第2話 新たな出会いと見慣れた出会い

 重徳のステータスを巡って彼とロリ長と二人で考え込んでいるところに頭の上からアルトボイスの声がかかる。はっきりとした口調の艶のある声に「他に知り合いもいないし一体誰だろう」と顔を上げる二人。



「君は確か四條君だったね」


 その声のほうを見上げるとそこには2名の女子が立っている。クラス全員の顔など覚える時間もないわけで重徳がさして出来のよろしくない頭を回転させてなんとか記憶をよみがえらせてみれば、片方は自己紹介の時に女子で唯一の勇者だといっていた生徒で、もう片方は重徳と同じ一般人の子のよう。急に声を掛けられた相手が女子だったため、まったく免疫がない重徳は急激に挙動不審に陥って対応がしどろもどろに。



「は、はい! 自分は四條重徳でありましゅ」


 どこのヘタレな2等兵なんだよ! 声はひっくり返っているし、思いっきり語尾を噛んでいる。女の子を相手にする際のしゃべり方としては0点だろう。しかもガバッと立ち上がった動きが不自然すぎる。



「私は二宮にのみや あずさだ。それから隣にいるのが…」


「はじめまして、私は鴨川かもがわ 歩美あゆみです」


 いかにも自信たっぷりな態度で立っている女勇者の二宮梓と、奥ゆかしげに丁寧なお辞儀をしている鴨川歩美。対照的な二人が重徳の目の前にいる。ちなみに梓は肩まである栗色のストレートヘアで凛とした表情が印象的な美人で、歩美は印象的な長い黒髪をポニーテールに束ねて腰の辺りまで垂らしている。そこはかとなく漂う雰囲気に日本的な可愛らしさとおっとり感を醸し出す。頼もしく感じるのは梓だが、一緒にいて安心感があるの歩美かもしれない。


 二人の自己紹介を受けて重徳が何か言う前に突然ロリ長が立ち上がる。



「どうもはじめまして! 僕は斉藤信長、早速僕のハーレム作りに二人とも協力していただけるんですね。何しろエルフの幼…」


「信長、そこまでだーーー! それ以上しゃべったらお前のこのクラスでの社会的地位が地に落ちるぞ!」


 この変態ロリコン勇者は女子二人を目の前にしていきなり何かとんでもないフレーズを口走ろうとしている。重徳が止めなければ新学期早々重大な事案が発生した可能性が高い。まあ最低でも向こう一か月は女子全員から口もきいてもらえなかっただろう。


 それはそうとして、急にデカい声を出した重徳を女子二人が怪訝な表情で見ている。かたや挙動不審者ともうかたやは変態ロリコン勇者なのだからさもありなん。こんな男子二匹に対してどう反応すればいいのか迷っている歩美を制して、梓がキッパリとした口調で宣告を下す。



「残念だが私は君のハーレム作りに協力する気はない」


 女勇者的にはどうやらロリ長ハーレムに加入する気はない模様。たったの一言でにべもなく切って捨てられている。変態の末路としてはこんなものだろう。さらにそこへ歩美も乗っかってくる。



「わ、私も心からご遠慮させていただきます」


「出だしから躓いたーー!」


 ロリ長は頭を抱えてその場に蹲っている。どうやらハーレム作りの第一歩を思いっきりしくじったよう。重徳的にはザマー見やがれ! といった感情と変態勇者の犠牲になる女子が出なくてひと安心という気持ちが入り混じった表情をしている。やはりロリ長の体から滲み出す不穏な空気を素早く察知したのだろう。速攻で見事なお断りの返事を食らったロリ長はしばらく立ち直れなさそう。自分の崇高な目的のためには見境がなくなる危ない性格は早めに治療を受けたほうが良さそう。どんな名医に見てもらっても無駄かもしれないが… そのような意味では、このクラスで最大の危険人物はロリ長かもしれない。重徳の中でさっきちょっとだけ上方修正したのだが、現在の格付けは『変態セクハラ勇者』にダウンしている。


 ロリ長に向けて薄汚れたゴミをを見るような視線を送りながら、再び梓が口を開く。



「どうやら四條君は前に座っているバカとは違って一応の常識があるようだな。実は君を見込んで頼みがある。歩美は私の幼馴染なんだが何かの間違いでこのクラスに配属されてしまった。同じ立場の君にぜひ仲良くしてもらいたいんだ」


「え~と、二宮さんでしたね。そこに蹲って真っ白な灰になっている信長を『バカ』と評していただいてありがとうございます。出来ることなら二度と立ち直れないくらい言ってやってください。いい薬になります」


 どうやらこの重徳はロリ長の立場を徹底的に貶める作戦に出た模様。そうすれば必然的に自分の好感度が上がるという実に鬼畜の所業を繰り出す。隙あらば仲間すら売ってのけるという中々いい性格をしている。だがこの重徳のセリフに歩美がクスリと笑いながら話し掛けてくる。



「四條さんと斎藤さんは仲がよろしいんですね。もしかして同じ中学のご出身ですか?」


「いいえ、ついさっきちょっとだけ言葉を交わしただけの間柄で(こんな変態ロリコン野郎は)友達でもなんでもありません」


 武士の情けで()の中の言葉を口にしない重徳。現在天に召されつつあるロリ長に対する手向けの気持ちの表れのよう。そんな重徳の気持ちを知ってか知らずか、歩美はなぜかそのセリフを肯定的に受け取っている。



「男の人ってなんだか羨ましいです。すぐに仲良くなれるんですね」


「いや、(こんなセクハラ野郎なんか)けっして仲がいいわけじゃありません。」


 またもや武士の情けを発動する重徳。でも心の中ではちょっとだけ蹲っている変態勇者に感謝もしている。こやつの暴走のおかげで不慣れな女子との会話が何だかスムーズに運んでいるという手応えを感じているせいだろうか。とまあ、こんな遣り取りのあとで歩美が本題を切り出す。



「自己紹介でも申し上げましたが、私のステータスには職業も資格も表示がないんです。そのせいもあって、なんだか場違いのクラスに来てしまってどうしていいのかわからなくて。四條さん、どうか同じ立場の者としてよろしくお願いします」


 またもや深々と頭を下げる歩美。ずいぶんと腰の低い人のように重徳の目に映っている。第一印象で感じた日本的な奥ゆかしさというのは、やはり間違いではなさそう。


 それよりも目の前のこの二人は幼馴染だった模様。女勇者と一般人という違いはあっても子供の頃からの友達を思いやる梓も中々人間ができているように思えてくる。特にロリ長をバカ呼ばわりした点は実に評価が高い。重徳的には、ロリ長が心の底から悔い改めるまでもっと言ってもらいたいと感じている。



「えーと、俺としても絶賛戸惑い中なんです。鴨川さん、同じ立場としてこれから色々と協力していきましょう。それから二宮さんもどうぞよろしくお願いします」


 満足に女子と話した経験がないからこの急展開に新たな戸惑いが生じているが、それはなるべく顔に出さないように重徳は返事をしている。どうやら好印象を与えている模様で、なんだか今まで自分の中で感じた記憶がない新たな経験値をゲットしている気がしている。


 とここで、床の上に蹲って白い灰になっていたロリ長がスクっと立ち上がる。



「女の子同士で幼馴染ということはお二人は百合なんですね! それでも構いませんから是非とも斉藤ハーレムにお越しください」


「どこからそういう誤解が生まれるのか一度そのアホ頭をかち割ってもいいぞ。外に出るか?」


 これぞロリ長の生き様、言い方を変えれば目的に懸ける執念であろう。だがきっとそのやり方では一生ハーレムなんてできないはず。その証拠に梓の額に怒りのマークが浮かんでいるし、歩美はその横でどうしていいのかわからずにオロオロしている。だがそんな仕草がなんだか小動物ぽくって可愛げに重徳の瞳に映る。


 それよりも気になるのは、今まで脇目も振らずに修行一辺倒だった重徳の生活に変化の兆しか? こうして女の子とお近づきになれるなんてこのクラスも中々捨てたものではない… などと彼は心の中で考え始めている。



「ひとまずは二宮さんは落ち着いてください。この信長もどうやら今の攻撃で相当参っている様子ですし」


「バカには徹底的にわからせてやる必要があると思うが?」


「やっと白い灰から復活したのに、これ以上ダメージが加わると死んでしまいそうです」


 今のロリ長は表情は虚ろで目は宙を彷徨っている。ちょっとくらい薬が効きすぎた方がこいつのためだろう。死に体となったロリ長はそのまま放置して、重徳は女子二人とこの学校に入学した経緯などをお互いに話していく。どうやら梓と同じ学校に行きたいと考えた歩美がこっそりと聖紋学園を受験してどのような因果かはわからないが合格してしまったらしい。



 こうして和やかに話をしていたらオリエンテーションのために体育館に移動する時間となる。移動する時も梓と歩美は一緒に重徳の前を歩いている。彼はというとハーレム作りの第一歩をしくじって死に体のまま歩く気力もないロリ長に肩を貸している。そろそろひとりで歩いてほしいものだが、復活の兆候はまったくナシ。重徳としては3階の教室から降りる時はまだしも、戻る時は階段の下に放置する覚悟のよう。



 1時間程度でオリエンテーションは終了して、ロリ長も何とか自力で歩ける程度には回復する。重徳は入学式同様に話など一切聞かずに熟睡を決め込んでいた。今日の予定はこれで終了なので教室に置いてあるリュックを背負ったら帰る支度が完了する。女子の2人はもうすでに教室を出ているよう。そしてその時、重徳たちに近づいてくる気配が…



「よう、一般人君。なんだか女の子といい感じにしゃべっていたけど俺たちとも仲良くしようぜ」


「これから親睦を深める時間だ。楽しくやろうじゃないか!」


 ニヤニヤした表情で重徳を取り囲むのは四人、もちろん「仲良く」だの「親睦」だのというのは表向きのセリフだと百も承知。こんな呼び出しなんか中学時代に飽きるほど経験しているおかげで、少々のことではビクつかない神経の持ち主が重徳。いまだ虚ろな目をしているロリ長は急に表情を取り戻してどうするのかと目で合図を送る。どうやら手を貸すのも吝かではないというサインのよう。



「仲良くなるのは俺ひとりで構わないだろう。自分の力が勇者様にどのくらい通用するのか試してみたい気分なんだ」


「ハハハ、こいつはバカなのか! 一般人が俺たち勇者に敵うとでも思っているのかよ!」


「二度とこのクラスに顔出しできないくらいにタコ殴りにしてやるよ!」


 どうやらもう隠す気もないようで四人はあからさまに重徳に狙いを定めている。こいつらは確かバッタモノ勇者のはずで、体力の平均が150前後と重徳に比べて五割増し程度のスペック。それをまとめて四人となるとこれは結構な難敵かもしれないないが、重徳の頭の中では「勝負は数字だけで決まるものではない」という強気な考えが大勢を占めている。



「どこでも好きな場所に案内しろ」


「バカが! 後悔するなよ!」


 重徳は腰を浮かせかけたロリ長を右手のゼスチャーで押し留めて四人の後にくっ付いて行く。ついさっき女の子二人とお近づきになれたかと思えば、次に待っていたのは素行の良からぬ勇者からの手荒い歓迎ときている。だがどっちかというとこの空気の方が重徳自身の体に染み付いているからむしろ気は楽。女子との会話は不慣れなせいで自身が構えてしまうところがあるが、相手が野郎だったら全ての遠慮を取っ払って思う存分立ち回れる。

 

 さあ気兼ねなく仲良くしようじゃないか!… こんなヤバそうな空気を纏ったまま、重徳は教室を出ていくのだった。




  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 せっかく女子とお近づきになれたのに、今度は校舎裏での歓迎会。果たして重徳はこのピンチを切り抜けられるのか… この続きは明日投稿予定です。どうぞお楽しみに!



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