【合いの手②】
もう1つの事例は、教育長に決裁のハンコをもらいに行った時に起きた。
教育長は名前の通り、教育委員会で1番偉い人。会うとものすごく緊張する。
管理課に教育長室が置かれていたので、決裁のハンコをもらう時は管理課に行かなければならなかった。
教育長は正直に言うと、奇抜な方だった。
元教員で校長も経験しているのだけども、頭脳が明晰すぎる。
急に「管理課と社会教育課の合同慰労会をやろう!」など、何を言い出すかわからない。
それでも、人格否定などパワハラのような言動はなかった。
教育長は、私に対しておじいちゃんが孫を見るような目で接してくれていた。
威圧感はあるけれども、顔を合わせる度に「神山さん!」と呼んで笑いかけてくれたのは救いだった。
でも、大変失礼ながら、教育長は早口で突拍子もない話し方をする方で、言いたいことがわからない時があった。
周りの職員も同じように思っていたようで、うちの課長は声に出して「何が言いたいのかわかんないよ。」とぼやいてたことも。
入職から10ヶ月頃だったかな。
教育長に伺い文書の説明をしてすぐに決裁のハンコはもらえたのだけれども、雑談をすることになった。
教育長はやはり早口で、解釈が難しかったけれども「生涯、勉強は続けた方がいいよね」という内容だろうと解釈した。
しかし、文字起こしが不可能なくらいの早口だからその解釈が合っているのか自信がない。
でも、確認したら「わかってないで話してたのか!」と怒られるかもしれない。
そんなことを考えて、しどろもどろになりながら教育長と会話していた。
教育長との会話が終わり、ホッとしながら教育長室を出ると管理課副主幹とLさんが待ち構えていた。
教育長と話している時は、必死すぎてこの2人が私たちの会話を全て聞いていることを想定していなかった。
管理課副主幹から
「神山さん、教育長の言ってた言葉の意味わかってんの?」
とネチネチとした低い声で聞かれた。
目が笑っていない。
自分なりの解釈はある。けれどもこの会話は教育長にも聞こえている。間違えてたことを言ったら大変なことになる。
と不安になって答えに詰まっていたら、
管理課副主幹から
「え〜、わかんないのにわかったフリしてたんだぁ。」
とさらにさらにネチネチと畳み掛けられた。
すかさずLさんが
「わからないなら、ちゃんと確認したら?」と冷たい声で言った。
Lさんの言う通りで、怒られてもいいから確認すればよかったのだろう。
今はそう思うのだけども、当時は間接的に教育長に「あなたの言ってることを理解しきれてない」と伝わってしまったことに、どうしようどうしようと軽くパニックになっていた。
公民館に戻る途中。
自分の不届きぶりを責めた。教育長に失礼なことをしてしまったと後悔した。
明らかに私にも非がある。
(ちなみに、教育長はこの出来事の後も至って普通の態度だった。)
それと同時に、管理課副主幹の話し方を思い出して、追い込まれそうな気持ちを感じた。
そして、管理課副主幹に追い込まれる度に必ずLさんの合いの手が加わるんだろうなぁ。
これがいつまで続くのかなぁ?と思ったら急に涙が出てしまった。
自己嫌悪と精神的にきつい気持ちが混じって、頭がぐしゃぐしゃになりながら運転した。
公民館に戻り、必死に涙をへこませながらさっさと仕事を片付けた。
私はまた家に帰らないで夜景もどきが見える休憩所(第2章【初めて泣いた日③】参照)に向かった。
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