第30話 入部説明会


 第8ダンジョン部の部室にパンツ丸出しで転がり込んできた金髪縦ロ-ル他1名。同性としてあまりに残念なその姿を目撃した梓が重徳を睨みつつ声を上げる。



「四條、貴様はセクハラのためだったら手段を選ばないのか?」


「梓ちゃん、落ち着いてください。いくらなんでもこれはノリ君の責任じゃありません。どう見ても事故ですから、ノリ君を怒らないでください」


(そうだ、歩美さん。俺のためにもっと弁護してくれ。俺だっていくらなんでもこんな光景が出現するとは夢にも思っていなかったぞ。これは神に誓って真実だ)


 重徳が心の中で歩美を盛大に応援している間も、転がり込んできた二人は依然としてパンツ丸出しのまま床に倒れ込んでいる。もしかして転んだ拍子にどこかぶつけたのだろうか? ここでようやく重徳も金髪縦ロ-ル他1名がちょっと心配になってきた様子。


(はぁ~、まだパンツ丸出しで転がっているのか… せっかくの機会だし遠慮なく鑑賞しておこう… じゃなくって! 助け起こしてやろう。おや、俺よりも先にロリ長が動き出しているぞ。一体何をするつもりなんだ?)



「大丈夫ですか? ゆっくり起き上がってください」


 一瞬何が起きたのか理解できない重徳。だが彼よりも一歩先にロリ長が縦ロール女子の上に折り重なっている子に手を貸している。やっとこさ起き上がった彼女は顔を真っ赤にしてロリ長に頭を下げている。その顔にはどこか見覚えがあり、記憶を辿ってみると確か模擬戦の時に「斎藤君格好いい」と呟いていた例の女子で間違いない。模擬戦の時と同様にこうして金髪縦ロールと一緒にいるのだから、それが何よりの証拠。当然ロリ長も彼女の呟きに気がついているから、自らのハーレム作りの一環で手を貸しているのは火を見るよりも明らか。


(こいつめ、目の前に転がるチャンスを絶対に見逃さないタイプだな)


 ロリ長の行動の素早さに呆気にとられる重徳。どうやら彼はハーレム作りのためなら手当たり次第らしい。重徳と同時にその光景を目撃している梓はロリ長の一見紳士的な行動にちょっとだけ感心した表情を向けている。中身は変態紳士なのだが…


(二宮さん、騙されちゃいけませんよ! あやつの行動原理はあくまでもハーレム拡大にあるんですからね)


 重徳が心の中で必死に訴えるも、その声は誰にも届かない。むしろ先輩たちまで口々に「さすがは勇者だ」「人間性が違うな」などとロリ長を褒めている。彼の犯罪的な野望を耳にしたら女子生徒ならおそらく誰しもが口を利きたくなくなるとも知らずに…


 視線をドアの前に戻すと、金髪縦ロールは当然自分にも手を貸してもらえると思って右手を差し出している。だがロリ長は彼女に見向きもしないで助け起こした女子をエスコートして席に座らせる。あの縦ロールは梓のファンだとわかっているから、自分のハーレムには入りはないと最初から見切りをつけているのだろう。こういう部分ではとことんドライな性格のロリ長。


(ロリ長よ、お前は中々上等な性格をしているじゃないか。助けられた女子はさっきよりもさらに真っ赤な顔であやつにしきりに礼を述べているぞ。ゲスの極みともいうべき下心も知らないで、なんとも気の毒だ)


 そして放置されている縦ロール女子にはしぶしぶ梓が手を貸して助け起こしている。なんだか縦ロールの目がハートマークになっているのは見間違いではなかろう。対して助ける側の梓の顔は能面のように表情が一切なくなっている。昼食時にあんな具合に押し掛けてきたせいで、梓の中には縦ロールに対する苦手意識があるのかもしれない。


 ようやく縦ロールも席について、稲盛先輩が仕切り直しの発声をする。



「ハプニングはあったが、この部は誰にでも門戸を開いている。二人とも、ようこそ第8ダンジョン部へ。せっかくだから君たちも自己紹介をしてもらえるかな?」


 先輩は笑顔で彼女たちに声を掛けている。どうやら先に立ち直ったのは縦ロールのほうで、先程の醜態などなかったかのように起立して自己紹介を始める。この女子は相当な図太い神経をしているに違いない。あれだけのことを仕出かしておいてここまで堂々としていられるのが何よりの証拠。もっともパンツ丸出しになっていたという事案は当人たちはまったく気づいていないのだが…



「先輩方、皆様、お騒がせいたしまして大変申し訳ございませんですの。ワタクシは1年Cクラスの榎本小夏と申しますわ。たまたま梓様を尾行… いえ、お声を掛けようと後ろを歩いていましたらこちらに入るお姿を目撃いたしましたの。よろしかったらお話を聞かせていただけると幸いですわ」


(おい、確かに今「尾行」と言い掛けたよな。これはもうファンというよりもストーカーではないのか? 尾行をしているという自覚があるこんな危険人物を二宮さんは近くに置いて大丈夫なんだろうか?)


 重徳の懸念はもっともだろう。その証拠に梓の表情が引き攣っている。とんでもないストーカー気質のファンに完全にマークされているという事態は、重徳からしてもてもさすがに気の毒でならない。


 簡単な自己紹介が終わり縦ロール榎本が腰を下ろすと、依然として顔色が赤いままのもうひとりが立ち上がる。



「皆さん本当にお騒がせしました。小夏と同じクラスの桐山きりやまかえでです。小夏の保護者役ですのでどうぞよろしくお願いします」


「楓さん、ワタクシはあなたに保護者を務めろとお頼みした覚えはございませんのよ」


「あなたがいつも突飛な行動をするせいでしょう! 今日だってあなたのせいでこの部屋に転がり込んでしまったし」


「あら、楓さんも中の様子を伺うのには賛成したように記憶しておりますが、私の記憶が間違っているのでしょうかしら?」


「そ、それは… その… なんというか…」


(コラッ、そこの二人! いつまで漫才を続けるつもりなんだ? さすがに稲盛先輩も二人の様子を呆れて… ないな。なんだか面白そうに見ているぞ。さすがはリーダーを務めるだけあって、様々な性格の人間を束ねていく度量を持っているのだろう)


 稲森先輩にも尾行の件は聞こえているはずだが、サラッと流して具体的な説明に入っていく。新入部員獲得のためなら手段を選ばないという強固な意志が伝わってくる。



「さて、それではこの第8ダンジョン部について説明していこうか。ダンジョン部にはその部独自の情報や攻略法というモノが存在している。それは先輩から後輩に受け継がれていくもので、退部したり他のダンジョン部に移籍しても口外しないという不文律があるんだ。それこそがダンジョン部ごとの最大の財産となっている。ここまではいいかな?」


「「「「「「「はい」」」」」」」


「それからもうひとつダンジョン部に加入するメリットがある。それは聖女や魔法使いがダンジョンの立ち入りを認められるのと同時期に、ダンジョン部に所属している1年生は上級生の同伴があればダンジョン内部に入れるという特例的な規定なんだ。Cクラスの二人はともかくとして、Aクラスの五人はより早い時期にダンジョンを体験できる」


「なるほど、部活動ということで優遇されているのか。これはいいことを聞いたな。5月からダンジョンに入れるのは歓迎するぞ」


「僕も二宮さんと同様になるべく早い時期にダンジョンに入りたいと思っていたんだよ。これは好都合だから入部を真剣に検討しようかな」


「早くダンジョンに入りたいッス。自分は師匠にどこまでもついていくッス」


 梓、ロリ長、義人の三人はどうやら入部を前向きに考えているよう。早い時期にダンジョンに入れるというのは魅力的な提案なのは間違いなさそう。ここで歩美が重徳に話を振ってくる。



「ノリ君はどうするつもりですか?」


「俺は入部をするよ。歩美はどうするんだ?」


「私はノリ君と一緒がいいです」


 重徳としては5月からダンジョンに入れるというのはメリットでもなんでもないのだが、現在すでにダンジョン探索をしている件を内緒にしてもらう交換条件だから選択肢はない。入部一択と最初から決まっている。  



「もちろんワタクシも梓様と共に歩む考えですわ」


「そ、その… 入部を前提に考えています」


 縦ロール榎本はきっぱりと言い切っているのに対して、楓はロリ長の様子をチラチラと伺いながら返事をしている。彼女は縦ロール榎本に便乗してロリ長を追いかけてここまで来ているのがミエミエだが、強いて突っ込もうという人間はいない。それよりも重徳の目に付いたのは…


(コラ、ロリ長! テーブルの下で小さくガッツポーズをするんじゃない)


 重徳が心の中でツッコミを入れている間にも稲森先輩の説明は続く。



「それではこの部内のパーティーの仕組みについて少し教えておこうかな。ダンジョン部は複数のパーティーが所属するクランだと考えてほしい。実習の授業で結成するパーティーには規定があって、勇者と聖女は各パーティーにひとりと決められているんだ。他のメンバーの組み合わせは自由だけど、人数は必ず五人となっている。それに対して部活のパーティーはメンバーの組み合わせと人数は自由だ。場合によっては外部の冒険者ともパーティーを組める」


(なるほど、俺とカレンのパーティーも部活動の一環として認められるんだな。これはいいことを聞いたぞ。授業で組むパーティーよりも自由度が高いのは俺にとっては好都合だ)



「だからその時の都合によって部内で自由にパーティーの編成ができるんだよ。もっとも連携をしっかりと確認する必要はあるけどね。今まで私たちはここにいる五人でしかパーティーの組みようがなかったから、君たちの加入は大歓迎だ。新たな組み合わせの可能性を確かめられるからね」


 なるほど… 部内に多くの人材を抱えていれば、その時に合わせてパーティーを編成できるのか。俺は今まで少人数で動いてきたから何とも言えないけれど、人数が多くなった際のパーティーの動きや全体の戦力がどうなるかを実際に確かめられるんだな。おや、ロリ長が手を上げているぞ)



「稲盛先輩、質問があります。僕のパーティーは自分以外は女性しか加入させないと決めているんですが、先輩たちも場合によっては僕とパーティーを組んでもらえますか?」


「もちろん大歓迎だ。だが、なぜ女性のみしか認めないのかという理由に不埒な思惑を感じてしまうのは気のせいか?」


(ロリ長の目的はこれだったのか! ここは先輩方にこやつの魔の手が及ばないように忠告しておこう)



「先輩方、気をつけてください。ここにいる信長は危険人物です」


「四條、変態セクハラ大魔王のお前に他人を非難する権利はないぞ」


(しまった! 二宮さんからの鋭い切り替えしが俺に華麗なブーメランとなって突き刺さっている。稲盛先輩をはじめとする事情を知らない皆さんの視線が痛いぞ。特に縦ロール榎本の視線は俺を射殺さんばかりだ。俺だって好きで二宮さんにあれこれした訳ではないのに… ちょっとだけ楽しんでしまったのは揺ぎ無い事実だけど、でもその代償もしっかり払っているし)



「さて、ここまでの話を聞いて入部を希望する者はこの用紙にクラスと名前を記入してほしい。私が学園のダンジョン部運営局に提出しておくからね」


 先輩たちは優しくて丁寧だし、部室は少々ボロいけど特に1年生たちに不満はないよう。この場に集まった全員が同じ考えで、揃って用紙に名前を記入している。その様子を目撃している先輩のひとりは涙を流して喜んでいる。きっとこれまで少ない人数で苦労していたせいだと思われる。兎にも角にもこれだけの入部希望者が現れたことで、第8ダンジョン部存続の危機は大幅に遠のいたというべきだろう。



「これで入部の手続きは終了だ。明日から君たちは正式な第8ダンジョン部の部員となる。休み時間や放課後はこの部屋に自由に出入りしてかまわないぞ。ああ、それから2階は更衣室とロッカーになっているから、そちらも使ってくれ。それじゃあ今日のところは解散だ」


「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」


 こうして重徳たちは部室の外に出る。色々とあったから小1時間経過している模様。外に出るといきなり縦ロール榎本が梓に食いついている。おそらくはあらかじめロックオンしていて最初からこれが目的だったのだろう。



「こうして梓様とご一緒できるだなんて望外の喜びですの! どうか今後ともよろしくお願いいたしますわ」


「あっ、ああ… 同じ部に所属する者同士よろしく頼む」(棒)


「なんと素敵なお言葉でしょうか! 梓様のお声を間近で聞けるだけで天にも昇る心地がいたしますの」


 縦ロール榎本がずいぶん調子のいい話をしている。自分がストーキングしていた事実をなかったことにしているかのよう。そのちょっと横では…



「さ、斉藤君、さっきは助け起こしてくれてありがとうございました」


「全然気にしないでいいよ。それよりも楓さんの番号とアドレス教えてもらえるかな?」


「そ、そんな… いきなり名前で呼んでもらえるなんて。良かったら斉藤君の番号も教えてもらえますか?」


「いいよ、それじゃあ交換しようか」


「はい」


 ロリ長はなんやかんや言いくるめる風で上手いことして番号の交換をしている。でもロリ長よりも楓のほうが嬉しそうな表情なのはおそらく彼の野望の存在に気付いていないからだろう。重徳からしてみれば「勝手にしてくれ」と突き放したくなる心境かもしれない。


 ひとまず手続きも終わったことだし教室に向かって歩き出そうとすると、誰かが重徳の制服の袖を引っ張っている。もちろんそこに立っているのは歩美。



「ノリ君と一緒のダンジョン部に入部しちゃいました」


「そうだな、これからもよろしく」


「はい、足手まといにならないように頑張ります!」


「そんなに慌てる必要はないから、歩美のペースで確実に前進すればいいぞ」


 重徳は彼女の頭にポンと手を置くと、歩美はなんだか心から嬉しそうな表情で上目遣いで見つめてくる。


(も、もしかしてこれはビシッと決める言葉を言えということなのか? どうしよう何も頭に浮かばないぞ)


 しばらく無言で見つめあう重徳と歩美。すると…



「あのー、お取り込み中申し訳ないッス。師匠、そろそろ稽古の時間になるッス」


(義人、いいところで急に割り込んで来るんじゃないよ! でも確かに稽古の時間だな。歩美さん、この続きは必ずビシっと決めるから今日はどうか見逃してもらいたい)


「悪い、俺たちは急いで家に帰るから」


 ちょっと残念な顔をしている歩美にペコリと頭を下げて、重徳は全員に声を掛けながら教室に向かう。


 こうして無事に第8ダンジョン部に入部の手続きを終えた重徳は義人を引き連れて家路につくのだった。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


新たに加わったCクラスの女子2名も一緒に入部手続きを終えた一同。次回は先輩が引き連れてダンジョン見学に向かいます。もちろんそれだけで話が終わるはずもなく…


この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


「面白い」「続きが早く読みたい」「先輩たちがロリ長の変態ハーレムの罠に引っ掛かってしまうのでは?」


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