【挫ける①】
仕事に行けなくなる2日前。
物忘れなどの異常な行動はしていない。しかし、旅行に行く前より職場への拒否感が強い。
旅行の楽しさと地獄のような職場のギャップが激しくて、頭がついていかない。
相変わらず、シン・課長補佐は人格否定の言葉を羅列してくる。
そして、その言葉1つ1つがいつも以上にグサっとする。
もはや、私は疲弊していた。
そんな中、ある講座の準備を進めていた。
その講座は、昨年度に初めて実施したものだった。
今のシン・課長の提案で始まったものである。
話は1年前に遡る。講座の名前も決められていた。
しかし、誰にどんなことを教えるのかは、私が決めるように指示された。
初めての試みで何をすればいいのかわからない。手探り状態で、頭を悩ませていた。
こんな初めての講座に参加者が集まるのか?そんな心配もある。
人が集まらなくて頓挫すれば、来年度は予算を組めない。
ひとまず、参加してくれそうな人を対象にしなければ。
当時、公民館のイベントに手伝いに来る高校生たちがいた。
声をかければ講座にも参加してくれる。
そして、近隣の高校は社会教育課の募集に協力的だ。
イベントに来てくれる子たちを中心にして、参加者を広げていけるかもしれない。
ラッキーなことに、当時の高校には恩師が在職していた。
私たち社会教育課の対応も恩師が担当していたのだ。
早速、恩師に連絡をしてみた。
高校生対象の講座を検討していること、参加者募集の協力の旨を伝えると快くOKをもらえた。
「と言っても、内容が全然浮かんでないんですけどね。」と私は恩師に漏らした。
すると、恩師は、
「神山が高校の時の課外活動や大学で教わったことで、ためになったことはないかい?自分がためになったから後輩に教えたいこととか。そういうのが、1番やりやすいんじゃないか?」
と、ものすごくためになるアドバイスをくれた。
恩師、ためになったことありましたよ!私はピンと閃いた。
高校の時の課外活動で、対話とコミュニケーションの話を聞いたことがある。
大学でも、似たような授業を受けたことがある。
これなら講座の趣旨にも合っているし、高校生も社会に出たら役に立ちそうだ。
話を聞くだけじゃつまらないから、体験活動も合わせよう。
方針は定まった。しかし、初めてなので、講師もどこで探せばいいのかもわからない。どうも外部の講師に講座内容を具体的に伝えられる自信もない。
そこで、私が講師をやることにした。講師をやってみて、参加者に教える内容を確立させよう。外部の講師は来年度から依頼しよう。
結局、講座に参加したのは、声をかけた高校生とその友人で3人。参加者がいるだけよかった。最初から一気に人が来るわけもない。
参加者からは「楽しかった。」など前向きな感想がもらえた。講座は来年度も続行が決定した。
「来年度は宿泊研修の形でやってもいい」と、今のシン・課長から言われて、私は嬉しくなった。張り切って予算案を作成したのである。
来年の講座は、初回より発展したものにしよう。何年かやっていけば、講座の内容も発展する。内容が良いものであれば、参加者も集まるかもしれない。数年は、この講座を続けてみたいな。
講座は私にとっての希望だった。この地獄のような職場でも、楽しみを見出せる。それほど、思い入れのある仕事だった。
そして、初回の講座から1年後の今。参加者の募集をかける段階にいた。
講座を実行するための決裁は終えている。開催日程も確定して、青年の家の予約も押さえている。今回は、講師も見つけられた。講師とは、講座内容の打ち合わせも既に済んでいる。
次に、高校に周知チラシと文書を配布しよう。去年参加してくれた子たちにも声をかけよう。
そう思った矢先に、シン・課長から
「参加対象を中学生にしなさい。」
と言われた。
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