【再出発】

「も、もしもし、神山です。」

おどおどしながら電話に出る。


電話の相手は、郵便局の支部長だった。


「昨日はありがとうございました。結論から言いますと、採用ということでお願いしたくて連絡しました。」


面接の時は、全く手応えを感じなかったから支部長の言葉にものすごく驚いた。

思わず、「えっ!本当ですか⁉︎ありがとうございます!!!」と大きな声が出てしまった。


私の反応が面白かったのか、支部長は笑っている。


「早速ですが、明後日から来てもらいたいのだけれども、来られますか?」と聞かれたので「大丈夫です!よろしくお願いします。」と答えた。


只今、温泉の脱衣所で着替えの途中。

上半身は肌着1枚のまま、深々と頭を下げる。

(下半身は安心してください。履いてますよ。)


いい知らせというのは「来い!来い!」て構えている時よりも、こうやって何も準備せずに服も着ていない時にやってくるんだな。


『もう社会に出て働けないかもしれない。』と考えるほど、思い詰めていた。

でも、次の仕事が見つかって本当によかった。


町役場の退職理由を(大まかではあるけれども)嘘をつかないで伝えたところに採用してもらえて本当によかった。


途絶えた収入がものすごく不安だったけれども、またお金を稼げるんだ。


私は心底ホッとした。


家族にも伝えたら「よかったね!」と喜んでくれた。


翌日。

安堵から一転。ドキドキしている。

明日から久しぶりの仕事か。また失敗したらどうしよう。

急に不安になって胃が痛くなってきた。


そして、懸念事項がもう1つある。

薬局への辞退の連絡だ。

憂鬱になりながら、薬局のお兄さんへの発信ボタンを押そうとしてはやめてを繰り返していた。


でも、郵便局で働くと決めたのだ。

で、あれば、薬局を辞退するしかない。

えい!と発信ボタンを押す。


「はい、○○です。」とお兄さんが電話に出た。


「神山です。先日の面接のことなのですが、、、」と話したところ、やはりまだ面接が続いているとのことだ。


「大変申し訳ないのですが、内定を頂けたところがありまして、辞退させていただきたいのですが、、、」とドキドキしながら伝える。


お兄さんは「わかりました。こちらも結果通知が遅くなって申し訳ありません。」と気持ちのいい返答をした。

内心はどう思ったのかわからないけれども、辞退の連絡も嫌な思いをすることなく終えられてホッとした。


そして、公民館で働いていた時に使っていた事務用品一式をカバンにしまう。

初日から手ぶらでいくのは、気がひける。

「ボールペンは、どこに保管していますか?」なんて、言いづらい。


翌日。

電話で支部長に言われた通りに、裏口のインターフォンを押した。

今日も支部長が出迎えてくれた。


支部長について行き、また郵便の部署のドアの前に着いた。


この職場でもいろいろなことがあるのだろうか。

また適応障害の症状が出ることがあったらどうしよう。

人と会いたくない。職場にも行けない。なんてことがまた起きたらどうしよう。


怖い。

身体がガチガチに固まっている。


でも、町役場でいた時と同じことは繰り返したくない。

せっかく採用してくれた職場だ。

簡単には辞めたくない!


そう意気込みながら、ドアを開けた。





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