第19話 梓の怒り


 重徳はダンジョン3階層で出会ったばかりのカレンに話し掛ける。ちょっと前の彼だったらこんな美人の前で顔すらまともに見られなかったはず。その点でいうとわずかな期間で大きな成長を遂げているよう。



「怪我はないですか?」


「なんとか無事だ。本当に助かったよ」


 さっきの戦闘場面を振り返ってもらったら、やはり前方からやってきた3体のゴブリンソルジャーに気を取られて、後方から迫るゴブリンメイジには全然気がついていなかったそう。もうちょっとタイミングが遅れてカレンにあの魔法が当たっていたらと考えると本当に間一髪だった模様。


 まあそれでも重徳の救援が何とか間に合ったので終わりよければすべてよしということにしておく。なので事情を訊き出すのはここまで。それよりも重徳には気になる事柄があるので、そちらを優先にしたいよう。



「ところでこの前は事務所のカウンターにいたのに、何で今日はダンジョンを探索しているんですか?」


「ああ、その件か… 事務所に勤めているのは土日のアルバイトでダンジョン冒険者が私の本業なんだ。まだ始めて半年しか経っていない駆け出しだけどね。今は2階層と3階層を中心に活動している」


「なるほど、そういう理由でしたか」


(土日はここに来る冒険者が多いからアルバイトで雇われていたんだ。今までダンジョン内で出会わなかったのは俺が1階層にずっといたからだろうな。それにしても本当にきれいな人だよな。クオーターだって言っていたけどそのせいか色白で瞳は僅かにブルーが混ざっている。事務所にいた時は背中まである長いブロンドの髪が印象的だったけど、今は戦闘の邪魔になるから後ろで束ねている。その上スタイルが抜群で、学園の女子にはない大層ご立派なメロンを両胸に抱えていらっしゃるので、どうしてもそこに目がいきがちになるな)


 重徳が内心このような邪な考えを抱いているとは知らずにカレンはベタ褒めし始める。どうやらこの手の男子の不躾な視線には免疫があるよう。



「それにしても君の戦いぶりは凄かったな。3体のゴブリンソルジャーを相手にして5秒もかからなかったんじゃないか。おまけに魔法は飛んでくる途中で消し去ってしまうし。まだ若いのに大したもんだ」


「ゴブリンは1階層でイヤというほど相手しましたから倒し方が体に染み付いているんです。魔法を消し飛ばしたのはちょっとしたコツと言いましょうか」


「すまない、冒険者の技術に関しては手の内を明かさないのがルールだったな」


「いえ、気にしないでください」


「確か君は四條と名乗ったようだけど、四條流と何か関係があるのか?」


「道場のひとり息子です」


(この人も四條流を知っているんだな。もしかして我が家の道場って知名度が上がっているのか?) 



「私のアパートからここに来る時にいつも前を通っている。何をしている道場なのか前々から興味があったんだ」


(デスヨネー! ただのご近所さんでした。あれ? これはもしかして勧誘のチャンスなのではないか。せっかくだから道場のアピールしておこうか。それにこんなきれいな人が入門してくれたら門弟たちが血の涙を流して喜ぶだろうし)



「俺の戦い方は四條流が基礎になっているんですよ。特にゴブリンのように人と基本的に体の作りが変わらない魔物に対してはとっても有効です」


「そうなのか! 君の戦いぶりを見て私ももっと戦うためのベースが必要だと感じたんだよ。良かったら今度道場を見学させてもらえるかな」


「もちろんです。今の時間なら稽古に一番熱が入っていますから、良かったらこのまま外に出て一緒に行きますか?」


「それは助かるな。よろしく頼む」


 こうして重徳はカレンと連れ立って転移魔法陣に向かう。歩きながら話をしたところによると、彼女の装備はサバイバルナイフと電流が流せる特殊警棒。組み合わせとしては悪くないが、ゴブリンソルジャーやジェネラルが手にするロングソードと比較すると力負けする感は否めない。冒険者を続けていく上で更に高いレベルを目指すのだったら、戦いの技術や装備をもっと突き詰めていかないと今日のように危険な場面に遭遇する可能性が高いと彼女自身常々考えていたらしい。


(とは言っても俺自身の武器はバールなんだけどね。カレンさんに全然偉そうなことは言えないな。予算の関係で選んだ相棒だけど、もっと下の階層に挑むんだったら見直さないといけなくなる日がいつか来るだろうな)


 などと考えながら重徳はカレンと連れ立って転移魔法陣までやってくる。その後1階層に戻って、その足で自宅兼道場まで彼女を案内するのだった。






   ◇◇◇◇◇






 重徳がカレンを見学に連れて行くと、若い門弟たちは色めきたっていつも以上に張り切って稽古を開始する。それはもう怪我人上等の鬼気迫る激しい稽古ぶりが繰り広げられていく。



「想像以上にもの凄い熱気なんだな。古武術と訊いてもっと静かに組み合うものだと思っていた」


「ウチの道場は超実戦派ですからね。だからこそゴブリン相手にあれだけの攻撃を仕掛けられるんです」


 重徳の勧誘トークは絶好調。すっかりカレンはノセられている。



「よし、思い切って入門するとしよう。きっと私のダンジョン探索に役に立つはず」


 カレンが正式に入門を決めると、誰が指導に当たるかで門弟たちの間で殴り合いまで始まる始末。結局師範を務める祖父に一喝されて指導役は最古参の水谷さん(68歳・四條流7段)に決定する。水谷さんは重徳もちょくちょく稽古をつけてもらっているのだが、年齢とともに技のキレが増していく正に達人と呼べる存在。この人に任せておけばカレンもあっという間に上達するだろう。今日は新たな弟子を2名もゲットするという四條流にとってはここ10年来ない画期的な出来事が起こった日となる。おまけに重徳はカレンと今度一緒にダンジョンに潜る約束まで取り付けられて心の底からラッキーな気分にひたっている。






   ◇◇◇◇◇







 翌日…


 いつものように朝の鍛錬を終えた重徳はダッシュで学園に向かう。これなら始業5分前に到着できそう。歩美と挨拶をする時間くらいは何と確保できそうだとウキウキ気分で足取りも軽い。彼女のとびっきりの笑顔を思い浮かべながら校門に到着すると二人の男子生徒が重徳をじっと見ているのに気づく。


(なんだコイツら。人の顔をジッと見やがって。どこかで見た記憶があるんだけど、こいつらは誰だっけ?)


 すっかり2名の男子が誰だったか忘れている重徳が彼らの前を通り掛かると…



「ちょっと待ってくれ!」


 片方の男子生徒が重徳に向かって声を掛けてくる。面倒なことになったと思いながら不機嫌全開で重徳がイヤイヤ二人のほうに顔を向けると、彼らは思いがけない行動を取り始める。



「本当にサーセンでした!」


「反省しているので、どうか勘弁してください!」


 なんと2名の男子生徒は重徳の目の前に並んで、しかも他の生徒がまだ登校中の校門の前で土下座を決めている。もちろん重徳にはこんな場所で土下座される心当たりはないので戸惑いを隠せない様子。


(公衆の面前でこいつらは何をやっているんだろうな? 俺も時間がないから早く教室に行きたいのに)


 そんな重徳の心情など知る由もなく、二人は地面に額を擦り付けたままこれまでの経緯を話し出す。



「この前校舎裏に呼び出して粋がったことを言いました。あれは全部ウソなんです。中学の時に多少のヤンチャはしましたが、誰かを自殺に追い込んだことなんかありません。校舎裏に呼び出した時には舐められないように18禁のエロゲーのセリフを並べただけでした」


「あとから警察に呼ばれて事情聴取でコッテリと絞られました。少年課の警察官から丸1日事情聴取されるわ、学園は1週間の停学になるわで、もうあんな恐ろしい目に遭うのはコリゴリです。どうか許してください!」


 ここまで二人が説明した時点で、ようやく重徳にも話が見えてくる。


(ああ、やっと思い出したぞ。この二人は入学初日に俺を呼び出した連中だったのか。相当なワルぶっていたけど、あれが全部エロゲーのセリフだったとはお笑いだな。たぶん俺があの学園長のジジイに色々と話したせいで、それが警察に伝わって事情聴取されたんだろう。女子生徒が二人自殺したなんて言うもんだから、俺もそのままジジイに伝えたんだよな。たとえウソだったとしても警察で事情聴取の名の元にキッチリお灸を据えられたんだろうな。中々出来ないいい経験だったな)


 どうやらこんな流れで軽症だった二人が停学が明けてこうして登校したというのが重徳にも理解されたよう。その初日に朝から校門の前で土下座を敢行とは、よっぽどお灸が効いたのだろう。こうして事情が明らかになってみれば、結局は高校デビューを狙ったただのガキが粋がっていただけのお話というオチ。


 重徳としても彼らの話を訊いてなんだか拍子抜けした気分。とはいえ朝の貴重な歩美との時間を無駄にされた点においては少々業腹なよう。



「これに懲りたのならバカみたいに粋がるんじゃないぞ。それから残りのヤツらはどうしているんだ?」


「はい、二人とも入院していますが、来週には退院します。勇者の職業のおかげで怪我の治りが早いんです」


「そうか、あいつらにもキッチリ言い聞かせておけよ。何かあったら俺がいつでも鉄槌を下すからな。あっ、そうだ。お前ら今からコンビニまで行ってパンと牛乳買ってこい」


「えっ今からですか?」


「ウダウダ言ってないで早く買ってこいよ。パシリ一回で入学初日の件をチャラにしてやるんだから安いもんだろう」


「すぐに行ってきます」


「本当にサーセンでした」


 重徳の言葉に弾かれるように二人は最寄りのコンビニに向かって走っていく。その後ろ姿を見送りながら、重徳は朝からいいことをした気分で教室に向かう。


(なんだよ、結局はギリギリの時間じゃないか。あいつらが買ってきたパンと牛乳は休み時間に食べればいいか)


 などと考えながら教室まで猛ダッシュ。せっかく5分前に到着できると思ったのに結局は遅刻ギリギリの時間になってしまったのは少々残念。転がり込む勢いで教室に入るとあの笑顔が彼を迎えてくれる。



「ノリ君、おはようございます。ずいぶん慌てて来たみたいですね」


(キター! 朝の「ノリ君」いただきましたぁぁぁぁ! どうでもいい野郎二人の土下座なんかよりもやっぱり朝はこれでしょう。歩美さんの笑顔は最高の癒しを俺に齎してくれる。本当にマジで天使!)



「歩美、おはよう! 今朝は校門でいきなり土下座をされたんだ」


「土下座ですか?」


 昨日はぎこちなく感じた「歩美」という呼び方だが、今日はなんだかスムーズに口に出している。女子と会話した経験の浅い重徳でもやればできるよう。


(これは中々いい感じじゃないか)


 自画自賛している重徳に対して歩美は「朝からなぜ土下座」という表情で頭の上に???を浮かべている。だが彼女にはそれよりも重徳に伝えたい重大な出来事がある。



「それよりもノリ君、聞いてください。昨日の帰りは梓ちゃんが色々と聞き出そうとしてきて大変だったんです」


「そうだったんだ。あっ! 担任が来た」


 重徳と歩美は自分の席に素早く戻ってホームルームの時間が始まる。重徳に脅された影響で昨日は休んでいたが、あのクソ担任は何とか復活したらしい。もっとも重徳が座っている方向にはまともに目を向けられないらしい。せっかく教室にやってきたにも拘らず、クソ担任は大した連絡事項はなくてあっさりと戻っていく。


(はいはい、そのまま研究室にこもってすっと出てこなくてもいいですよ)


 教室を去る担任の後ろ姿に向かって心の中で舌を出す重徳であった。






   ◇◇◇◇◇







 本日の午前中は実技実習の時間と相成っている。昨日までと違う点は四條流に入門した高田が重徳たちの訓練に合流したこと。



「えー、みなさん。本日からここにいます高田君が四條流の弟子として一緒に訓練しますのでよろしくお願いします。呼び方は義人でいいか?」


「はい、師匠! 義人と呼び捨ててほしいッス。皆さんもどうかよろしくお願いします」


 重徳がロリ長たちに紹介すると、全員が「何で?」と言う表情を浮かべている。そりゃそうだろう。昨日模擬戦をやってその後義人が入門した経緯をまったく知らないのだから。



「何でその義人君が四條を『師匠』と呼んでいるんだ?」


「師匠は俺の師匠ッス!」


 二宮さんの疑問に義人本人が答えているが、それではまったく答えになっていない。仕方ないから重徳がもう少し説明を加える。



「昨日の模擬戦で俺に敗れた直後にこいつから弟子入りを志願されたんだ。だから今日から義人は俺の弟子兼四條流の門下生という訳だ」


 この説明でその場にいるみんなはなんとなく理解してくれたよう。さあ今日からは五人がひとつのグループになっての訓練開始。



「それじゃあ義人にはまずが四條流の呼吸法を教えようか。気の鍛錬に効果があるからお前のスラッシュの威力が上がるぞ」


「本当ッスか! ぜひお願いするッス!」


「四條、その呼吸法というのは何だ? 詳しく説明してくれ」


 梓がなんだか上から目線で聞いてくる。勇者としての能力向上に貪欲な点は彼女の右に出る者はいない。


(相変わらず今日も朝からキツイ物言いだなぁ~。ここは下手に出てご機嫌を取っておくか)


 というどうでもいい事情もあって、重徳は他の四人を前にして呼吸法の説明開始。



「人間の体内にある〔気〕を体中に巡らせるための呼吸法だよ。俺はこの気で身体強化のスキルを発動できたんだ。義人は気付いていないかもしれないけど、あのスラッシュも気を利用しているんだよ」


「そうだったんスか。全然知らなかったっス」


「そうなのか、それは私も学んでみたいな。四條、今からキッチリ教えてもらいたい」


「僕もやってみようかな」


 二宮さんに続いてロリ長まで乗っかってきている。ついでだから歩美に…


(どうする?)


と視線を向けると、


(頑張ります!)


という表情で頷いているから、全員で朝イチは呼吸法の鍛錬となる。それよりもすでに二人の間で目だけで会話が出来るほうが驚きではなかろうか。出会ってまだ10日ほどしか経過していないのに、長年連れ添った夫婦のようなコンビネーション。



「それじゃあ、ヘソの下に注意を向けてゆっくりと息を吸ったり吐いたりしてくれ。次第に丹田に存在している気を感じてくるから、まずはそこまでやってみようか」


「四條、ヘソの下と言われても正確な位置がわからないからもっと具体的に教えてくれないか」


「だいたい体の真ん中だと思う場所かな。人によって多少の個人差があるけど」


 梓は生真面目ゆえに自分がわからないことは事細かに聞いてくるタイプ。しかも具体的と言われると重徳も説明に困る。



「面倒だからこの辺だと指をさすんだ」


 梓の指示がついに命令調にランクアップ。


(教えているのは俺の方なのに…)


 上から目線で命令された重徳は、仕方がなく梓に近づいていく。そして…



「たぶんこの辺だよ」


 あろうことか梓のヘソ下5センチの箇所に指で触れる。


 ピシッ


 その瞬間、世界が凍り付いた。


 そして一拍おいて…


 ピキッ


 梓から何かがキレる音が響く。そして時間が動き出す。だがそれはあくまでも梓を中心に動いているかのよう。もちろん彼女の背後には般若のスタンドがクッキリと浮かび上がっているのは言うまでもない。



「四條、貴様、このセクハラ野郎がぁぁぁぁぁぁ!」


「えっ、二宮さんが指でさせって言ったんじゃないか」


 いきなり梓の地雷を踏み抜いた重徳が慌てて弁明するが、そんな言い訳などこの女勇者に通用するはずがない。



「貴様、平気な顔をして女子のこんな恥ずかしい部分に気安く触るな! とんでもないセクハラ男だな! 自分の体の部分を指せと言ったんだ!」


「ノリ君、私以外の女の子に気安く触れてはいけません!」


 梓が顔を真っ赤にして重徳を非難している。確かに言われてみればヘソの下のかなり微妙な箇所だったかもしれない。その隣では歩美がなんか声を上げているが、突っ込む方向が大幅にズレているような気がしてならない。


(それにしても俺自身の体を指すんだったら最初からそう言ってくれればいいのに。教えるつもりだったのにセクハラ扱いされてどうにも解せない)


 梓の理不尽な怒りに触れた重徳。納得できない部分もあるが、ひとまずは謝ろうとする。



「どうもすいませんでした」


「こんなあくどいセクハラをしておいて『すいません』で終わらすつもりかぁぁぁ!」


「ええ、じゃ、じゃあどうすればいいんでしょうか?」


 すっかり梓の気迫に押されている重徳はあくまで低姿勢で何とかこの場を収めようと努力をしている。だがそんな努力などお構いなしの女勇者。



「ほう、素直に侘びを入れる気になったか。だったら腕を出せ。この場で叩き斬ってやる」


「そんなご無体な」


 必殺の土下座体制に移行して必死で頭を下げる重徳。だが横から話をややこしくする人物が…



「梓ちゃん、ダメです。腕を斬られたら私はノリ君と手を繋げなくなります」


(歩美さん… 心配するのはそこじゃないだろう)


 地面に頭を擦り付けながら重徳が心の中でコッソリと突っ込んでいる。だが梓はたった今口にのぼらせたばかりの歩美のセリフに食い付く。


「歩美、四條と手を繋いだのか?」


「あっ」


 昨日はせっかく梓の追及を耐えたのに、この場でポロッと白状してしまう歩美。元々隠し事が出来ない性格なのでいずれどこかでボロが出るとは思っていたが、まさかこんな場面で自らバラしてしまうとは…



「四條、貴様は歩美にまでチョッカイを出しているのか? もう我慢ならん。腕とはいわずにこの場でそっ首叩き落してくれる」


 ますますヒートアップする梓。歩美が火に油を注いだわけだが、ここで重徳はとっておきの誠意をみせる。



「二宮様、大変失礼いたしました。お詫びの印といたしまして今週いっぱい学食の昼飯を奢らせてください」


「なんだと、そのくらいで許されるとでも思っているのか?」


「お飲み物もご用意させていただきます」


「ふん、まあいいだろう。二度とあんなセクハラ行為に及ぶなよ」


「固く肝に銘じます」


 こうして何とか梓を丸め込んだ重徳。どうやら彼女の弱点は食べ物に釣られやすいという点にあるよう。やれやれと胸を撫で下ろして土下座の体勢から立ち上がろうとすると、その横からロリ長と義人が…



「四條は朝から飛ばしているね」


「師匠、これがラッキースケベというやつッス!」


 ロリ長と義人が無責任に囃し立てている。せっかく収まり掛かった梓の怒りのボルテージが再上昇する気配を見せているのは気のせいではない。



「四條、貴様は今週いっぱい私のパシリを務めろ」


 重徳、見事なフラグ回収。朝イチで男子2名にパシリを命じた出来事がブーメランとなって我が身に降りかかってきている。



 とまあこんな具合で若干のトラブルはあったものの、呼吸法の鍛錬は順調に進んでいく。



「師匠! ヘソの下が暖かくなって来たッス!」 


「おう、その調子だ。その暖かく感じたモノを体中に循環させていくんだ」


 やっぱり義人は自己流でスラッシュを撃ち出していただけあって一番早く気の存在に目覚めたよう。さすがと言うべきだろう。



「ああ、これが気なんだね。僕もしっかり感じているよ」


「なるほど、これが気というものか。四條のせいで恥ずかしい思いをしたが、仕方がないからこれでチャラにしてやろう。だが学食とパシリの件は忘れるなよ」


 ロリ長と二宮さんも殆ど同じタイミングで気の在り処に気付いたよう。この二人の天然勇者は覚えが良すぎて困るくらい。なんでもあっという間に自分のモノにしてしまので、あと2週間くらいでスラッシュも飛ばしてしまうのではないだろうか? それでは義人の立場がななくなってしまうかもしれない。ただし梓は重徳の指が彼女の下腹部に触れたことに対して相当根に持っているよう。一応感謝はしているようだが、キッチリと脳天に釘を突き刺しておくのも忘れてはいない。そして…



「ノリ君、全然わかりませ~ん」


 歩美だけは気を感じるのに相当時間がかかりそう。勇者たちに比べると悲しい程に才能がないから仕方がない。これでも本人はとっても頑張っているのだが。



「歩美は根気強く頑張るしかないな」


「えー、私も早く皆さんに追いつきたいです。そうです、ノリ君がこの辺だって指で場所を教えてくれればたぶんすぐに出来るようになるんじゃないでしょうか」


(歩美さん、俺を完全に誘惑していますね。さっき俺の指が二宮さんの恥ずかしい箇所に触れてしまったのが我慢ならないんですね。でも今は二宮さんがこちらをジッと見ているから、不用意な真似は出来ないんですよ)



「うん、そうだね… ちょっと肩に力が入っているから息を吐きながら肩の位置をもう少し下げていこうか」


 いくら何でも丹田の場所を指し示すわけにもいかない重徳は、その代わりとして彼女の肩に両手を添える。何の気なしにとった重徳の行動なのだが、なぜか歩美の頬が桜色に染まっていく。歩美は和風の顔立ちなのでピンク色じゃなくて桜色がしっくり来る。



「わ、わかりました。こ、こんな感じでどうでしょうか? あっ、もうちょっとノリ君の手を肩に乗せておいて下さい。その方がリラックスできそうです」


 こうして重徳は歩美が満足するまで彼女の肩に両手を添えることとなるのだった。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



カレンは道場に入門するし、梓はセクハラ騒ぎでカンカンだし、重徳の周囲は相変わらず賑やかな様子。次回はカレンとの約束でパーティーを組んでダンジョンに向かう予定です。


この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!



「面白かった! 続きが気になる! 早く投稿して!」


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