【外勤は逃げ】
職場で初めて泣いてからというもの、私は外勤をこよなく愛するようになった。
理由は事務所から逃げたかったから。
事務所にいればBさんたちの攻撃を受けるだけだし、そう考えるだけで不安になる。
少しでも事務所から離れたかった。
外勤は私にとっての自己防衛策であった。
外勤というのは、役場庁舎に郵便を取りに行くこと。
届いた郵便の処理も担当していたため、毎日役場庁舎から社会教育課宛の郵便を取りに行っていた。
役場庁舎は公民館から目と鼻の先にあるから事務所から離れられる時間は最初は少ししかなかったけれども、それでもホッとするのだった。
社会教育課には公用車は1台しか与えられなかったから自家用車で移動していたのだけど、就業時間の中で自分の車に乗ってる時間が1番居心地がいいとは。なんとも情けない。
そんな複雑な私の気持ちを吹っ飛ばすくらい、外勤に精を出していたのがうちの課の副主幹だった。
副主幹は朝礼が終わるとすぐに
「青年の家(※)に行ってきまーす!」
と言って出掛けては、半日以上も帰ってこなかった。
※青年の家は社会教育課が管理する宿泊施設。学生時代に宿泊研修で泊まったことがある方も多いことでしょう。
副主幹は青年の家の担当に割り振られていたのだが、青年の家には臨時職員(現在の会計年度任用職員)のHさんが管理人として常駐していた。
Hさんは器用でなんでもできる人だったので、青年の家はHさん1人で十分に機能していた。
副主幹はなんの業務をしていたのか、事務所内の全員が知らない。
副主幹が不在の事務所といったら、Bさんを筆頭に副主幹の悪口が飛び交っている。
悪口の内容を聞いていると、どうやら副主幹は若い頃は活気盛んで逆らう者はいなかったそうだ。
しかし、しかし、前年に病気を患ったことがきっかけで彼の立場は大きく変わった。
副主幹の病状は完全に回復したわけではなく、ぶり返すこともあるため休職も繰り返す。それによって、任される仕事は激減。
「あの人仕事しないねw」
「あの人何の仕事してるの?」
と副主幹は下の者から揶揄されるようになってしまったのである。
青年の家に外勤してなかなか帰らないのは、病気前からの行動で、新卒ながら副主幹を自業自得だと思うこともあった。
しかし、事務所内で飛び交う副主幹の悪口を聞いていたら耳が痛くなる。
副主幹にとって、事務所内はいたたまれなかったのだろう。
私と同じく、副主幹も外勤で逃げていたのかもしれない。
と同情したくなったけれども、すぐに撤回することになる。
後に私は副主幹の下で仕事をすることになり、しんどい目に遭うからである。
この話は後の章で詳しく書かせていただこうと思う。
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