第7話 これから先も一緒にいるために

 蒼と付き合い始めて4か月が経った。最初のうちは、自分の家に帰っていたが、ここ最近は、ずっと蒼の家に帰っている。

 レストラン雪月花を閉めて家に帰るころには夜中の二時で、蒼は先に寝ている。

 割とすぐに合鍵を持たせてもらったのは、すごく嬉しかった。というより、毎日のように俺が来るものだから、仕方なく合鍵を用意したのだろうな。

 段々と自分の荷物が蒼の家に増えていく。

 そのうち三階に寝床を作ってくれて、今や、悠の部屋が三階となっている。

 本当は、一緒のベッドで寝たいけど、『狭いからダメ。お互い起こしちゃうでしょ』と窘められた。

 だから、ネイルサロンの休み前は、夜更かしして一緒に寝るのが習慣になってきている。

 蒼はツンデレで、日常のデレがあまりない。

 身体を重ねているときだけデレがすごいことになる、普段とのクールなギャップがたまらない。

 ついつい、しつこくしてしまう。

 それに俺はどうやら快楽に弱いということもわかった。我慢がきかない。何度も求めてしまう。

 だから、休み前だけということになってしまったんだけど……。

 今まで、ここまでいれこんだ人は居なかったから、自分でも驚いている。蒼の普段の凛とした姿を自分だけが崩せるという優越感。

 本当なら閉じ込めて、誰にも触られないようにしたい。とさえ思う。我ながら怖い。やっぱりストーカー気質なのか。

 物思いに耽っていたら三時をまわってしまった。寝よう。明日仕事に出れば、次の日は蒼の休みだ。


 朝、八時に起きて、先に起きていた蒼が朝食を作ってくれていた。

「おはよう」

 寝ぐせで後ろ髪が少し跳ねている。かわいい。朝の挨拶のかわりにつぶやく。すぐに抱きついてキスをした。

「おはよう。蒼、少し寝ぐせついてるよ」

 そう言って、髪の毛と顔と必要以上にべたべたと触る。

 くすぐったい。と笑って離れていく身体を捕まえて、再びキスをする。

 首筋に唇を這わせながら心の中の声が出てしまった。

「ひん剥いて、舐めまわしたい」

「……えっ……なに言ってんだよ」

 顔を真っ赤にして、そっぽを向く姿がたまらない。これ以上しつこくすると怒られそうだから、名残り惜しそうに体を手放した。

 朝、食べるか?と問われたが、首を振って水だけ胃に入れる。

 朝は、なるべく一緒に朝食を食べる。胃の中に入らなくても、食卓にはつく。

 俺が、蒼の家に来るようになって勝手に決めたことだ。蒼は、寝てていいよ。と言ってくれてるけど、朝一緒に過ごして、仕事に送り出すことはしたい。

(送り出すといっても、下の階なんだけどさ)

 送り出した後は、自分の出勤時間まで寝る。

 昼頃、必ず、店のバックヤードに顔を出してくれる蒼に行ってきます。を言って、裏から出ていく。

 

 レストラン雪月花に入ると、キッチン担当の二人のシェフも同じくらいのタイミングで出勤してきた。午後一時には、フロアーのスタッフが出勤し、掃除、仕入れ、在庫の確認、打ち合わせで騒がしくなる。

 受付担当の夢が今日の予約を確認していると、店のドアが開いて、整った顔立ちの男性が入ってきた。

 胸元にフラワーロンドと描かれた刺繍のエプロンを身につけている。

 フラワーロンドは、駅前にある花屋で、他にも支店がある。

 レストランに季節の花類を飾る時は、必ず、ここに依頼しているので、よく知っているのだが、そこにいる男性は見たことがない。

 新しく入った方かしら。と思いながら、夢が出迎える。

「あら、ロンドさん。今日って、お花注文してた?」

 そう言って近寄ると、一見、冷たそうに見えたその男の顔が、少年のように柔らかい笑顔で応えた。

「いえ。今日は違うのですよ……雪月花さんを貸し切りできないかという相談です」

 男の問いに、すぐに、悠は呼ばれ、その男性の話をきくことになった。


 男性は、名刺を差し出して、フラワーロンドを経営している斉藤道雄と名乗った。

 整った顔立ちの斉藤は、黙っていると人形のようで少し冷たい印象だが、口を開いてみると、話上手で、面白く、人を惹きつける魅力を持っている。

「僕は、隣町のロンドに居るので、お初にお目にかかりますが、駅前店の店長からは、雪月花さんの評判は聞いています。僕も、ここで食してみたいのですが、まだ実現できてなくて……すみません」

 申し訳なさそうに、話す姿も、かっこよく、店内の女性スタッフがチラチラと視線を投げている。

 悠も自身の名刺を渡して、挨拶をした。

 若く見えるが、この落ち着きぶりからして、だいぶ大人だろうな。

 蒼より……上かな……。

「蒼くん、ご存知ですよね?」

 不意に蒼の名前が出てきて、驚く。

「僕がいる花屋は、ロータスさんの斜め向かいにある店です」

「……っ」

 そうだ。ロンド。見たことあるなと思ってた。あまりにも驚いて声が出ないでいると、斉藤が笑って話し始めた。

「蒼くんから聞いてるんですよ。このお店のこと。料理は美味しいし、最高のおもてなしだって。ま、蒼くんからというより、うちのスタッフが蒼くんの惚気を聞いてるみたいなんだけど」

 窓際の席での打ち合わせに同席していた夢が、「ノロケッ」と言ってぷっと吹き出した。

 前田夫婦には、蒼と付き合っていることは話している。

 俺は、隠しておきたくないからいいけど、蒼は公表したくないみたいだったから、他の人からこんな話し聞かされるのは思っても見なかった。

(惚気……俺とのこと惚気てるのか)

 思わずにやけてしまって、夢から「気持ち悪い」と突っ込まれた。

 そんなやりとりを微笑みながら見ていた斎藤が、改めて本題を話し始めた。

「結婚披露パーティーを開きたいのですが、このレストランを貸し切りで利用できないかと思いまして……」

 素敵! と言って、夢が手のひらを打つ。喜ばしい反応に斎藤も少し照れたようにしていたが、すぐに真面目な顔に戻り続けた。

「実は、相手は一緒に仕事している……男なんです。彼との結婚披露パーティーをここで出来ればいいなと考えているんです…………」

 斎藤の話は、相手や家族、レストラン側さへも思いやる、紳士的なものだった。

 披露パーティーを良いものにしたい。と心から思った。

「僕ら、雪月花が、心に残るおもてなしをお手伝いさせてもらいます」

 

 その夜、仕事を終えて、蒼の家に着くと、蒼はリビングでネイルのデザイン画を描いていた。

最近、仕事終わってからコンテスト用のデザインを描いているのが日課になっているみたいだ。

「ただいま。デザイン、決まったの?」

 蒼の隣に腰をおろし、デッサン画をのぞき込む。

 多彩な花が淡く描かれている。エアーブラシで作る色合いが何層にも重なって、とてもきれいだ。

「大体決まったよ。あとは、ネイルチップに色がうまく乗ればいいかな。って感じ。どう?」

 にっこり微笑みながら見つめられ、思わず、喉が鳴った。

 好きなことに打ち込んでいる人の顔は美しいし、かっこいい。惚れ惚れする。

 ふと今日の惚気話に「うふふ」と思い出し笑いが溢れる。

 その様子を少し引き気味に見つめる蒼に、今日の出来事を話した。

 斎藤と黒田の結婚披露パーティーには、家族や友人、仕事関係の人達を招待する。

 特に、親や兄弟とは疎遠になっているから少しでも距離が縮まればいいと話していた。

 斉藤と黒田の親は、共に母親のみの片親で、斉藤には姉が二人。黒田には弟がいる。

「来てくれるかは、わかりませんけどね」

 そう話す斉藤の表情は翳っていた。

 やはり家族へのカミングアウトは難しいことなのかもしれない。

「へぇー、なんか、いいな。俺もそのパーティー、手伝えることあるかな……あ! ウエルカムボード作ってみようかな。今度、斎藤さんに話してみよ! 悠、お風呂湧いてるから、どうぞ」

 そう言って、フンフンと鼻歌をうたいながら、片付けをしている蒼の背中を見つめる。

 前に蒼の家族のことを聞いたことがある。

 両親と兄の四人家族で、性癖のことは、多分、気づいていて、お互い余計な事を言わないから、よそよそしい関係だと言っていた。「でも、それでいいんだよ。うちみたいな田舎は、変な噂がたったら、生きていくのに苦労する」

 そう話した、刹那的な顔が忘れられない。

 いつか、蒼の家族に挨拶したい。

 俺の親に蒼のことを話そう。そして一緒に暮らす。

 中途半端なことじゃなくて、この街はパートナーシップ制度があるから、それを蒼に話そう。

 受け入れてくれるだろうか……俺には、まだまだ頼れないだろうか。


 先に風呂に入って、湯舟につかっていると、蒼がはいってきた。

 もう何度も見ている裸だし、一緒に風呂にも入るのに、いつも蒼は恥ずかしそうにしている。

 (かわいい……まだ慣れないのかな)

 湯に一緒に浸かるには、少し狭いけど、この密着具合がちょうど気持ちい。

 首や腰に触れるだけで、ぴくりと体をしならせるのだから、たまらない。

 感じやすい体すべてを知り尽くしたい。

 胸にある小さな突起に触れると、甘い声が聞こえてくる。乳首を舐めたり、軽く齧ると、さらに嬌声が上がる。

 漲った下半身は先走りで濡れている。

 立ち上がらせ、後ろを向かせてから、かわいい尻を撫でまわした。

 前を扱き、鈴口から溢れる粘液でいやらしい音が風呂中に響き渡る。

「蒼、いやらしいね。すごいよ。お尻なでなで気持ちいいの? それともこれ?」

 鈴口に直接的な刺激を加えて、さらに茎の部分を強くこすった。

「ああ……、いや、そ、それ、だ、だめ……イク」

 悠の手の中で欲望が爆ぜた後、ぐったりとした蒼の後ろを舌を使ってほぐす。

「へぇ? ひゃっ……ゆ、悠、……やめろ、そんなとこ舐めなくていい……」

「ごめん、もう少し、付き合って。ちゃんとほぐすから」

 ぬらりと湿らせた、後ろの窄みに指を入れる。蒼の感じる場所はもうわかっている。

 丁寧にほぐしながら指を増やした。指を折り曲げると体が痙攣して指を締め付ける。

「はぁ、……ああっ……ゆ、悠……もうお願い……はやく」

 煽情的な蒼の姿に、己を失いそうになった。

 かわいい。とつぶやき、熱く漲ったものを蒼の中に埋めていく。根元まで完全に入ったところで、ふぅーと大きな吐息がでる。

 油断してると、入っただけで達してしまいそうだ。

 ゆっくりと揺さぶりをかけながら、蒼の首筋や背中にキスの雨を降らせる。乳首を指で擦ると、蕩けた声をあげ、悠を締め付けた。

 さっき、達したばかりの蒼の性器が徐々に昂り、悠の手に包み込まれ、ぴくぴくしている。

 自分の腕の中にいる溶けそうな恋人のことをずっと離したくない。一緒にいたい。

 斉藤のように、大人で、自分に自信のある男が現れたら……奪われてしまうのではないか。

 前の彼氏も年上の人だったはず……。

 (ああぁ、くそ、なんて馬鹿げた嫉妬だ。ほんと子供だ)

 自分自身に腹を立てながら、繋がっているところを大きく揺すりたてる。

 風呂の湿気と汗で、触れ合う肌から、ぴちゃぴちゃと音がする。音をわざと大きく出すように、めちゃくちゃに突き上げた。

 蒼がひきつるような声を上げた。次の瞬間、二人同時に欲望が爆ぜた。

 ぐったりしている蒼の体を支えながら、タオルで体をぬぐう。

 支えるのは、体だけじゃなくて、精神的にも支えられるくらいの男になりたい。

 いや、なる。熱く湧き上がる気持ちを顔や体に沢山口づけた。

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