【挫ける②】
急に講座の参加対象を高校生から中学生に変えるとどうなる?
応募作業は、最初からやり直し。
講座内容も考え直さなくてはならない。
そもそも対話とコミュニケーションは、中学生には難しくないか?
体験活動も高校生向けに考えていたから何をすればいいんだ?
内容自体をイチから考え直さなきゃならないんじゃない?
そしたら、依頼した講師はどうしたらいい?
どうしても中学生に変えると、デメリットばかり浮かぶ。
中学生と高校生を混ぜるという折衷案は?
いや、あのシン・課長の性格だと「中学生だけに絞れ」と言うよね。
メリットやデメリットの問題以前に、どうしてもおかしいと思えてならないことがある。
決裁が終わっている案件を、上の者から途中で変えろと言われる話は聞いたことがないのだ。
最初に許可をもらって進めていたものを、途中で挫けるようにしているのではないか?
今の私の頭では、何もかも悪い方向にしか考えられない。
講座の日程は決定していて、講師にも伝えている。
だから、準備は進めるしかない。準備を進めながら、講座の内容を考え直すのは、かなり厳しい。
もう少し、心身共に元気で健全な思考ができるなら課長の言うことにすぐ了承する。内容も考え直すこともできただろう。
しかし、仕事の能率が落ちていて、物忘れが激しいこの頭ではどうもできる気がしない。
これまで決めてきた内容で進めたい、という気持ちは伝えた方がいいよね。
無理なことだと決まっているのに、何を思ったのか私はそう考えた。
そして、シン・課長と終業時間後に話すことにした。
面談スペースでシン・課長と向き合う。
「この講座は、去年の講座を発展させたものと考えて準備してきました。内容も高校生向けにしていて、そのつもりで講師の方にもお願いしたので、決裁の内容どおりに進めたいんです。今年の参加者は高校生対象でやっていきたいんです。」
私はシン・課長に自分の気持ちを訴えた。
今考えると、なぜ高校生を対象に絞らなければならないのか明確な理由がない。
我ながら、若くて浅はかな考えだったと思う。本当に恥ずかしい。
結局、シン課長の弁には敵うわけがなかった。
「町に還元するなら中学生を対象にするべきだ」と一蹴され、中学生を対象にするしかなかった。
中学生を対象にする根拠は説明されている。言い返せるわけがない。
私は、「参加者が集まらないのではないか」心配であることも伝えた。
参加者が集まらないと、講座は続けられないかもしれない。
「高校生を対象にすれば、昨年の講座に来てくれた子たちを中心に参加する生徒さんはいると思うんです。」とシン・課長に訴えた。
もちろん、「参加者がいるかいないかを考えて、講座を作るもんじゃない。」と一蹴。
私は、「わかりました。中学生対象でやります。」と言うしかなかった。
これからまたやり直しだ。
そもそも、何をあんなに熱くなってシン・課長に説明したんだろう。
講座への思い入れとか。
自分が考える講座やイベントの目的とか方向性とか。
講座以外でも仕事に対する熱意とか。
2年と少ししか勤めてないけれども、それなりにあった。
たった2年しか勤めていない者が、そんなもの持つ必要もなかったんだ。
そんなものは、この組織にとって無意味だったんだ。
そんなこと考えている者は、社会では邪魔でしかないんだ。
イエスマンに徹するべきだったんだよ。
確かに、今になって考えると講座内容をそのままにして、中学生に教えたとて誰にも迷惑はかけない。
内容を見た中学生が誰も参加したくないと判断するのであれば、講師の方には「すみません、延期します。」で済むではないか。
だいたい、どんな事情であれ、上の者の言うことにすぐに「はい」と答える者こそ賢明だと評価されるのだ。
10年歳を取ると、このように思考が柔軟になるのかもしれない。しかし、当時は必死だった。やり直しに対応できる自信がなく、挫けそうになっていた。
その旨を話したところで、「仕事したくないだけじゃない?」とみなされるのが関の山だろう。
それでも、シン課長と話した後、少しは自分を恥じた。
しかし、「時間が限られている中で、中学生向けに講座内容を変えることはできるのか」と愕然とした。
応募の文書から作り直さなければならない。シン・課長が帰った後、私は残業していた。
「もしかして、私もRさんのように潰されるのだろうか?」
(第5章【「潰してやる」①・②参照)
そんな考えが頭をよぎった。
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