【受診①】
翌朝。私は車の後部座席に座っていた。
車はメンタルクリニックに向かうところ。
頭の中では、相変わらず、テレビのノイズみたいな音が「ザーーーー」と鳴っている。
運転は不安だったので、母にお願いした。
車内の時計を見ると、職場の始業時間10分前。
私は俯きながら、スマホを握る。
もういい加減、自分で職場に休みの連絡しなければ。
本当は避けられるなら避けたい。
でも、そういうわけにもいかない。
この状況から前に進むためには、コレもやらなきゃならないことだ。
メンタルクリニックに行くことを決めてからそう考えた。
しかし、発信ボタンを見ると、憂鬱になる。
押すのを何度か躊躇ってしまう。
始業時間5分前になって、やっと押した。
呼び出し音が鳴っている間。
心臓が口から出るんじゃないかというくらい、バクバクした。
誰が出るのだろう。
何か嫌なことを言われるのではないか。
そんなことも考えてしまう。
電話に出たのは、シン・課長だった。
シン・課長の声を聞いた瞬間、泣きそうになった。
メールを返信していないDくん・Eさん・Fさんや他の職員と話すより、メンタルクリニックに行くことを知っているシン・課長と話す方が気まずくはない。
しかし、どうしても声が震えて涙声になってしまう。
職場に行けなくなる前の一連の出来事を思い出してしまうからだろう。
「神山です。」と振り絞るような声で言った。
シン・課長は、「おぉ、おはよう。」といつもより何倍も優しげな声で応える。
「職場に、、、行ける状態でなくて、、、メンタルクリニックに、、、行くので、、、お休みします。」
もはや、半ベソをかいていた。
職場の人には、途切れ途切れにしか言葉を発せられなくなっている。
声は震えている。
シン・課長は、私の途切れ途切れの言葉の合間に「うん、、うん、、」と優しく相槌を打つ。
それでも声は震えてしまう。
今の自分にとって、シン・課長や職場の人は、恐怖の対象なのだろう。
電話を終えて、ものすごくホッとした。
自分は電話をする時も、こんな感じになってしまったのか。
そのまま、下を向いたまま俯いていた。
メンタルクリニックに到着。
クリニックの中は、隣町の内科クリニックと似た雰囲気だ。
今まで精神科やメンタルクリニックに対して特殊なイメージを抱いていたのだけれども、全く特殊などではなかった。
受付・待合室・診察室・面談のお部屋があって、今まで行ったことあるクリニックと何も違うところはない。
風邪をひいたら内科。
骨折したら整形外科。
メンタルの不調は精神科。
といった感じで、気持ちや情緒がいつもと違うと気づいたら、気軽に受診できる場所なのだとわかった。
予約なしの受診だったので、到着から1時間弱は待った。
「神山さん」
と呼ばれて立ち上がると、面談をする部屋に案内される。
そして、看護師さんらしき若い女性と2人きりになった。
その女性とは、テーブルの角に向かい合う形で座る。
「どういった症状があって、受診されましたか?」
と女性から聞かれたので、
急に職場に行けなくなったこと。
涙が止まらなくなったこと。
人と連絡を取ったり、会話したりすることができないこと。
を話した。
そして、
「その症状のきっかけについて話せますか?」
と聞かれた。
どこから話せばいいのだろう?
新卒からの一連の出来事を話したい気持ちもある。
でも、これらの出来事には耐えている。
話せばただの悪口になるし、長くなってしまう。
今のこの状態になった直接のきっかけは、新年度の人事異動だろう。
そう判断して、
人事異動でシン・課長とシン・課長補佐が就任したこと。
シン・課長補佐から仕事の妨害や人格否定の発言があったこと。
シン・課長の言動から恐怖心を感じたこと。
を説明した。
女性は、私の言うことに一切意見することはない。
メモを取ったり、私の言ったことを書き留めたりしながら淡々と話を聞いていた。
こういう状態の時は、淡々と話を聞いてくれた方が、心が軽くなる。
15分程度の面談を終えて、再び待合室で待つ。
すぐに名前を呼ばれて、今度は精神科の
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