【避難場所】

外勤をすることで少しでも傷つくことから逃げていた私にありがたいお仕事が舞い込んだ。

仕事内容は、放課後子ども教室(※)のお手伝い。

「週に1回2時間、小学生の子どもたちの見守りをしてくれないか」と児童館担当の主査Iさんからお願いされた。


※放課後子ども教室とはその名の通り、小学生の子どもたちが放課後に利用する教室である。

ほとんどの地方自治体で実施されており、社会教育課が主体となっている。

子どもたちが通っている小学校が実施場所になることもあるが、我が町では児童館が実施場所だった。


大学の時に放課後子ども教室の子どもたちと遊んだことがあったから、子どもと関わることに抵抗はない。

それに、週に1回2時間も事務所から離れる時間があるのは、この上なく素晴らしいことだった。

仕事をしたくないような言い方かもしれないが、当時は事務所にいる時間が多ければ多いほど、泣くことが増えると感じていた。


私は主査Iさんからの打診に「やります!」と即答した。


我が町の児童館は公民館とは別の場所にあり、スポーツセンターと繋がった構造になっていたため、児童館運営・子ども関係の行事・スポーツ事業の担当職員が1つの事務所に集まって仕事をしていた。


そこの事務所は、のんびりとした主査Iさん、ひょうきんな主査Jさん、児童館スタッフのKさんを始めとした臨時職員の皆さんを合わせて総勢7名。

人数が多い割にはみんなしっかりと連携していて、雰囲気からしてなんか楽しそう。

平均年齢が40代と高めなことと、役場庁舎のにある空間がそうさせていたのかもしれない。

(ちなみに、役場庁舎はシーンとした重い雰囲気がが漂っており、町民の方からも同じ声を聞くことがあった。)


だから、新卒の私が急に入り込んでも全く窮屈に感じなかった。

事務所の人たちは、すぐに私のことを「モンちゃん(実際は違う)」と呼んでくれた。

子どもの相手をしていたら対応に困ることもあるけれども、すぐにフォローに入ってくれたし、私が子どもたちの生意気(失礼!)な態度にイラっとした時も「わかるよ(笑)」と言ってくれたこともある。


生意気ながら、

こちらの事務所との事務所はなぜこんなに雰囲気が違うのだろうか

と思わずにはいられなかった。


そんな私の気持ちを察したのか、臨時職員のKさんは「子ども教室以外にもこっちの事務所においで。」と言ってくれて、これにはちょっとホロリときたものだ。

公民館から児童館とスポーツセンターに届ける書類などがあれば、自ら引き受けて役場への外勤のついでに届けに行くこともあった。

主査Jさんは私が来る度に「そんなに急いで帰らないで、まだいたらいいよ。」と言って、すべらない話や得意のモノマネを披露する。

それが面白すぎて声を上げて笑っていた。


役場庁舎ではGさんに笑って話しかけることを禁止された(第1章【歓送迎会】参照)し、公民館の事務所では笑えそうにない。

この組織で仕事をしていて心から笑っていいのは、児童館の事務所だけではなかろうか。

「ここの職員になれたらいいのになぁ。」と密かな願望を抱いていた。


今になって思うけれども、私の場合、公民館から離れた施設をにしたために周りの職員とはどんどん溝を深めてしまった気がする。

しかし、児童館という避難場所がなければ退職のタイミングはもっと早かったのかもしれない。

パワハラを受けている人が心を保つためには、その場から離れられる避難場所が必要なのではないかと私は思う。



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