【女性職員の末路②】
ろいろある役場庁舎でも、私に親しくしてくれた女性の正職員がいた。名前をUさんとする。
Uさんは勤続15年ほどの主査で、私が入職した時は税務課で伝票の処理を担当していた。
入職してすぐに郵便発送をやっていた私は、次に伝票(※)の起票を覚えることにした。起票した伝票はUさんのところに持って行く。
※伝票とは、納品書や請求書を添付して税務課に「これを町の会計から払いたいから処理をよろしくね。」とお願いする書類のようなもの。
だから、Uさんと毎日のように顔を合わせるため、役場庁舎で会うとよく話をした。
Uさんは可愛らしい雰囲気の方で、言葉にトゲを感じない。伝票の間違いなど指摘したいことがあれば、はっきり言うけれども嫌味には感じなかった。
だから、私はUさんに言われたことは素直に聞いて、伝票の正しい起票の仕方を教えてもらっていた。
一方で、事務所ではUさんに対する愚痴が聞こえてくる。
愚痴の主はAさんとBさんだ。
Uさんは言いたいことははっきり言う性格からか、間違いのある伝票は起票者に即返却する。私が役場庁舎に取りに行く郵便の中に、返却された伝票が混じっている。
「前までの担当者はもっと緩かった」、「指摘が細かすぎる」と2人はUさんのことをこのように評価していた。
確かに、起票マニュアルに沿って見るとAさんとBさんの起票した伝票には間違いがある。UさんはUさんなりに、自分の仕事を遂行したともいえる。
しかし、前任者たちは組織の調和を乱したくなくて、なあなあにしていたのかもしれない。
職務を正確に遂行することは悪いことではない。しかし、組織の調和を乱す悪の行為と見なされることもある。社会ってすごく難しい。
もっとも、AさんとBさんの言葉を聞いているとUさんに対して「女のくせに生意気だ」という気持ちも感じるのだが。
月日は流れて、入職してから1年が経った頃。Uさんが左手の薬指に結婚指輪をはめて、名札の名字も変わっていた。
私はなんだか嬉しい気持ちになって、心からめでたいと思った。
Uさんに「おめでとうございます!」と伝えると、「結婚して名字が変わったけれども、仕事は続けるからこれからもよろしくね。」と返ってきた。
今はこの役場も、女性職員が結婚しても仕事を続けられるようになったんだ!
なんて、楽観的な気持ちになった。
しかし、半年後。私が甘かったことを知る。
税務課に行くと、Uさんがボロボロ涙を流していた。こんな光景、今まで見たことない。
びっくりしながら恐る恐る、「あの、大丈夫ですか?」と聞くとUさんからこう返ってきた。
「ある人から退職するように言われたの。本当はまだ仕事続けたかったんだけれども。」
ある人とは、総務課長のことだろう。Uさんは、結婚を理由に退職するように説得されたのだと察した。私は「えっ!」としか言えなかった。
「だから、今年度いっぱいでお別れだよ。」
と、Uさんはさらにボロボロ泣いている。それでも、周りの職員は知らん顔。誰1人として声をかける気配もない。
私は何を言っていいかわからず、「無理しないでください。」とだけ伝えてその場を去った。
怒りで早足になる。
女性職員への肩たたきは、今もこれからも行われるのか!
なんで、女性は結婚したら辞めなきゃならないんだよ!!
私は、なんちゅーところに来てしまったんだぁぁぁぁ!!!
この時ばかりは憤った。
Uさんの退職日が近い3月下旬。Uさんにお礼の気持ちを伝えたくて写真立てを渡した。
「ありがとう。」と受け取ったUさんの顔は、笑っていた。この職場に見切りをつけたのかな。
今はどうなっているかわからないが、当時の町役場では、
女性が前に出そうな気配を感じると、すぐさま潰そうとする男性職員がいたのも事実。
潰されないように耐え抜いた女性たちも、結局は【結婚】という人生の節目を理由に去らなければならない。
これが、町役場に勤める女性職員の末路である。
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