隣の部屋のギャンブラーな生活力0のイケメンお姉さんの世話を焼いていたら、癒したいと強引に迫ってくるのだが。

溶くアメンドウ

第1話 競馬で大負けで乾杯。

「(サンダルの重い足取り)…やあやあ。今日も今日とて良いギャンブル日和だね!」


「え? またギャンブルして負けて来たのか…って? ハハハ、そんな事はないよ。僕だっていつも負けてるわけではないからね」


「何のギャンブルか気になるのかい? それじゃあヒントをあげよう。(ヒサメさんが左耳に囁きと手拍子を始める)ターンタターンタターン♪ タタターン♪ タタターン♪ タンタタッタッタッタッタッターン♪ タッタッタッタッタッターン♪ タッタッタッタ〜ン♪(ヒサメさんの手拍子が拍手に変わる)」


「お、正解! 今日は府中で競馬して来たんだ〜♪ …え? それで払い戻しは?」


「(ヒサメさんのイケボが右耳に急接近して囁く)ぜ・ろ・え・ん♡ (そして離れていき、カラスの鳴き声が遠くに聞こえる)」


「昼ごはんも食べなかったから、お腹ぺこぺこだよ〜。夜ご飯なんか作って?」


「(PON☆と手を叩くヒサメさん)やった! 流石僕の終身名誉メイド♪ ほら、早く中入ろ?」


(急かされるままに、貴方は鍵同士をシャラシャラとぶつけ合ってポケットから取り出し、鍵を開け自室にヒサメさんを招く)


「ただいま〜! …いいだろう? 君の部屋はほとんど僕の部屋でもあるんだから。歯ブラシだってシャンプーだって置いてあるし、下着だって…戻しておいた? それは残念☆」


「(ピッと小気味良い音と共にエアコンが冷たい風を送ってくる)ああ〜生き返るー♪ ん? 僕の部屋のエアコンかい? ちゃんと治ってるさ、来週の競馬で勝てたらね☆」


(遠くのソファに転がるヒサメさんを尻目に、貴方は冷蔵庫から袋に入った食材をいくつか出し入れしてカツンカツンと切り始める)


『いや鈴木さん! 今日のメインレース大荒れでしたね〜』


「(勝手につけた競馬番組にうんうん頷きながら)ホントだよ…まさか15番人気のマイケルミニゴリラが3コーナーで上がってきて2着まで伸びるなんてさ〜」


「…まさか! 僕は穴馬券なんてロマンある買い方はしないからね。君が一緒に賭けてくれるのなら…吝かでもないけどね?」


(フライパンを取り出してコンロの火をェチチチチボッと点火した貴方は油を滴らし野菜や肉を適宜投入していく)


「うん…やっぱり君は料理している姿が一番カッコイイよ。毎日僕に味噌汁を作ってくれるようになるのも、そう遠くはないかな?」


(ジュウウと辺りを漂う香りに誘われてヒサメさんの足音がソファーからキッチンまで歩いてくる)


「(貴方に抱き着いて右肩に顎を乗せるヒサメさん、衣擦れの音)バランスの良い野菜炒めだね〜、もう少し肉に偏っている方が(声が囁き声に変わる)僕の好みだけどね♪」


「(冷蔵庫からビールを取り出して)いや〜競馬に負けた日は君の家で…(缶がプシュっと音を立て、喉を鳴らす音がゴクゴクと明瞭に聞こえる)君の手料理にありつくに限るね〜♪」


「勝った日を知らない? なぁに! 競馬の回収率は皆無に等しいかもしれないけど、僕のメインウェポンは…(ヒサメさんの喉がビールを流し込んで鳴る音)ふぅ、パチンコと麻雀だからね☆」


「了解! お皿とゴハンの準備だけしておくね? 君の分のビールも…え? 明日朝早い? もー、一本くらい大丈夫だと思うけど?」


(戸棚を開ける音やカチャリと高い音を立てて食器の準備を終わらせたヒサメさん。続いてピッと保温を解除してカンカンとしゃもじの水を叩いて落とす音)


「やっぱり君…(妙な間)の料理が無いと生きていけないなぁ、僕は」


(椅子をズズズと引き摺る音と共にヒサメさんが先にテーブルに掛ける。貴方はジョロロとインスタントのしじみ汁にケトルでお湯を注ぎ、テーブルへ近づいていく)


「(番組を変えながら)何か面白い番組やってないかな〜♪ あっ、そういえば見たいサメ映画があったんだ! フルー見れたよね?」


「(ビールを煽り、一息吐くヒサメさん)あ、もう無くなっちゃった。2番目の棚にストックがあるから取ってくれたまえ、ワトソン君」


(貴方は冷蔵庫までトテトテ歩いてドアを開け、ビールとコーラの缶を取り出す)


「お、君も…てコーラか。かまわないけどね?(同時に缶を開け、プシュッと音を立ててから)じゃ、カンパーイ♪ (カツンと鈍い音が鳴る)」

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