【初めて泣いた日②】
ショックを受けているであろう私の顔を見たBさんは「キャハハハハハ」と高笑いをした。
Bさんは人が不幸な目に遭ってる時や自分の行動によって相手が怯むとだいたい高笑いをする。
Bさんの高笑いを録音すれば笑い袋が作れそうだ。
ふざけた嫌味を書いてみたけど、実はBさんの高笑いが今でもトラウマである。
高笑いによって私の理性のリミットが外れてしまった。
あからさまに怒りを顔に出してしまった。
恐らく般若のような形相だったろう。
般若を表に出してしまったことは、今でも後悔しているし反省している。
パワハラをする人はだいたい相手の反応が返ってくるのが楽しい。
だから、怒ってようが泣いてようが困ってようが、相手が何かしら反応すれば楽しくて仕方がない。
だから、パワハラを繰り返す。
そして、パワハラをされた側が怒りをあらわにするということは、パワハラに立ち向かうという意思表示になってしまう。
何も対策をしていない無防備の新卒がパワハラの根源に立ち向かうというのは、その時点で敗北が決定している。
今考えれば当たり前のことなのに、この時の私にはそれを考える冷静さが吹っ飛んでいた。
役職者がいない密室での出来事だったので、そこにいた者以外に情報誌のミスが広まることはなかった。
でも、私は気持ちを切り替えられなかった。
ミスを見つけられなかった自分を責める気持ちとクレームが入ったらどうしようという不安と事務所内がBさんに便乗して私を標的にする空気が流れてるとわかった衝撃で頭の中はぐしゃぐしゃ。
事務所に戻った途端に急に涙がドバッと噴き出てしまい、私はトイレに駆け込んだ。
それから20分くらい「引っ込め!引っ込め!」と言い聞かせながら、トイレの中で泣いていた。
職場で泣くなんて。と思う方もいるかもしれないが、パワハラがある職場では泣きたくなくても自然と泣いてしまうこともある。
職場で泣いたことがある方にはわかるかもしれないが、あれは「泣いた」ではなく「溢れ出た」と表現するほうが正しい。
溢れ出るものは気がすむまで出すしかないのだけれど、あの時はトイレに駆け込んで良かったと思う。
パワハラがある職場では人前で泣いても何の得もない。
パワハラをする人は、パワハラ対象が泣けば敗北を認めたと解釈し、勝ち誇って笑うだけだから。
そして、男性ばかりの職場では「これだから女は」と一掃されるのが関の山である。
だから、「泣きたくなったらトイレへGO!」はここから先も私の合言葉になった。
職場で泣くことについてはこれくらいにして、続きに戻る。
無理矢理涙を引っ込ませた私は、終業時間まで泣かないように我慢した。
でも、どうしても情報誌のミスが気になる。
別室に保管している情報誌の山を見ながら、「今からでも電話番号の欄だけでも全部貼り直した方がいいのかなぁ?」と考え出した途端またうるうるし始めた。
うるうるしながら事務所に戻るとCさんが残っていた。
あぁ、うるうるを見られてしまったと思いつつ、こういうことは私1人で勝手にやったらまずいのはわかってたので、「今から電話番号の欄だけでも全部貼り直ししようかなぁと思ったのですが、、、」とうるうるしながら涙声で判断を仰いだ。
Cさんは「いや、そこまでやるほどのミスじゃないよ。他にやることがなければ今日はもう帰っていいんだよ。」と言ってくれた。
言い方が優しめだったので、また泣きそうになるのを堪えてCさんに挨拶して職場を後にした。
この時の私は実家暮らし。
泣きながら「ただいま」なんて言う姿なんて両親に見せられたものじゃない。
私は車を出発させた後、家に帰らずに街の中を彷徨った。
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