【町民】

町役場の終業時間は17:15だった。入職から半年も過ぎると、この時間に仕事が終わらないのは当たり前になってくる。


ある日の18:00頃。いつも通り、家に帰らずに事務所にいた。自動販売機のジュースでも買ってこようかなと事務所を出ると、年配の女性が歩いていた。町民サークル帰りのようだ。


こちらを見ながら「いつもこの時間でも仕事してるの?」と聞かれたので、「そうですね。」と答えた。


すると、年配の女性は、「人より給料多くもらってるんだから、そのくらいは当然でしょ。」と言い残して帰って行った。


なんとも言えない気持ちを抱えたまま、私はジュースを買いに行く。


町民は基本、町役場の職員のことを良く思っていない。


この年配の女性だけではなく、町民と顔を合わせると批判的なことを言われることが多い。


このことも、町役場の採用試験を受ける前は予想していなかった。


町民は自分たちの住む町に不満があるのかもしれない。


耳に入った話だけれども、過去に町役場職員の対応で嫌な思いをした町民もいるようだった。


正直なことを言うと、収入の問題もあるのかもしれない。


私が子どもの時から、役場の職員には高い給料を得ているイメージがあった。


金銭面で町役場の職員を妬む気持ちが芽生えるのも理解できる。


しかし、私は思っていた以上に受ける批判に辟易していた。


町民との飲み会が催されることがたくさんあった。そこで言われることのほとんどが、町役場に対する批判である。


「それは私に言われてもどうすることもできないよ〜。」と思う話もあってどう答えていいのかわからない。


最も堪えるのは、自分が担当している仕事への批判だ。「予算の無駄」と言われた時は言葉が出なかった。


批判を面と向かって言われる機会が積み重なり、私は徐々に町役場で働く目的を見失っていくのだった。
































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