【逃避行したくなった日】






悪いことは重なるものである。


この話においては、と表現した方が正しいかもしれない。


また町民の方を怒らせてしまった。なんかもう、どうかしていたのだと思う。


町民3名にある講座のアシスタントをお願いしていた。3名のうち、1名は町内で力があって発言力が強い。残り2名は、いつもこの方と共に行動している。


そこにもう1名、「私もアシスタントをやりたい!」と言ってきた町民の方がいた。


この町に住んで間もない方である。名前を○○さんと書かせてもらう。○○さんはフットワークが軽くて、積極的に社会教育課の活動に参加していた。ずっと前からこの町に住んでいたのではないかと思うくらいに。


私は断れなくて、○○さんがアシスタントに参加するのを「いいですよ。」と許可してしまった。


そして、後悔することになる。実は、既にアシスタントを頼んでいた3名は○○さんと仲が悪かった。


昔から活動していた町民と引っ越してきたばかりで積極的に活動する町民。この二者同士で、どうしても馬が合わない。そして、各々のグループで派閥のように分かれていた。


両者が仲違いしていることは耳に入っていた。しかし、私は思慮が足りず、両者を合わせてしまった。


上記の4名には、仕事用パソコンのメールアドレスを教えていた。そして、「○○さんがアシスタントに加わりました。」とメール送信した。


すると翌日、1番発言力のある方から「○○さんと一緒に活動するのは、納得がいかない」と返信が来た。


この時点になって、仲違いの深刻さに気づく。「なんてことしてしまったんだ。」と悔やんだ。


すぐに、Bさんとシン・課長に事の次第を報告した。シン・課長が、「○○さんにアシスタントを辞退してもらうように説得するしかないな。」と言ったので、お願いした。


その日のうちに、シン・課長は○○さんと話をして、了承を得られたようだ。私はシン・課長に謝った。この件について咎められることはなかった。


後に、○○さんに謝罪のメールを送ると、「いいんです。いつも突っ走って嫌われることには慣れてるんで。」と返ってきた。


心が痛くなったものの、ひとまず事態は収拾できたと安堵した。


と思ったのも束の間。翌日、冒頭の3名の町民のうち発言力が強い方とBさんが公民館内で会ったとのこと。Bさんから、「あの方は、まだ納得してないそうだよ。」と言われた。


その日の夕方、その方から「あなたにはもう協力したくありません。」とメールが来た。


そして、夜に残業していたらもう1名の方から「話は聞きました。私も協力したくありません。」とメールが来た。


私に非があったのだけれども、立て続けに来たメールを読んで泣きそうになる。


「2度とこのようなことはないように致します。申し訳ありませんでした。」と2人に謝罪のメールを送り、事務所を出た。


事務所を出た瞬間から泣いている。もちろん、こういう時はまっすぐ家に帰らない。


そもそも、自分はこの仕事に向いてなかったのではないか。


そもそも、自分にとって町役場職員は、高望みだったのではないか。


そんな職場を選んだ自分が間違っていたのではないか。


みんな私にそう言いたいのかも。


とりあえず、いつもの休憩所に行こうか。(第2章【初めて泣いた日③】参照)


でも、この日は違っていた。


いつもの休憩所に近づいた時。


もっと遠くに行ってしまいたい。


と思った。


いつもの休憩所を通り過ぎて、目的地も決めずにそのまま車を走らせた。


いいや、このままどこでもいいから逃げてしまおう。2年間、よく逃げないでいたよ。私。


自暴自棄になって、夜の田舎道を運転する。


30分くらい経っただろうか。


いくつかの黒い塊が道路を横切っている。


とりあえず、ブレーキを踏んで目を凝らした。


鹿の群れだった。


鹿の群れが道路を横断していたのである。


田舎あるあるだが、夜には鹿が道路のど真ん中にいることがある。群れは初めて見たな。


このまま止まってたら後ろから来る車に追突されないだろうか?されるならされたで、もういいけど。


なんて思いながら、のんびりと道路を渡る鹿の群れを見ていたら、我に帰った。


私、何しようとしてたんだろう?


逃避行したら、家族に迷惑がかかるじゃないか。


帰るしかないか。


車をUターンさせる。そして、また仕事に行くことになる。


以上が、町役場に入って最初で最後の逃避行したくなった日の話である。


逃避行しようと考える時点で、完全に思考がおかしくなっていた気がする。

あのまま逃避行してたらどこに行ってたんだろう?と考えたりもする。


しかし、そんな逃避行もたったの30分で終わってしまった。まさか、鹿に止められるとはね。


いくら逃げようと意気込んだって、楽になりたいと思ったって、なかなかできるものじゃない。


現実なんかそんなものだ。















































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