第29話 部室訪問


 翌日の昼食時、学生食堂では…



「ああ美味しかった。四條のおごりで食べるパフェは最高だ。今月いっぱい毎日ゴチになるぞ」


「喜んでいただいてこちらとしても嬉しい限りです」


 あのジャージ引きずり降ろしの件はいまだに尾を引いているよう。本日もジャンボパフェをペロリと平らげて満足そうな表情の梓と彼女にへいこら頭を下げる重徳の姿がある。いまだに梓の態度がとげとげしいことからもわかる通り、彼女は重徳を心から許してはいない模様。というか「次は何をされるかわかったものではない」と言わんばかりに日に日に警戒感を強めている。


 そんな梓とは対照的に、一夜明けたらすっかりいつもの天真爛漫な笑顔を振り向ける歩美が話し掛けてくる。



「ノリ君は今日も義人君と一緒に道場でお稽古ですか?」


 この言葉の裏には、放課後も少しでも長く重徳と一緒にいたいという乙女心が隠されているのは言うまでもない。ちなみに本日は午前中に実技実習が行われており、午後は学科の授業という時間割。すでに着替えを終えて制服姿に戻っているので、放課後に何もなければ真っ直ぐに下校するはず… 「だったらたとえ5分でもいいから重徳とどこかで話がしたい」という歩美の気持ちを知ってか知らずかの様子の重徳はというと…



「実は今日は行かなくてはいけない場所があるんだ」


「えっ? ノリ君にしては珍しいですね。どこかに寄り道ですか?」


「寄り道じゃなくって、第8ダンジョン部に入部しないかと先輩に勧誘されたんだよ。放課後に部室に来てくれと言われているんだ」


 歩美が急に話を振ってくるせいで、彼女にウソをつきたくない重徳は可能な限り話せる部分を教える。そのとおりウソはまったく言ってはいない。重徳的にはすべて真実だと胸を張って答えられる内容となっている。もちろん当然触れていない部分も多々あるのだが… 


 二人のやり取りを横で聞いているロリ長と義人は「ダンジョン」と耳にして微妙な表情。両名は重徳がダンジョンに入っていると知っているから、そこで何かあったんだと察しているのだろう。


 だが歩美はどうも腑に落ちないという表情で首を傾けている。



「おかしいですね? ノリ君は校内にいる間は殆ど私と一緒なのに、どこでその先輩と知り合ったんですか?」


(マズい! そう突っ込んきたか。ここは何とか誤魔化さねば…)


 重徳の脳内は歩美の追及を何とか躱そうとフル回転。その結果導き出された答えは…



「学園から帰って家の近くを散歩している時に出会ったんだよ。ダンジョンは俺の家から歩いて5分だからね」


 重徳の額にうっすらと汗がにじむ。先輩たちとダンジョンの内部で出会ったのは紛れもない事実。とはいえ重徳は「ダンジョン内部を散歩中に出会った」と強弁するのも可能なので、まるっきりウソというわけでもない。しかも下校後の出来事である点は間違いではないし、ダンジョンも家から5分で到着できる場所にある。


 どうやら歩美はこの話をすっかり信じたよう。というか彼女には重徳を疑う機能が搭載されていないらしい。頭から丸ごと信じ切っている様子が伝わってくる。



「そうなんですか。ノリ君の家がダンジョンの近くだなんて初めて聞きました。そこで先輩とお会いしたんですね」


「そうなんだ、偶然出会って自己紹介したら勧誘されたんだよ」


 あまりにも素直に信じ切っている態度の歩美を見て重徳の胸がチクチク痛みだす。ここまで純粋でいられると、些細な誤魔化しさえ犯罪行為に等しく感じてしまうのだろう。さらに歩美が続ける。



「まあ、そうだったんですね。わかりました! 私もいつかはダンジョンに入らないといけないから、せっかくだしちょっとお話を聞いてみましょうか。ちょうどいい機会ですから」


(へっ? 歩美さん、何ですって? ダンジョン部の話を聞きたいとはいかなる了見でしょうか? 歩美さんが俺とダンジョン部に同行するって? そんなことになったら俺がダンジョンに入っている件がバレるのは時間の問題だろうが!)


 先程は滲む程度だった額の汗の量がいつの間にか増量中。当社比3倍程度にまで増えており、いつの間にか球粒のような汗が目立つようになっている。


 さらにマズいことに梓までが参戦の意思を示す。

 


「ほう、歩美がヤル気を出しているな。私も興味があるから話だけでも聞いてみようかな」


 ここで歩美が梓に耳打ち開始。二人の小声での遣り取りの内容は…



「梓ちゃん、ここだけのお話ですが、ノリ君の『先輩』という言葉の響きに女性の影を感じました。男性の先輩だったらそんな勧誘くらいノリ君は突っぱねるはずです」


「なるほど、あのセクハラ大魔王を女性がいる場ひとりで行かせると何を仕出かすかわからないな。私もしっかりと監視する必要を感じているぞ」


(あの~、そこの女子お二人さん。俺の聴覚はとっても敏感になっているからを声を顰めても普通に聞こえているんですけど。それにしても歩美さんの女の勘は鋭いの一言に尽きるな。2年生の女子5名しかいない弱小な部活という点に間違いはない。なぜバレてしまったのだろうか? 実に不思議だ)


 そんな重徳の不安をよそに、こちらの二人も…



「面白そうだから僕も一緒に行ってみるよ」


「師匠に付いていくのは弟子としての務めッス。ご一緒するッス」


(義人はともかくとしてロリ長はこの展開を完全に面白がっているな… 待てよ、笑っている目の奥に怪しげな光があるぞ! ロリ長、お前は何を企んでいる? さてはハーレム拡大の一環にするつもりだな。先輩たちを変態の巣窟に誘い込むつもりなのか? これは力尽くでも阻止しないといかんな)


 自分が梓から「セクハラ大魔王」と呼ばれているのは丸ッと無視して、相変わらずロリ長を変態扱いする重徳。現時点でその所業を顧みるにつけ、重徳の梓に対する悪行とロリ長のエルフの幼女に対するド変態な野望はレベル的には五十歩百歩ではないだろうか。どうも重徳という人間は自分がしっかりと見えていないような気がしてならない。


 こうして放課後に五人で第8ダンジョン部に向かう話が決定をみる。部員不足に悩む先輩たちが大喜びする未来が誰にでも容易に予想できそう。






   ◇◇◇◇◇







 その日の放課後…


 重徳はいつもの仲間と一緒に教えてもらった場所に向かう。ダンジョン部の部室があるのは他の部活動の部室棟とは独立した2階建ての建物となっている。



「第1ダンジョン部という看板が掛かっていますから、この並びにあるはずです」


「結構な人数が出入りしているな。おそらくは上級生たちだろうが、うちのクラスの男子どもとは違って中々精悍な面構えだ。やはり1年間の差というのは大きいんだな」


 なぜか先頭を歩いている歩美と梓。二人は張り切った様子でダンジョン部が並ぶ部室棟の奥を指差している。アスファルトの通路から見て手前から順番に1~8のダンジョン部の部屋が奥に向かって並んでいるらしい。そして梓の発言どおりに第1ダンジョン部には大勢の上級生が出入りして、いかにも部全体の勢いがあるように見受けられる。



「おや、そこに居るのは四條じゃないか! お前ももしかして我が第1ダンジョン部に入部を申し込みに来たのか? お前ならば歓迎するぞ」


「東堂先輩、こんにちは。実は俺たちが用事があるのは第8ダンジョン部です」


 第1ダンジョン部のドアが開いて中から出てきた大柄な人影は東堂先輩本人。この人物が所属しているのなら第1ダンジョン部に人が集まるのは当然だろう。天然勇者にして、その人柄も申し分ない。その東堂先輩は重徳の「第8ダンジョン部」という発言を聞いて一瞬怪訝な表情を浮かべるが、すぐに元の豪放な性格を取り戻す。



「そうか、第8が一番手で四條に声を掛けたのか。あそこは今は元気がないから、お前の手で活気を取り戻してやってくれ。すべてのダンジョン部が切磋琢磨して競争すれば良い結果が生まれるからな」


 重徳の肩をポンと叩いて東堂先輩は去っていく。


(本当に大きな人だよ、自分の所だけじゃなくってダンジョン部全体の将来を見据えているんだな。俺に第8ダンジョン部の活気を取り戻せと言ってくれたけど、そこまで出来るかどうかの自信は今のところはまったくないぞ)


 こんな感慨を抱いている重徳の横では、梓が…



「なるほど、今の人が噂に聞く東堂先輩なのか。いつかはこの剣で遣り合ってみたいな」


「梓ちゃん、あんな大きな人と打ち合ったら怪我をするからダメです。もう少し女の子だという自覚を持ってください」


「歩美、女だからといってダンジョンの魔物は手を抜いてはくれないぞ。むしろゴブリンなどは女を見ると喜んで飛び掛ってくるからな。まるでどこかのセクハラ大魔王のようだ」


 話題が急に自分に飛び火した重徳の表情が歪んでいる。こうして梓に苛まれるたびに、梓の中での自分の評価が最底辺であるのを思い知らされるかのよう。


 そんな重徳の心情などお構いなしに歩美が続く。



「そうなんですか、ダンジョンでは気をつけないといけないんですね。それにしてもノリ君はなんで私には何もしてくれないのでしょうか?」


(どうしてここで歩美さんが溜め息をつくんだ? 俺はちゃんと朝の挨拶とかメールの返信をしているぞ。一体何をしてもらいたいんだろうな? 女子が考えることは謎が多すぎてさっぱり理解不能だ。それよりも二宮さんの認識では俺はセクハラ大魔王ということで確定しているんですね。そうなんですね! ここまできたら別にいいんだけど…)


 歩美に対する疑問と梓に対するややヤサグレた感情を抱く重徳。そんな彼はお構いなしに、一行は建物に沿って一番奥に進んでいく。



「どうやらここが第8ダンジョン部のようですけど、本当に大丈夫なのでしょうか?」


「さすがに不安感は否めないな」


 女子のお二方が口にするように棟の一番奥にある第8ダンジョン部の外見は見ている方が気の毒ななる外見。入り口に掛かっている看板はダンボールにマジックで雑に手書きしただけだし、割れた窓ガラスは修繕する予算がないのか、ガムテープを張って補修している。いくら四條流の貧乏道場でもここまでの惨状ではない。


 ようやく目的の場所に辿り着いたので、重徳はドアノブに手を伸ばそうとする。だがここで梓からの鋭い声が飛ぶ。



「四條はそこを動くな! セクハラ大魔王が迂闊にドアを開けると、中で女子の先輩が着替えている場面に遭遇する可能性が高いからな」


「そうです、私たちが先に確認しますからその場で待っていてください」


(さいですか、二人の頭の中での俺に対する認識がよくわかりましたよ。ええ、知っていましたとも! 別に俺は覗きをするためにここに来ているわけではないのに…)



 コンコン


「開いているから入っていいよ」


 いかにも建て付けの悪そうなドアを梓がノックすると中から返事がある。どうやら着替えている人はいないよう。梓は重徳に「先に行け!」という意味で顎で指図している。彼女と重徳との力関係が如実に表れている態度といえよう。



「失礼します。稲盛先輩。同じクラスの仲間に話をしたら四人一緒についてきたんですが、第8ダンジョン部について改めて話を聞かせてもらっていいですか?」


「四條君、でかした! 早速クラスの友達を連れてくるとは君の手腕に感謝するぞ。狭い部屋だけどみんな中に入ってくれ」


 待っていたのはリーダーを務める稲盛先輩をはじめとしたMBGに所属する5名の先輩方。重徳が仲間を連れてきたという思いもかけない出来事に彼女たちの表情が明らかに浮かれている。



「やはり私の予感が的中していました。こんなきれいな女子の先輩が待っていました」


「四條が何か仕出かさないかキッチリ監視しておこう」


(歩美さんと二宮さん、まるで俺がそこいらじゅうの女性に手を出しているロクでもない人間みたいじゃないですか! 監視なんかしなくても先輩に失礼なことはしませんよ)


 それは横に置いて、部室の中は意外と広くて十人くらい入ってもまだまだ余裕がありそう。重徳たちは中央に置いてあるテーブルの手前側に並んで腰を下ろす。



「ようこそ第8ダンジョン部へ! 私がこの部の代表を務める稲盛真由美だ。ここに並んでいるのは全員が2年生だよ。現在部員はこの五人しかいない。アットホームな部だから気を使わなくていいからね」


 稲盛先輩の挨拶に続いて他の先輩たちは自己紹介をする。それが終わったら重徳たちも同じようにひとりずつ自己紹介。



「なんと! 四條君は勇者を三人も連れてきてくれたのか。これは大手柄だぞ。おまけに四條君自身も模擬戦で勇者を十人破っているとあれば、四人は即戦力級の扱いをして間違いないな」


 稲盛先輩を筆頭に他の先輩たちはホクホク顔。まだ知らせてはいないけど、三人の勇者のうち二人は天然物でひとりは努力型だから、確かに戦力としては申し分ないかもしれない。もちろんダンジョンで重徳の戦いぶりをその目にしているから、当然彼も即戦力級以上の扱いをされているのは言うまでもない。ただ歩美だけはひとりで浮かない顔をしている。自分が役に立たないのではないかと思い詰めているよう。



「それからそこの彼女! ダンジョン内では戦う能力だけを求められるわけではないんだ。食事の準備や怪我の手当てなど分担しなければならない仕事が山のようにある。自分が戦闘に向いていないからといってそんなに落ち込む必要はないんだよ」


「はい、ありがとうございます。今のお言葉はとっても心強いです。私はお料理は得意なんです!」


 歩美の顔は一気に上を向いている。実際にダンジョンに入って活動をしているからこそ、こういう自らの体験に基づいた発言ができるんだろうな。確かにダンジョンでは戦うばかりではない。かくいう重徳もカレンに道案内やドロップ品の回収など様々な面でずいぶん世話になっているし。


 こうして和やかなムードで話は進んでいく。だがその時、重徳の気配察知スキルがドアの外で聞き耳を立てる人間がいるのを捉える。ロリ長も同様に何かを察知したらしく、彼の人差し指がドアの方向を差している。重徳は部屋の全員に静かにするようにというゼスチャーをしてそっとドアに近づいていく。


 音を立てないようにゆっくりとドアノブを回して、勢いよくドアを内側に開くと…



 ドタドタという音とともに、金髪縦ロール女子ともうひとりの女子が部室の内部に転がり込んでくる。そして後ろの女子がバランスを崩して縦ロールに覆いかぶさるようにしがみ付いては縺れるように床に転がる。


 ビタン


 ついには折り重なるようにして床にうつ伏せになっている二人がいる。そして両者ともに短めのスカートが捲り上がり、グリーンとブルーのパンツに包まれた可愛らしいお尻を全員の前に晒すのだった。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


クラスの仲間を引き連れて第8ダンジョン部に向かった重徳。説明を聞いている最中に部室に転がり込んできた女子二名とは一体…


この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


「面白い」「続きが早く読みたい」「先輩たちがロリ長の変態ハーレムの罠に引っ掛かってしまうのでは?」


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