第46話 とある勇者の転落劇


 時間は少々巻き戻って重徳とジジイが港南昇竜会にカチコミした日の午前中、歩美の父である緑斎は神社ネットワークで調べた結果をもとにして一足先に昇竜会の本部へとやってきている。


 もちろん四條家流の実力行使とは違ってこちらはあくまでも陰陽師としての対処をするよう。懐から呪符を数枚取り出すと宙に放り投げる。どうやらその呪符は式神を召喚するモノだったようで、宙に舞い上がるとごく小さなクモの姿に形を変えて屋敷の方々に散っていく。



「これで大よその事情は知れるでしょう」


 仕掛けを施した後にたったそれだけの言葉を残して緑斎は自宅へと戻っていくのだった。






   ◇◇◇◇◇






 自宅に戻った緑斎は居住区には足を踏み込まずにそのまま拝殿へと直行する。内部に小さな結界を築くと、昇竜会の本部に放ったクモ型の式神に意識を同調させていく。すると建物の内部の様子が手に取るように緑斎の脳裏にダイレクトに伝達されてくる。しかも複数あるテレビモニターを切り替えるように、屋敷の内部に潜伏している複数の式神の目や耳を通してあらゆる箇所の情報を収集可能。


 式神たちが集めた情報によると、ひとまず午前中は特段変わった動きはなさそう。というか昨日から怪我人や頭が混乱して正常な意識を保てない組員が続出しているせいで昇竜会自体がパニックに陥っている様子が伝わってくる。


 そんな様相が一気に変化したのは午後3時過ぎ。いきなり正門横の通用口が蹴破られたかと思ったら屋敷の庭に昨日出会ったばかりの少年が出現。その様子を遠く離れて観察する緑斎の目はいきなり登場した重徳だけではなくて、その後ろに控えている人物にも興味を惹かれている様子。



「はやりそうであったか。四条厳斎殿のお孫さんとあれば、この少年がヤ〇ザ相手に互角以上に渡り合うのは当然と言えば当然」


 独り言のような呟きが結界の内部に響いているが、緑斎は脳内に流れ込んでくる情報に集中しているせいで自分の口から言葉を発している自覚もなさそう。


 そうこうしているうちに重徳に向かって組員たちが襲い掛かってくる。それを簡単に捌いて次々に地面に転がしていく様子にさすがの緑斎としてもついつい感嘆の声をあげざるを得ない。



「これは想像以上の腕前の持ち主。さすがは厳斎殿の直系というべきかな。それにしても我が娘のボーイフレンドとしては頼もしい限りではあるが、ひとりの父親としてはどこか妬ましい部分もあるな」


 娘の歩美を愛してやまない緑斎の思いがダダ洩れになっている。父親としては娘が成長して自分の手元から離れていくのが嬉しい反面、どこか素直に喜べない部分もあるのだろう。


 次に緑斎の頬が緩んだのは詫び状と風呂敷包みを重徳が受け取る場面。これで歩美が付け狙われずに済むとひと安心すると同時に神社への寄進があると聞いてホクホクしている。ひとつの神社を切り盛りしていくのも中々厳しい時代。そこにポンと大金が降ってくるのだから宮司としては喜ばしい限り。


 そんなこんなで重徳とジジイが昇竜会の本部から去っていくと、まるで魂が抜けたようにゲッソリとしている会長と若頭の姿が映像として伝わってくる。しばらくしてようやく再起動した会長が若頭に向かって…



「おい、さっきお前が言っていたのは本当か? 義和が『四條家の坊ちゃんと御中神社の娘を攫え』とお前に言ってきたというのは」


「本当です。でなきゃ見知らぬ高校生風情にわざわざ組員たちを差し向けたりしませんよ」


「クソッ、あのバカガキのせいで俺は10年以上寿命が縮まったぞ。しかも兵隊たちは大勢入院中だし、2千万もふんだくられるしでとんでもない目に遭ったじゃないか。いいか、すぐに義和を呼び出すんだ。あいつにケジメを付けさせてやる」


「わかりました。すぐにこっちに来させます」


 昇竜会全体が義和ひとりの思惑で振り回されて甚大な被害を受けているのだから、父親である会長の怒りはわからないでもない。こうして若頭は大慌てで義和に電話をかけて本部への出頭を命じるのであった。





   ◇◇◇◇◇






「そうだった。すっかり忘れていたな」


 昇竜会本部の動静を窺っていた緑斎は、重徳に呪符を預けていた件を思い出して大急ぎで義和の背中に張り付けられている盗聴用の呪符に意識を切り替える。何か事あるときに用いるように前々から時間を掛けて用意していたクモ型の式神とは違って、義和に張り付けられているのはいわば即席で創り上げた呪符。したがって音声しか拾えないが、今回の場合はそれだけで十分な機能を果たしてくれそう。ということで若頭と義和の通話を義和側の立場に立って聞き取ろうと試みる緑斎。



「なんだ、こんな時間に。今の俺は機嫌が悪いんだぞ。このクソ兄貴が」


「義和、テメーはとんでもない案件を俺に押し付けてきやがったな。おかげで組にはエライ被害が出ている。親父も激怒しているから今すぐに戻ってこい」


「あんなヘタレ親父の言うことなんざ誰が聞いてやるものか。よく聞いておけよ、クソ兄貴。あの親父が死んだら港南昇竜会は俺が跡目を継いでやる。勇者の力を持つこの俺が誰にも邪魔されずに全国のヤ〇ザの頂点に立ってやる。その時はクソ兄貴も便所掃除くらいには使ってやるから安心していろよ」


「ガキが出来もしねえ妄想を垂れ流しているんじゃねえぞ。いいか、今すぐに本部に来い。さもねえと親父はテメーと親子の縁を切るつもりだからな」


 緑斎の耳に入ってきた情報からすると、これだけで何となく高山家の家族関係というものが窺い知れてくる。元々ヤクザの組長の家庭ということで普通とは言い難いところにもってきて次男が勇者の称号を得たことが家庭的な意味で大問題に発展しているらしい。ごく一般的な常識に照らすと兄弟間で年齢が15歳も離れていたら、兄のほうが絶対的に強いはず。しかもすでに組の内部で若頭という地位を得ているとあれば、弟としては兄には中々逆らえないモノ。ところが義和は一貫して兄を下に見る態度をとり続けている。おそらくその態度の裏にあるのは「自分は誰にも負けない勇者」というプライドであろう。いや、もしかしたら最初からこのような手に負えない性格にもってきて、そこに勇者の称号が加わったせいで義和の傲慢さが助長されたのかもしれない。 


 兄弟ゲンカのような通話が会わると、緑斎の耳には義和がイライラしながら何事かを呟いている様子が伝わってくる。その大半は重徳と歩美、それから兄や父親に対する罵詈雑言。だがここで彼は聞き捨てならない言葉を残す。



「そうだ、いいことを思い付いたぞ。実家の地下には拳銃が保管してあったはず。あれを持ち出して一般人どもに突き付けて脅かしてから心行くまで甚振ってやろう」


 あろうことか拳銃を手に入れて自分の欲望のままに行動するつもりのよう。しばらくすると義和は外に出ていく。呪符を頼りに大よその位置情報を緑斎が確認すると、現在義和がいる場所は学園にほど近いワンルームマンション。おそらく通学が便利なようにここでひとり暮らしをしているのだろう。


 外に出た義和の目的はもちろん実家に戻って拳銃を手に入れることと知れている。したがって当面は移動に時間を費やすはずで、その間緑斎は根を詰めて監視をする必要がなくなる。ということで一旦結界を解除して懐からスマホを取り出すとどこかに連絡を取る。



「こちらは鴨川緑斎です。勇者の高山義和を監視していたところ、彼は実家から拳銃を持ち出そうと企てている事実が判明しました。相応の対処を開始します」


「仮にその勇者が拳銃を所持したとして、鴨川さんは大丈夫なんですか?」


「ご心配はいりませんよ。銃を突き付けられた経験は1回は2回ではありませんから」


「わかりました。こちらで早急に対応策をまとめてお知らせいたします」


「よろしくお願いします」


 緑斎の通話先はその会話の内容からしてただならぬ雰囲気を感じさせる組織のような気がしてくる。しかも勇者というフレーズを普通に受け取って対応策を検討するなど、少なくとも警察関係かそれとも別の政府組織が絡んでいるのか… ともかくこの鴨川緑斎は、歩美の父親でありながらもなんというか底知れぬ奥の深さを感じさせる人物といえよう。






   ◇◇◇◇◇






 一旦休憩を挟んで、緑斎は再び昇龍会本部の映像に切り替える。どうやら義和が到着しているようで、帰宅して早々壮絶な親子と兄弟の間での言い争いが繰り広げられている。緑斎としては家庭内の事情にはさほど興味がないので適当に流しているが、聞くに堪えない暴言の数々が飛び交っており、最終的に義和に勘当の沙汰が下される。


 そしてここからが緑斎にとっては本番というべき時間。激高した様子で玄関を飛び出た義和は、すぐに屋敷の裏手に回って勝手口から再度屋内に侵入。長年生まれ育った実家ということもあって、どこのカギが開いているのかしっかりと把握しているよう。


 だがそれよりも驚くべきは彼の現在の表情にある。つい今しがたまで激高していたのがウソのように落ち着き払って冷静に行動している。そのまま彼は家人に悟られないように気配を消して地下室へと向かう。


 緑斎があらかじめ地下に向かう階段に配置しておいた式神が足音を忍ばせて段を降りていく義和の姿を捉えている。そのまま彼は地下に降り立つと、壁の内部に埋め込まれてある仕掛けを操作してスライド式の扉のロックを解除。小部屋の内部には大型段ボールサイズの木箱が3つ並べて置いてある。そのうちのひとつの蓋を外して中から油紙に包まれた物体を取り出す。それは紛れもなくトカレフ拳銃で間違いない。さらに別の箱から銃弾が詰め込まれたマガジンを3つほどポケットに捻じ込んで、ついでにもうひとつのマガジンをトカレフの銃底にセットしている。


 ちなみにトカレフという拳銃に安全装置は存在しない。マガジンを銃に押し込んだらいつでも引き金を引いて発射オーケーという親切設計。したがって銃の本体とマガジンは常に別々に保管しなければならない。さもないと何らかのきっかけで容易に暴発する可能性がある。


 ということでマガジンがセット可能ということを確認した義和は、再び銃底からマガジンを引き抜いてポケットに捻じ込む。これで合計40発の弾丸を手にした彼は、もはや自分が無敵になったかの錯覚に問わられているような表情。そのまま足音を忍ばせて階段を上がって再び裏口から姿を消していくのだった。






   ◇◇◇◇◇






「ふむ、これはさすがに見逃せないでしょうね」


 緑斎は式神からの情報で義和がトカレフを手に入れた件を容易ならざる出来事と見做している。


 ということで彼を待ち伏せすべく位置情報の割り出しに専念。どうやら電車で現在住んでいるワンルームに戻ってくるつもりのようで、緑斎は地図を広げて待ち伏せに適している場所にアタリをつける。






 時刻は午後8時過ぎ、すっかり暗くなった住宅街を歩く義和。その前に立ちはだかるようにひとりの人物が姿を現す



「高山義和君だね」


「誰だ、テメーは」


 急に横道から姿を現した人物に義和は何とも言えない違和感を覚えている。いや、正確には周囲の状況を訝しんでいるといったほうが正しいだろう。なぜならつい今の今まで時折すれ違っていた通行人の姿が今はひとりも見当たらない。もちろんこれは緑斎によって〔人払い〕の術が効力を発揮しているせい。とはいえそんな理由を義和が知る由もないのだが…



「年上の人間にはもう少し丁寧なモノの言い方をした方がいいよ。それでは改めてご挨拶をしておこうかな。私は鴨川緑斎、君と同じクラスの鴨川歩美の父親と伝えたほうがわかりやすいかな?」


「あのアマの親父だと。俺に何の用だ?」


「おやおや、ついさっきまで実家で散々君の父上と兄上から怒られた件をもう忘れているのかな?」


「い、今さら親が出てきて文句でもつけようっていうのか?」


「ハハハハハ、これは異なことを。最初に親の力を利用して私の娘とそのボーイフレンドに手出しをしたのは君のほうではなかったかな? もっとも見事に返り討ちに遭ってその結果として君は実家から勘当されたわけだが」


 緑斎の指摘がいちいち的確過ぎる。いや、むしろ義和の痛いところを指摘しながら彼を煽っているようにも聞こえてくる。当然ながら他人から煽られるという状況に耐性のない義和は火が付いたように怒りを露にする。



「うるせぇ、テメーらが俺の計画を台無しにしやがったんだ。上手くいけば俺がクラスを、いやひいては学園全体を牛耳ることだって可能だったはずなのに、テメーらのせいですべてがパーだぜ」


「君の計画など私にとってはどうでもいいさ。娘の安全が保たれれば文句は言わないよ。さて、それでは本題に入ろうかな。君のカバンの中にある物騒なモノを渡してもらおう」


「な、なんで知っているんだ!」


 これはもう白状したも同然という状況に義和はまったく気づいていない。物騒なモノを持っていますよ… そう自白しているも同然のセリフ。こんなセリフにも気付かないほど、それだけ何から何まで知り尽くしているような態度の緑斎に対する得体の知れない畏怖を感じているのかもしれない。



「今なら罪は軽くて済む。この場で取り出して地面に置きなさい」


「うるせぇぇぇ! 俺に命令するんじゃねぇぇぇ!」


 頭に血が上った義和は、すでに緑斎を自らを脅かす敵として見ている。敵は叩き潰すのみ… このような思考でこれまで生きてきた義和にとってとるべき行動はたったひとつしか思い浮かばない。それは緑斎を亡き者にしてこの場を収拾するという実に危険で恐ろしい考え方。このような考えに短絡的に行きついてしまう思考回路自体、義和が内包する極めて危ういサイコパス傾向といえよう。



「そこを退け。俺の邪魔をするなら撃つぞ」


 義和はカバンから取り出したトカレフにマガジンを差し込んで躊躇なく緑斎に向けている。銃を初めて手にする人間はその緊張感や人の命を奪いかねない恐怖感から全身が震え出すものだが、サイコパス義和にはそのような人並みの健常な精神は宿ってはいない。むしろ他人を自分の前に跪かせる強力なアイテムを手にした高揚感すら感じている。



「もう一度警告するよ。子供が扱うには手に余るオモチャだ。すぐに地面に置きなさい」


 今までの緑斎と比べると声のトーンが一段階下がっている。その分周囲に与える影響は大きいはずだが、頭に血が上った末にトカレフを手にして酔っている義和にはその言葉は届かない。



「うるせぇぇぇ! 死にやがれぇぇぇ!」


 パンパンパンパンパンパンパン…


 マガジンが空になるまで周辺に乾いた音を撒き散らしながらトカレフの銃口から弾丸が発射されていく。対して緑斎はといえば…



「土遁」


 その一声で周囲のアスファルトが一斉に捲り上がって即席の防弾盾を創り出してしのいでいる。さらに…



「式神召喚」


 懐から取り出した4枚の呪符を宙に放り投げると、4体の鬼が出現。鬼たちは巨体を揺すり牙を剥き出しにしながら義和に襲い掛かる。



「うわぁぁぁぁぁ、なんだこいつらはぁぁぁ!」


 慌てて銃口を迫りくる鬼に向けるが、いくら引き金を引いてもカチカチと音が鳴るだけで弾は出てこない。銃を扱う際に初心者が仕出かすミス。マガジンが空っぽになるまで撃ち尽くすという愚行を義和はやらかしている。


 その後は昨日神社にやってきた男たちと同様の経過をたどる。襲い掛かってきた4体の鬼は容赦なく義和の腕を引き千切り、腹を裂き、首をねじ切って義和を死の国へと誘う… というのはお約束の幻想で、泡を吹いて白目を剥いた義和がアスファルトの上に倒れているだけ。勇者といえども歴戦の陰陽師に掛かればこんなモノという典型的な例だろう。


 すべてが片付くと緑斎は懐からスマホを取り出してどこかに連絡。



「ああ、鴨川です。御覧の通り銃を発砲したので戦闘不能にしました。あとの処置は任せますよ」


「鴨川殿、相変わらず見事なお手並みですな」


「お世辞はいりません。謝礼はいつもの通りで」


「了解いたしました。スイス銀行に振り込みますか?」


「私はどこかのスナイパーじゃないよ。一介の陰陽師だ。御中神社宛に振り込んでもらえばいいから」


 こうして緑斎が通話を終えて人払いの術を解くと、どこからともなく自衛隊の装備を身にまとった2個小隊がやってきて慣れた手つきで義和の足に〔吸収の足輪〕を取り付ける。この足輪は体内を巡る魔力を常に吸収して対象の人間を常時魔力切れ状態に陥らせるアイテム。これを取り付けられたらどんな勇者であろうともまともな行動がとれなくなる拘束具。そして義和は車両に乗せられて何処ともなく連れ去られていく。おそらく行き先は問題のある勇者や高レベルな不良冒険者が収容される専用の施設で、当分… いや下手をすると一生外には出てこれないであろう。


 こうして四條家と御中神社の双方を巻き込んだ騒動は解決を見ることになる。






   ◇◇◇◇◇






 次の週の水曜日、重徳は歩美とともに再び彼女の実家へと向かっている。本日の用件は、昇龍会から巻き上げた例のアレを渡すためとなっている。


 前回同様重徳と歩美が並んでソファーに座っていると、奥から緑斎が姿を現す。応接間に入った途端、重徳と歩美のバカップルがあまりにピッタリとくっついて座っている様子に緑斎の眉がピクリと反応する。だがここで怒り出しては絶対に娘から嫌われる… このように考える冷静さが残っていたのだろう。緑斎は努めて穏やかな声で重徳を歓迎している。



「よく来てくれたね」


「はい、実は本日の用件なんですが、港南昇竜会から預かってきたものをお引き渡しに参りました」


「これはこれはご丁寧に。で、預かってきたというのは?」


「まずはこちらです」


 重徳は先に詫び状を取り出して緑斎に手渡す。書面に書かれた内容をじっくりと眺める緑斎。しばらくして満足そうに頷く。



「うん、これで双方手打ちにしようということだね。こちらとしては問題ない」


「はい、ありがとうございます。それからこちらは迷惑料の代わりということで、神社宛の寄進です」


 重徳が取り出したのは風呂敷に包まれた諭吉さんの束合計10。迷惑料に関しては四條家と御中神社で半々ということになる。



「これはこれは。おかげで今年の例大祭が盛大に開けそうです。ご神体もさぞかしお悦びでしょう」


 ここまでの間、歩美は完全に置いてきぼりを食らっている。なぜ重徳がヤ〇ザ組織から詫び状や多額の現金を手に入れたのか、その理由についてサッパリ理解が及ばない。だが父親と重徳の間で万端話が通っているようなので、敢えてここは押し黙って成り行きに任せる態度。もちろん後から重徳を追求する気は満々。



「それではこれで自分からの用件はお仕舞です」


「わざわざ申し訳なかったね。そうだ、お礼として高山義和がどうなったかコッソリと教えようか」


「えっ、確かにあいつは自分が呪符を張り付けた翌日から登校してませんが、何かご存じなんですか?」


 重徳だけではなくて歩美も不思議な顔をして父親を見ている。



「ハハハ、私はこちらの宮司を務めると同時に陰陽師でもあるんだよ。そもそも陰陽師というのは依頼を受けてから自らの力と照らし合わせて可能であれば引き受けるし、不可能であれば断るモノさ。それでね、私は政府のとある機関から不良勇者を排除する仕事を請け負っているんだよ。今回高山義和が色々と犯罪行為に手を染めていたのが判明してね。私が政府の組織と組んで社会から排除した。次に彼が外に出てくるのは少なくとも20年後とか30年後になるだろうね」


「お父さんったら、いつの間にそんなお仕事をやっていたんですか? 私も全然知りませんでした」


「自分も全然知りませんでした。それだけの大きな力を持った方に先日は差し出がましい口をきいてしまって申し訳ありません」


 重徳が言及しているのは境内にヤ〇ザたちが入り込んできた一件を指している。あの時に「自分が行きましょうか」などと軽々しく申し出てしまって緑斎の機嫌を損ねていないかちょっと心配になっているよう。



「いやいや、あのような無頼の輩を前にして『自分が…』と申し出てくれるのは実に頼もしい限りだよ。これからもウチの歩美を守ってやってもらえるかな」


「それはもちろんです。この命に代えてでも歩美さんを守ります」


「ノリ君…」


 ここまで重徳にキッパリと宣言されると、歩美としては嬉しいやら超嬉しいやらで天にも昇る心地。父親の目の前にも拘らず今にも重徳に抱き着きそうな勢い。



「それではあとは若い二人で適当に過ごしなさい」


 これ以上見ていられないとばかりに緑斎は応接室を退散していく。その後重徳と歩美は再びヌシサマと対面して、相変わらず重徳がずっと無視されてこの日を終えるのであった。 



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



サイコパス勇者の高山が歩美の父によって悲惨な運命を辿ることに。まあこれも自業自得なので、彼には檻の中で反省してもらいたいものです。さて、お話は次話から新しい話題に。いよいよ5月になって1年生の一部生徒がダンジョンに入っていく予定です。


この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


「面白い」「続きが早く読みたい」「歩美の父があまりに強すぎ」


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