第35話 公園で出会ったのは


 お散歩デートで昼食中のバカップルは…



「ふぅ、さすがにもう食べきれないぞ」


「無念です。ノリ君が残してしまいました」


 歩美が残念そうに残ったお弁当を見つめている。


(歩美さん、美味しいんです! あなたの料理は本当に美味しいんですよ。でもさすがにこの量は… もうこれ以上俺の腹には入り切りません。彼女が広げた各種のお弁当は優に5人前はあったぞ。何とか半分以上は食べたのだが、さすがにこれ以上は無理だ!)



「歩美、ごめん! 本当に美味しかったんだけど、この量は俺の腹には無理だった」


「そうでしたか… どうも梓ちゃんの影響でついつい作りすぎてしまうんですよね。ノリ君なら頑張ってくれると思ったのですが」


 比較の対象が間違っていると早く気付こう。梓は学園の食堂で毎日重徳の倍以上の量の昼食を取っている。いくら食べ盛りとはいっても、普段から重徳は男子の標準的な量しか食べていない。一緒に食堂にいるんだからその様子を毎日のように見ているはずなのだが、どうも彼女の物差しが梓に固定されているので修正が難しいのだろう。


 歩美はちょっと寂しげな表情でお弁当の残りをバスケットに仕舞っている。


(そんなに悲しそうな顔をしないでくれ! 俺も限界ギリギリまで攻めた結果なんだ)


 重徳の心の声は果たして彼女に届いているのだろうか? まさか弁当を残した件で機嫌を悪くしたりしないだろうか…



「歩美、今すぐには動けないからちょっと休憩してからまた歩こうか」


「はいっ。そうしましょう! また手を繋いでくださいね」


 今度は急に機嫌が良くなってニコニコしている。重徳と手を繋ぐのがそんなに嬉しいのだろうか? もっとも重徳のほうも大歓迎。おそらくこの急激な態度の変化はちょっとしたイタズラで、きっと最初からお弁当を残した件をあまり気にしてはいないのだろう。歩美の冗談はわかりにくいところが欠点のような気がする。


(俺が思うに、歩美さんは天然を装った演技派なのではないだろうか。時々冗談なのか本気なのかわからないようなことを言うし、俺に好意を持っているような謎の言葉を仄めかしたりする。女の子の考えていることが中々理解できない俺に暗に何かを伝えようとしているんじゃないだろうか)


 重徳としてももうひとつ歩美の胸中が窺い知れないので、彼女が果たして何を思うのかと散々頭を悩ませている。というよりもこれだけわかりやすいのだから、さっさと決めるべきタイミングで決めてしまったらいいのに…


 お弁当を仕舞い終わった歩美は、隣に座ってポッコリと膨れている重徳の腹を擦ってくれる。こうして労わる態度を見せてくれるだけでなんだか消化が良くなりそうな気がしてくるから不思議。歩美は真剣な表情でナデナデしてくれているが、プッと吹き出してクスクス笑っている。


(ほら、やっぱり! 俺の予想通りさっきの悲しげな表情は冗談だったんだな)



「ノリ君は本当に頑張ってくれたんですね。いっぱい食べてくれてありがとうございました」


「どういたしまして、本当に美味しかったよ。また歩美の料理を食べたいな」


「ノリ君のためなら喜んで作りますよ。好きな物を教えてくださいね」


(ああ、なんと言う幸せだろうか! これ以上欲張ったら罰が当たるな。歩美さんがこうして傍に居てくれる幸せを俺は今心の底から噛み締めている)


 20分くらい休んでいたら満腹で動けなかった重徳の腹も落ち着きを取り戻してくる。これなら多少歩いても問題ないだろう。シートを片付けて二人でお手々繋いで散歩を再開。


 パンジーや桜草などが植えられている花壇を見ながらのんびりとした散歩は続く。途中にあった動物触れ合い広場に立ち寄って真っ白なウサギの頭を撫でたり、ポニーに餌を与えたりしながら楽しいお散歩は続く。


(こうして歩いているだけなのに幸せを感じてしまうな。もう俺は中学の頃のような修羅の道には戻れないかもしれない)


 などとツラツラ考えている重徳だが、実は一歩ダンジョンに踏み込めば容易に修羅に変貌するのはここだけの話。



 かれこれ2時間くらい公園を歩き回って、重徳の腹もだいぶこなれてきたよう。少々喉が渇いてきたから遊歩道から少し奥に引っ込んだ場所に設置してあるベンチに腰を降ろす。



「ノリ君、どうぞ」


「ありがとう」


 差し出されたお茶に口をつけながら重徳は心の中で覚悟を決めている。実は夕べのうちに色々と考えていた。自分の胸に秘めた思いを歩美に伝えるべきではないだろうかと。今のこの感じだったらたぶん彼女は自分の気持ちを受け入れてくれるような気がしてくる。


 飲み終わった紙コップをゴミ箱に捨ててベンチに戻ると重徳はそっと歩美の手を握る。彼女もその態度に何かあると察したのか無言で手を委ねる。短い沈黙があってから重徳が話を切り出す。



「歩美、大事な話だからよく聞いて欲しい。お、俺は…」


(シマッタ、緊張して口篭ってしまった。ここは勇気を出して一気に思いを告げるんだ! ここで根性を見せなくてどうする。頑張れ、俺)


 再び意を決した表情で重徳が歩美に向き直る。



「俺は… その…」


 ニャーー!


「ネコが好きなんだ」


(あれ? なんか違うぞ! 俺が口にしようとしていたセリフが途中で変化してしまった気がするな。ネコが好きだと! 一体何でこうなった?)



「まあ、可愛いネコちゃんが居ますよ」


 何が起きたのかと一瞬頭がパニックになった重徳。歩美の言葉でハッと我に帰って目の前に佇んでいるネコの姿を発見する。


(おのれ! こやつのせいで俺の一世一代の告白の機会を逃してしまったではないか)


 そんな重徳の胸中を知ってか知らずか、歩美はそっとネコに手を差し伸べる。



「ネコちゃん、いらっしゃい」


 ニャー 


 歩美が呼び掛けるとそのネコは近づいてきて彼女が伸ばした手を舐めている。ずいぶん人懐っこいネコのようで、警戒する様子がまったく見受けられない。



「このネコちゃんはお腹が空いているのかもしれないですね。ネコちゃん、お腹が空いているんですか?」


 ニャー


 なんだか歩美の話がわかっているかのように鳴いて返事をする。このネコは頭がいいのだろうか? ここまで意思表示するネコなど、これまで重徳は出会ったことがない。



「ノリ君、お弁当の残りをあげても大丈夫でしょうか?」


「そうだな、食べ切れなくて持って帰るんだからちょっとくらいあげても大丈夫じゃないのかな」


「それではそうしましょうか。ネコちゃん、おにぎりでいいですか?」


 ニャー


 歩美は紙皿の上におにぎりを載せてそっとベンチに置くと、ネコは身軽にベンチの上に飛び乗っておにぎりに口をつけている。



「ネコちゃん、美味しいですか?」


 ニャー


 おにぎりの中身は鮭のよう。魚だからネコにとって好物なのかもしれない。歩美は夢中でおにぎりを食べているネコの背中を優しい手付きで撫でている。この公園に住み着いている野良猫なのだろうか? それにしては真っ白な毛並みが凄くきれいで、まるでトリミングをしたてのように映る。



 ニャー


 ネコはおにぎりをひとつペロリと食べて再び鳴き声をあげる。今度は一体何だろうか?



「ネコちゃんはお水が欲しいんですか?」


 ニャー


 どうやら正解のよう。しかし歩美が困ったような表情になっている。



「水筒の中にはお茶しかないんですよね。近くに水道はあるでしょうか?」


「歩美、これを使ってくれ」


 重徳がリュックから取り出したのは水が入ったペットボトル。これはダンジョンで活動時の水分補給に用意してある品で、中身は正真正銘の水道水となっている。



「ノリ君、ありがとうございます。ネコちゃん、お水ですよ」


 ニャー


 歩美は別の紙皿の窪みに少量の水を流し込んで差し出すと、そこに口をつけてペロペロと舐めながら水を飲んでいる。


 ニャー、ゴロゴロ


「このネコちゃんは本当に人に懐いていますね。自分から体を摺り寄せてきますよ」


「歩美が優しい人だとわかっているんじゃないのか」


 二人が様子を覗き込んでいるいるのもまったくお構いなしに、ネコは歩美の膝の上に乗っかってヘソ天で体を伸ばしている。


(う、羨ましくなんかないんだからね! 可能ならば俺もネコのように歩美さんに体を密着させたいのは山々なんだけど…)



「きっと歩美が好きなんだろう」


「でも困りましたね。勝手に連れて帰るわけにもいかないし。ネコちゃん、お家はありますか?」


 今度はネコは返事をしないで歩美の顔をじっと見ている。もしかしてこれは違うというサインではないだろうか?



「ネコちゃんはお家がないんですか?」


 ニャー


 なんだか本当に会話をしているかのように見えてくるから不思議な話。このネコは本当に歩美の言葉がわかっているのだろうか?



「ノリ君、どうやらお家がないようなので私が連れて帰っても大丈夫でしょうか?」


「ここは自然公園のちょうど真ん中で付近にはネコを飼うような家はないしな。飼い主が公園に離した訳でもなさそうだし」


「そうですね。それに首輪も何もしていませんね。あとはネコちゃんの返事を信じるしかないようです」


「ネコがそう言っているんだから間違いだろう。でも連れて帰ってちゃんと飼えるのか?」


「はい、飼う場所はいっぱいありますから平気ですよ。ネコちゃん、私と一緒にお家に帰りますか?」


 ニャー


 本日一番の元気のいい返事をしている。どうやら歩美の家に引き取るということで話はまとまったよう。彼女はバスケットの中を空っぽにしてタオルを敷いてからそこにそっとネコを抱きかかえて入れる。ネコは全然暴れたりしないで歩美に体を委ねたまま。



「ネコちゃん、狭いですけど私の家に着くまで我慢してくださいね」


 ニャー


 こうして彼女がバスケットの蓋を閉じると、その中でネコは大人しくしているよう。こんなに賢いネコを見たのは重徳も歩美ももちろん初めて。



「ノリ君、またバスケットが重たくなってしまいました。このお弁当の残りはそちらのトートバッグに仕舞ってもらえますか」


「結構な荷物だな、俺が預かるよ。このまま一緒に歩美の家まで送っていくから」


「いいんですか? ノリ君のお家はこの駅の反対側なのに」


「いいんだ、一緒に歩美の家までネコを連れて帰ろう」


「はいっ! お願いします」


(どうやら歩美さんは動物が大好きらしい。さっきもウサギを可愛がっていたし。それにしても歩美さんの家に行くのか… この前彼女が俺の家に来た時は俺の母親と訳のわからない遣り取りをしていたけど、今回俺は普通に挨拶をすればいいのかな?)



 こうして重徳はトートバッグを肩に担いで、バスケットを抱える歩美と一緒に彼女の家に向かうのだった。







   ◇◇◇◇◇







 歩美の家の前では…



「ここが歩美の家なのか?」


「はい、そうです。ノリ君、どうぞお入りください」


 そこは重徳の家から2駅電車に乗って15分程歩いた場所にある閑静な住宅街の外れにある神社。


(シラナカッタヨ! 歩美さんは神社の娘さんだったんだ)


 これには重徳もちょっとびっくりした表情。とはいえこれだけの敷地があれば、ネコを一匹飼う程度は造作もないだろう。境内は重徳の家よりもむしろ広いくらいで、数多くのご神木がこんもりとした森を形作って裏山に続いている。どうやらかなり古くからここにある由緒正しい神社のよう。



「俺の家よりも広いじゃないか」


「広いとは言っても神社の敷地ですから、私の家族が住んでいるのはごく一部ですよ」


(そりゃあそうだな。もっと昔だったらここは公共の場だから広いのは当たり前か。待てよ! 神社といえば巫女さんだろう! もしかして歩美さんも巫女装束に身を包むのか? これはぜひ一度拝見してみたいものだな)


 重徳がいらぬ妄想を脳内で膨らましているところに歩美から声が…



「ノリ君、ネコちゃんを放しますからあちらの縁側に座っていてください。さあ、ネコちゃん、お待たせしました。広い場所で遊んでくださいね」


 ニャー


 バスケットから出てきた猫はひと鳴きするものの、相変わらず歩美から離れようとはしない。むしろ後をくっついて回っている。



「困りましたね。ネコちゃんが私にくっついているとノリ君にお茶も出せません」


「昼にいっぱい食べすぎてまだ何も入らないから構わなくていいよ」


「そうですか、それじゃあ私もノリ君のお隣に座りましょう」


 少し西に傾いた日差しが神木の葉の隙間を通って柔らかく降り注ぐ。居住区の縁側に二人で腰掛けて、歩美の隣にはいつの間にか縁側に飛び乗った白いネコが静かに佇んでいる。ここで歩美が…



「そうでした! 実はノリ君に相談したいことがあったんです。聞いてもらえますか?」


「いいよ、どんなことかな?」


「ノリ君の職業は何ですか?」


「俺は武術家だよ」


「まるっきりそのままなんですね。相談したいことというのは私の職業なんです。実は私にはまだステータス上の職業がないんですよ」


「まだ職業が与えられていないのか?」


「たぶんそうだと思います。今ステータスを開きますから見てもらえますか。ステータス、オープン!」



 鴨川 歩美  レベル1     女  15歳   



 職業  ・・・・  


 体力   28


 魔力   25


 攻撃力   9


 防御力  16


 知力   57



 保有スキル  結界術 料理



 注意事項   職業は特定の条件を満たすと開示されます。



 確かに歩美の話通り職業の欄は記載されていない。どうやら注意事項にある「特定の条件」とやらに関係がありそうだが、現段階では肝心の条件が一体どのようなモノなのか皆目見当もつかない。


 その他に気になる点といえば知力以外の全体の数値が低いのも気になる。特に攻撃力がひと桁というのは小学生にも負けるレベル。重徳とは対照的に何かを攻撃するのにはテンで向かない歩美の性格が表れている感がある。



「本当に職業が記載されていないんだな」


「私も以前からずっと気にはなっていたんです。梓ちゃんなんか12歳の誕生日に勇者の記載があったのに…」


「他人と比べる必要はないよ。ほら、ここに書いている通りに何らかの条件を満たせば職業が表示されるはずだから」


「そうですよね。ノリ君にそう言ってもらえるとなんだか安心してきます」


 もっとも信頼を寄せる重徳の言葉だけに、歩美に与える安心感はとっても大きいよう。やや深刻そうな表情だったのが、いつの間にか笑顔を取り戻している。


 それよりも重徳は歩美のステータスで唯一異彩を放つ箇所に触れる。ここだけは明らかに他の表示とは違っており、どうしても気になって仕方がない。



「歩美、この結界術って何なんだ?」


「ノリ君に気付かれちゃいましたか。実は私の父はこの神社の宮司を務めると同時に結構名の知れた神道系の術者なんです。お祓いとか除霊とか人にとって良くないモノを封じ込める力があるんです。それで私も子供の頃から父に色々と習ってきたんですけど、まったく上達しないままここまで来ちゃいました」


 さすがは神社の娘だけあって、父親から様々な呪法を伝授されてきたらしい。だが歩美がどんなに作法通りに術を行使しようとも、これまでまったく効果が表れなかった。



「でもスキルにちゃんと記載されている以上は発動できるはずなんだけどおかしいな」


「やっぱりそうですよね。たぶんこのスキルがあるから学園に合格できたんだと思うんですけど、実際に使えないのでは何の役にも立たないんです」


 またもや困り顔を浮かべる歩美。スキルの欄に記載がある以上はちょっとした練習で行使可能になるはずなのだが、何も起こらないというこれまでの自分の不甲斐なさに頭を悩ませていたらしい。


 そんな歩美の真剣な表情に重徳もどうにか出来ないものかと無い知恵を絞る。その回答として…



「歩美、こうなったら練習あるのみだ。俺も応援するから今ここで実際にやってみてくれ」


「わかりました。ノリ君が応援してくれるだけでなんだか出来そうな気がします」


 実際に重徳には魔法や陰陽術の知識など皆無。具体的なアドバイスなど出来るはずがない。だがここは持ち前の「出来なかったら練習あるのみ」というどこかの元テニスプレーヤーばりの熱血を発揮している。一般的な人間をからすると「暑苦しい」といわれかねないが、歩美もなんだかその気になってくれているよう。



「それではやってみますね」


 軽く眼を閉じて精神を集中する。そしてゆっくりと目を開くと、両手で九字の印を切り始める。



「臨・兵・闘… 急急如律令、結界創生」


 だが何も起きない。やはりだめなのかという絶望感が歩美の心を埋め尽くす。その時…


 ニャー


 歩美の隣で様子を見守っていたネコが一声鳴く。その声が原因なのかはわからないが、歩美の脳内に結界を構築するための具体的なイメージがハッキリと浮かび上がる。そのイメージ通りに思念を何もない空間に向けると、目の前に透明な壁のようなモノがいつの間にか生み出されている。



「ノ、ノリ君… なんだか出来ちゃいました」


「これが結界なんだ。ちょっと触ってもいいか?」


「はい、どうぞ」


 重徳は結界の表面に触れてから物は試しとばかりに軽く叩いてみる。少しずつ力を込めつつ何度か叩いても歩美の結界はビクともせずにそこにある。どうやら強度は十分なよう。



「これならゴブリンくらいだったら全然寄せ付かないんじゃないかな。かなりの強度だよ」


 言いながら重徳は一瞬シマッタという表情を浮かべるが、歩美は初めて結界が構築できた嬉しさでゴブリンの件の違和感に気が付いていない。



「ノリ君、本当にありがとうございます。ノリ君が応援してくれたおかげです」


「俺だけじゃないだろう。歩美の隣にいるネコも応援してくれたみたいだぞ」


「そうでした。ネコちゃんも本当にありがとうございました。おかげで今までできなかった結界の構築が出来るようになりました」


 ニャー!


 ドヤ顔で歩美を見つめるネコがいる。時折ネコは人間を自分の家来と思う節が窺えるが、今がまさにそんな状態かもしれない。歩美に力を貸したのは自分だと言わんばかりに偉そうな態度をとっている。



「ノリ君、なんだかとっても嬉しいです。やっと一歩ノリ君に近づけた…」


 歩美の瞳からボロボロと大粒の涙が流れ出す。それは悲しみの涙ではなくてようやく術が発現できたという安堵と喜びが混ざり合った涙に違いない。


(やっぱりそうだったのか… 歩美さんは口では気にしないフリをしても、自分が何も役に立たないと気に病んでいたんだ)


 実際歩美は陰陽術もダメ、格闘技術もダメ、という自分に対して相当なストレスを感じていたのだろう。ことに重徳やロリ長、梓といった学園きっての高い能力の持ち主に囲まれていたこともあって、余計に自分の不甲斐なさを心の中で嘆いていたのかもしれない。それでも毎日笑顔で過ごしていた彼女の芯の強さとひた向きに努力する姿に、重徳は一層心惹かれている。



「歩美、よかったな。一歩一歩前進していけばいいんだ。自分の名前の通りに進めば大丈夫だから」


「名前ですか?」


「だって歩美だろう」


「あっ、言われてみればそうでした。ノリ君はいつも私が一番欲しい言葉をかけてくれます」


「いや、そんなに気が利くタイプじゃないから」


 いつの間にか歩美の涙は止まっている。どうやら重徳の言葉が胸に響いたらしい。これまでの励ましも確かに勇気づけられはしたが、こうして一歩前進した自分をしっかりと認めてくれる重徳の態度がこれ程心地いいとは彼女も思っていなかったよう。



「よし、それじゃあ何度も練習してスムーズに術が使えるようにしよう」


「はい、1回出来たからといって安心してはダメですよね。まだまだ練習あるのみです」


 こうして結界術の手応えを掴んだ歩美はその後何度もトライして次第にスム-ズな術の行使が可能となってくる。それはまるで初めてひとりで自転車に乗れるようになった子供が嬉しくてしょうがないというあの様子によく似ている。


 そんな歩美の姿を重徳とネコはしばし微笑ましげに眺めるのだった。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


偶然公園で拾ったネコを連れて帰った歩美。そのネコのおかげなのか今までできなかった結界術が発動して嬉しさでいっぱいのようです。次回はちょっと別の面々が登場する予定です。とんでもない波乱が起こりそうな…


この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


「面白い」「続きが早く読みたい」「やはりメインヒロインは歩美で決定なのか?」


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