「推理」(その三)

 謎は二つ。

 原稿の謎と「第二話」の結末。前者はひとまずおいておこう。後者は、なぜ春花さんはあんな結末を書いたのか、と言い換えることができる。

 あれは秋穂君、きみが提案した結末だったんだ。

 春花さんはあの文章を書く直前できみと話している。春花さんは「第二話」の最後をどう締めくくるかで悩んでいた。何か読者に衝撃を与えるような、面白い結末を用意したいと思っていた。

 そこできみは春花さんにあの結末を提案した。

 帰った冬実さんが犯人で、春花さんが被害者になるなら、「第一話」に描かれた条件から物語を動かすことができる。ミステリーといえば殺人事件だ。衝撃の結末を用意するなら殺人に繋げるのは一つの手だろう。自分が死ぬという結末に春花さんがどう思ったかはわからないけれど、ほかの人を殺すよりはと思って書いたんじゃないかな。

 では、そのあとの春花さんの変化は何を意味するのか。

 ここからは完璧に想像だけれど、春花さんは自分が小説で書いたのと同じ目に遭った、というのはどうだろう。土蔵を見に行って、金属バットで追いかけられた。

 誰にって、もちろんきみにだよ、秋穂君。

 けれどそれは失敗した。君は殺人を遂行することができなかったんだ。君は春花さんに真意を告げるなりし、春花さんは口を閉ざした。

 ということで、どうだろう。

 これは、夏樹君による「解決」の修正として考えた。

 夏樹君の説では、犯人は冬実の父、府本田端。田端は冬実を殺し、春花さんを殺すつもりだった。ゆくゆくは夏樹君ときみも。そして殺人と並行して、殺人を描写した小説がきみたち幼馴染の間で読まれるような、愉快犯的な犯行も重ねていた。

 きみが春花さんに小説の結末を提案したのは、夏樹が田端の犯行として考えたように、現実での殺人と作品内での殺人が一致するように仕向けるためだった。

 合宿中、きみはパソコンでずっと何か書いていたけれど、あれは冬実、春花さんのものとして捏造した小説だった、というのはどうかな。結局は、合宿中に書き上げることができず、放棄することになった。代わりに冬実たち自身が書いたものを、そのまま犯行に組み込むことにした。

 なぜそんな面倒なことをしたのか。もちろん、夏樹君たちを怖がらせるためだ。そうしてから、きみは冬実も夏樹君も殺すつもりだった。もしかしたら、そのあとはきみ自身も殺されたことにして、自殺するつもりだったのかもしれない。

 けれど、きみが犯行に及ぶより前に、冬実は本当に下宿先へ戻ってしまったんだ。きみは計画を変更せざるを得なくなった。当初は冬実を一番に殺すはずだったところを春花さんに変えた。

 で、さっき説明した犯行に至る。

 動機は何か。それも夏樹君が考えたとおり、冬実の妹の復讐だ。きみは冬実の妹を忘れ、のうのうと生きている彼ら、中でも冬実の妹の位置をそのまま奪ってしまった冬実を殺してしまいたかった。

 できなくなったのは、冬実や春花さんの「第二話」を読んだからだ。「第二話」は、冬実の妹がまるで冬実や春花さんに憑依していくような内容になっているわけだけれど、まあ、そこに触れなくても、単に感情移入してしまったから、でもいいだろう。

 どうかな。どこか修正するところはある?

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