第2話 久しぶりの終電。

「おかえりー…(貴方がヒサメさんにもたれ掛かり左耳から)! やっぱり。珍しく25時を超えて帰ってきたと思ったら、こんなに疲れて…」


(ヒサメさんに髪を撫でられるサワサワした音と低い囁き声)


「また他人の抱えてる問題に首を突っ込んで、1人でどうにかしてきたのだろう? それは優しさじゃないよ」


「でもじゃない。本当に、お節介癖は僕や身近な人だけに留めておきなさい。他人が助かっても、君がボロボロになったら何の意味も無い。分かったかい?」


「…よろしい。(囁き声から低さと叱る語気が抜けて優しくなる)一応夜ご飯を用意したけれど…うん。眠りたいのなら眠ってしまおう」


(鼻歌と共にヒサメさんに手を引かれながら寝室へと重い足取りで歩いていく貴方)


「(ドアを開けて)ほら、おいで。少しだけベッドメイクしておいたんだ。気持ち程度だけどね」


「…今寝たら起きられないからソファーでいい? それを僕が許すと思うかい?」


(諦めてベッドに横たわる)


「(衣擦れとヒサメさんの吐息の音)っしょ…大丈夫だよ、僕がちゃんと起こしてあげるから」


「早起きは苦手だろうって…? 君の為にいつもより長く昼寝しておいたんだ。明日はちゃんと早起きするよ」


(ヒサメさんの声が近づいて髪を撫でられるサワサワした音と囁き声)


「安心して眠りなさい。ん? どうしたんだい」


「あぁ、フフフ。『抱きしめて欲しい』なんて、君がそんなに大胆に甘えてくれるのは珍しいね。それだけ頑張った証拠かな」


「(ヒサメさんの囁き声がグッと右耳に近づき、左耳から心音が聞こえる)よーしよし、お疲れ様。さっきは程々にしなさいと怒ったけれど、少し誇らしいと思ったんだ。自分よりも他人を優先して後先考えずに頑張ってしまう君が」


(背中を叩くトントンとした一定の音)


「誰にでも出来る事じゃないからね。どうしても、人間は自分本位に動く事が自然になってしまう」


「(更に優しく、声が近くなる)君は違う、特別な人だって思うんだ。僕の中では誰よりも…もう離したくないくらい」


「君に出会えて、同じ時間を過ごす事が出来て本当に幸せだ。ありがとう、生まれて来てくれて。僕と出会ってくれて」


「分かるよ、君と一緒にいると…うん。学校でも仕事でも、人が嫌がる損な役回りを嫌々でも引き受けて。引き受けた責任からかもだけど、ちゃんと頑張ってこなして。投げ出して誰が君を怒るわけでもないのに」


「(時折ヒサメさんの温い吐息が言葉の間に挟まる)君が人としてしっかり出来ている証拠だよ。いい子、いい子…」


「(小さく笑う声)ッフフ、眠い君を差し置いて随分と喋ってしまったね。ごめん、少し静かにするね」


(ヒサメさんの吐息と心音と髪を撫でられる音が暫く続く)


「(小さいが明瞭に聞き取れる囁き声で)…他愛ない話でもして欲しい? そうだね。今度のお休みでも使って何処かに出掛けてみないかい? …勿論、僕と君の2人だけで。誰にも邪魔されない所で、コーヒーを飲んだりケーキを食べたりしてさ」


(左耳から聞こえる心音が速くなる)


「…あぁ、例えばの話だから。別に水族館へ行ってみたり、季節外れのビーチを2人だけで堪能したり…とにかく! 君が心落ち着く場所なら何処でもいいんだ。それが一番大切な事だからね」


(心音が更にはやくなる)


「…えぇ〜、僕がいない所がいいだってー??」


「(右耳にヒサメさんの囁き)却下☆ (小さな話し声に戻る)それだけは絶対にダメだよ。どーせまた、目を離した隙に他人の世話を焼きに行っちゃうんだから」


(頭をポンポンと軽く叩かれる音)


「おやすみって意味をちゃんと理解わからせてあげないとね、フッフッフッ…!」


(頭を撫でるサワサワした音に変わる)


「なーんてね♪ 僕の目の届く範囲で君が無理をしないのであれば止めたりはしないよ。…ん、お母さんみたい? (悪戯っぽい囁き声)そうだよ、僕は君のお母さんなんだから。ちゃんと言う事聞かない悪い子はお小遣いカットしちゃうぞ〜?」

 

(心音が少し落ち着く)


「…え、何でお小遣いなのか? (戸惑ったように)ほら、自分がされて嫌な事って躾の時に結構引き合いに出したりするだろう? それで僕に一番効く悪魔的奇手を想像した結果が、お小遣いカットってわけさ☆」


(心音が正常になる)


「(はっとする)あ、また喋り過ぎてしまったね。失敬失敬。…そうして喋っている方が僕らしくて落ち着く? んーん、何だか気遣われている気がしてならないなぁ。…僕が自然体の方が、君も自然体のリラックスした心でいられる…?」


(心音がバクバクと加速する)


「(高揚を隠せない上擦った声)な、何だか愛の囁きみたいだね。あー! 少し部屋暑かったよね、クーラーつけよっか!!」


(ヒサメさんの息が荒くなり、心臓の音が大きく聞こえる)(リモコンのピッという電子音とエアコンが動き出す音)


「(わざとらしく)いやー暑い暑い! へ、どこが愛の囁きなのか? ほ、ほらさ。互いの自然体の姿を知っているって熟練の夫婦とかカップルぽいなーって」


(ヒサメさんがスーハーと深呼吸する)


「…ま、それはそれで嬉しくもあり…みたいな? フフ。(吐息混じりの囁き声で)そろそろ眠れそうな目になって来たね♪ 僕の心音に集中して目を瞑っているんだよ? おやすみなさい…すぅ…すぅ…」


(ヒサメさんの心音と寝息の音が段々とフェードアウトしていく)




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