【受診②】

診察室に入ると、医師せんせいから「どういった症状で困ってるのかな?」と聞かれた。


私は面談で女性に話したことと同じことを話した。


そして、「職場にも行けなくて、今後どうしたらいいかも全然わからなくて不安です。」と伝えた。


医師せんせいは、「その症状は、上司の言動がきっかけなんだね。」と女性が書いたメモを見ながらつぶやく。


そして、


「人格否定の言葉が多かったんだね。部下を人格否定するのは、立派なパワハラだよ!」


と大きめな声で私に諭した。


大きめな声にも驚いたけれども、医師せんせいの言葉にもっと驚いた。

町役場に入職してから、【パワハラ】という言葉を聞いたのは初めてだ。

今までの嫌な出来事は、パワハラだったのか。


それから医師せんせいはこう続ける。


「あなたの診断名は、今の段階だと【適応障害】だね。このまま無理して職場に行くと【うつ病】になる可能性もある。」


『適応障害』、『うつ病』という言葉が立て続けに聞いて、耳がキーンと鳴る。


メンタルクリニックを受診する気持ちにはなったけれども、具体的に病名を聞くとショックだ。

自分の精神がやまいの域に達していることを、受け入れる心の準備ができていなかった。


さらに、医師せんせいはこう続けた。


「今の部署に居続けるわけにはいかないから、ひとまず3ヶ月の休職が必要だと診断書を書くね。休職を願い出るのと同時に、異動も願い出るようにしたほうがいいよ。」


『異動』という言葉も初めて聞いて、目から鱗だった。

そのような選択肢もあることを知らなかった。

全く頭になかったことなので、素直に「わかりました。」と言うことができないまま診察が終わった。


自分の異常な状態が、適応障害だったことがわかってひとまずホッとしている。


でも、自分は精神の病気になってしまった。

この先、社会でやっていけるのだろうか。


医師せんせいは異動を勧めていた。

でも、今までのことを考えると異動したところで、この精神状態が改善される未来がどうしても見えない。


これからどうしたらいいのだろう?


その先の答えまで踏み切れずに、帰りの車の中で俯いていた。





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