跡を起こす聖女の力なのだと深い感銘を受けた様子。


 その後は午前中いっぱい和やかムードで回復魔法や神聖魔法の最も初級にあたるホーリーライトの練習などを行う。歩美はその間彩夏のサポートをしながら、熱心に見学している。大体こんな感じで午前中はマッタリムードの訓練。あまり根を詰めるとあっという間に魔力が枯渇するので、最初のうちはノンビリやっていく必要があるらしい。まあそれは当然だろう。


 そして昼の時間になって、各自が持参した昼食を荷物から取り出してパクつく。



「歩美のお弁当は豪華だなぁ~」


「実は私お料理が得意でして、今日はいつもよりも早起きして自分で作ったんです。彩夏ちゃんもこの唐揚げ食べてください」


 いつの間にか名前で呼び合う仲となっている二人。特に歩美が醸し出すホンワカムードに周囲の先輩たちもより一層和んだ表情になっている。こんな調子で昼食を終えて一休み。ただし彩夏だけは覚えたての呼吸法を用いて魔力を体に取り込む課題を課せられたまま。


 だがそんなユルイ空気は、見張り役の先輩の鋭い声で一変する。



「右手からゴブリンが3体やって来たぞ!」


「対処は任せて問題ないか?」


「ああ、問題ない」


 なんとも頼もしい先輩方の声が飛び交う。歩美の位置から見るとやって来たゴブリンは距離があるので、人影が邪魔して直接視界には入らない。とはいえ荒々しい物音はすぐに静かになったので、さほど手間もかからずにに討伐されたよう。だが今度は別の方向から声が飛ぶ。



「左側からゴブリンが4体現れたぞ!」


「正面からも3体来た!」


「右からも5体! どうも様子がおかしいぞ!」


「1階層でこんなにゴブリンがまとまって現れるなんて異常事態だ! 護衛は目の前の魔物を確実に討ち取れ! 誰か通路を戻って学園にこの事態を知らせろ!」


 剣を持った先輩たちと教官の声が飛び交う。とはいえさっきまでとは違ってその声に若干の焦燥感が混ざっているよう。「もしかしてこれは不味い事態が発生したのか?」という疑念が歩美の脳裏に浮かんでくる。



「3年生の聖女は物理障壁展開の準備をしろ! これ以上増えたらゴブリンといえども危険だ!」


 教官の指示とともに3年生の先輩聖女は果敢に勇者や剣士の背後に立つ。その表情はかなりの緊張感に包まれているのは言うまでもない。それでも日頃の訓練通りに動いている姿はさすがとしか言いようがない。



「1年生は絶対に内側から出るなよ! 障壁がある限り安全は保たれるからな」


 不安そうに顔を見合わせているクラスの生徒を元気付けるように教官の励ましの声が掛けられるが、それでも彼女たちの不安を抑えるにはどうやら不十分なよう。次々にやって来るゴブリンの姿に怯えた表情で手を取り合ったり抱き合ったりしながら、辛うじて不安を紛らわせている様子が窺える。



「ダンジョン初日からずいぶんな歓迎を受けているようだな」


「上条さんは怖くないんですか?」


「それは怖いさ。でもひとまずは障壁が張られれば安全は確保できるんだろう。その間に救援が来れば何とか助かるんじゃないかな」


「その分析は適切だと思います。問題は先輩たちの魔力がいつまで保つかですよね」


 障壁魔法は魔力を大量に使用するので、そうそう長い時間は展開出来ない。


(もしも先輩聖女たちの障壁がこれ以上維持出来なくなったら、その時は私の力で結界を展開するしかないですね。それまでに救援が来るといいんですけど一応の覚悟はしておきましょう)


 歩美は父親から結界術を大っぴらに公表するのは止められている。とはいえ現在の緊急事態を鑑みるに、そのような悠長なことは言っていられない。ひとまずは先輩たちに任せて、彼女たちがピンチに陥ったら自分も防御陣に参加しようと心に決めている。



 そうこうしている内に歩美たちの周囲は夥しいゴブリンによって取り囲まれてしまう。ゴブリンは小学生くらいの体格だが、こうして大量の数が集まると大きな脅威。これが数の暴力というものだろう。先輩聖女が展開している物理障壁を叩いたり噛み付いて牙で破ろうとしているが、そこは人数を掛けて張った障壁なので今の所はビクともする様子はない。


 それから先程学園にこの異常事態を伝えようと入り口に向かった人員はどうやら戻ってきているよう。なんでも通路にはビッシリとゴブリンがいて突破できないという報告がなされる。もちろんダンジョンの内部では携帯などは通じないので、これでこちらから外部に連絡する手段はなくなる。あとは生徒たちの帰りが遅いと心配して誰かが様子を見に来てくれるのを待つしかなさそう。



「初日からとんでもないことになったな」


「上条さん、まだ助かる手段はありますからそれ程心配しなくても大丈夫ですよ」


「ずいぶん余裕があるんだな。鴨川さんは本当に一般人なのか?」


「職業すらないんですから、どこから見ても料理が得意な一般人ですよ」


(あれ? これは昔見た映画にあったような場面ですね。シージャックされた船が危機を迎えて、偶々コックで乗り合わせていた最強のエージェントが大活躍する物語と現在のシチュエーションがなんだか似ています。料理人最強伝説でも作ってみましょうか。まあ、それは冗談です。私にはそこまでの力はありませんから。でも私にはわかります。こんなピンチに絶対に駆けつけてくれる私のスーパーヒーローがいるんです。きっとノリ君が助けてくれる。それまでは皆さんと力を合わせて絶対にこのピンチを乗り越えてみせます)


 危機に瀕しているにも拘らず、なぜか冷静な歩美。おそらく先日の拉致事件の反省から努めて冷静に振る舞おうと心掛けているのだろう。どうやらあの一件は歩美の成長に大きく役立っているよう。


 こうしていつまで続くのかもわからない聖女たちの〔対ゴブリン籠城戦〕が始まるのだった。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ダンジョンに入った初日からとんでもない洗礼にあう歩美と聖女たち。内部に取り残された彼女たちに救援の手は差し伸べられるのか…


この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


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