終章 倍返しの「ば」の字も言えなかった人たちへ
【2年後①】
郵便局に入社してから、2年後の話である。
私は仕事に慣れ、職場環境にも馴染んでいた。町役場の在職期間を上回るほど、長く働けそうな気がする。
初日に部署のドアを開けて中に入ると、配達員たちが声を掛け合っていた。
その明るい声は、楽しそうで、この職場には町役場よりも連携があると感じさせた。
しかし、どこの職場でも、初めから優しくしてもらえることは珍しい。
最初の数ヶ月は、新人いじめとは言わないまでも、いくつかの厳しい扱いを受けた。
面接に対応した課長も、当初は素っ気なかった。
でも、嫌なことがあっても、顔の筋肉を引き締めて笑顔で対応し続けた。
笑顔でいられたのは、「町役場にいた時よりずっとマシだ」と自分に言い聞かせていたから。
正直、ここでの新人いびりは町役場で経験したことに比べれば、本当にマシだった。
そして、教えられたことや注意されたことは、すぐにメモに書き留めてミスを避けるようにした。
その結果、1ヶ月ほどで課長は普通に話しかけてくるようになり、とても面白い人だとわかった。
課長は「俺ね。最初は舐められたくなくて素っ気なくしちゃうんだよね。『この人は普通に接しても大丈夫だ』と思ったら、いつも通りにするんだけどさ。」と後に明かしてくれた。
時間が経つにつれ、私にキツく当たっていた人たちの中にも優しくなる人が増え、笑い話をしながら昼食を共にするようになった。
それでも、どの職場にもいつも優しくない人はいるものだ。
ひどい扱いを受けた時期もある。その頃は、物忘れが激しくなる日もあった。
ちなみに、仕事が忙しい時期にも、物忘れが激しくなることがあった。
「適応障害の症状かもしれない」と心配になった。
それでも、「忙しい時は私もミスしちゃうんだよね〜。」と言う人が多い職場だったので、物忘れを非難されることはない。
症状がひどくなる前に、いじめや忙しい時期は終わった。
だから、メンタルクリニックにも行くことはなかった。
けれども、適応障害はまだ完全には治っていないのかもしれないなぁ。
(完治するのは難しいと後に知ることになる)。
人間関係はそんな感じで、仕事内容は楽だった。
繁忙期を除けば定時で帰れるし、休日もしっかり休める。
公民館で働いていた時は、そんな生活はまるで夢のようだった。
今では、以前は行けなかったゴールデンボンバーのライブやなんばグランド花月にも行ける。
大学の友人や高校の同級生とも、時間が合えば再会できた。
収入は非正規雇用のため町役場の時の半分になってしまったが、「これが身の丈に合った生活なのだろう」と思えば、全く気にならない。
「これでいいのだ!」と自分に言い聞かせながら、仕事に励んでいた。
私には電話対応の仕事もあった。
コールセンター担当者が忙しい時は、再配達などの受付を代わりに行う。
その日も電話に出た。
「不在通知が入っていたので、再配達をお願いします」という声が聞こえた。
私の自宅がある町も郵便局の配達区域に含まれているため、知り合いからの電話を受けることも珍しくない。
あれ?この声って、、、
再配達の手続きでは、住所と名前を聞く必要がある。
やっぱりそうだ!
声の主はRさんだった。
公民館での最後の会話をして以来、Rさんには会っていなかった。
元気にしているだろうか。
そう思いつつも、仕事中だったので、「失礼します」と言って電話を切ろうとした瞬間、Rさんが言った。
「もしかして、神山か?」
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