【船頭の楽しみ】

課長は初めから責務を放棄していた。

※詳細は第1章【課長が迎えに来ない①・②】を参照


責務を放棄した船頭の船には新しい船頭が登場する。


それがBさんだった。


大抵の人は新しい船頭候補は課長補佐と予想するだろう。

しかし、意外にも放任主義だった。


ちなみに、課長補佐の1つ下の立場にいる副主幹は存在感が薄く見向きもされていない。


役職者たちが機能しない船上でBさんは課内の雰囲気を牛耳っていた。

※ただし、役職者がその場にいない時に限る。


同じ主査であるAさんはBさんより年上だったものの、中途採用のため経験年数はBさんの方が上。だから、常にBさんに追随していた。


Aさん以上にBさんに追随していたのが臨時職員(現在の会計年度任用職員)のEさんとFさん。


BさんはEさんとFさんと強固な関係を築き、自分の業務を補助してもらっていた。

そして、いつもEさんとFさんを従えて、を模索していた。


Bさんの楽しみの対象は新卒の私とDくん、そして、役職が1つ下の主任Cさん。


図書館担当の島に所属する皆さんは楽しみの対象にならないように距離をとってほどほどに付き合っていた。


これがBさんを船頭とする船上の構図であった。


関係を築いておけば得な人を見極めて、自分の有利な雰囲気に持っていく。

Bさん立ち振る舞いは「要領が良い」と周囲からは評価されるのだろう。

Bさんも自らをそう評価している節があった。


しかし、Bさんの楽しみの対象にされる私の心には、その要領の良さを評価する余裕がどんどん無くなっていく。


Bさんからは課内や他課にかかわらずあらゆる人の悪口が発信される。


たいてい、Aさん・Eさん・Fさんが便乗する。


たまに悪口を言っては「ね、そうだよね!」とCさん、Dくん、私の誰かを名指しで同意を求める時があった。

稀に図書館担当の人にも振ることも。


同意すれば悪口の対象に自分が批判したと伝わるかもしれない。


かといって、Bさんの言うことを否定したら何をされるかわからない。


反応に困る私たちのリアクションをBさんは楽しんでいた。


そして、作成した起案書を回覧すると大抵Bさんで止まる。というよりいつも戻ってくる。


起案の内容に関する質問はない。

送り仮名の間違いなど、人によっては「まぁ、いいだろう」とスルーするような指摘ばかりが返ってくる。


嬉々として楽しそうに指摘するので、楽しみの1つなのだろう。


これが毎日続くと、正直、アドバイスまで揚げ足を取っているとしか感じなくなってくる。


Bさんの楽しみはじわじわと私の脳にイライラを募らせていった。


一方で、Cさんは勤続10年ということもあってBさんたちのイジリにもうまく返していた。

時折、イラッとしている意思表示も示しつつBさんたちとは友好的に付き合っていた。


また、DくんはBさんの下について仕事をする立場だったので私よりイジられていた。

でも、Dくんはバリバリの体育会系だったから受け流す精神力を持っていた。

Bさんのノリにもなんとか付いて行けていた。


CさんやDくんのように私も頑なにならずにBさんと一緒に波に乗れば少しは楽しい新社会人生活を送れていたのだろうか。

でも、私にはそれがどうしてもできなかった。


一緒に波に乗れない船員として、私は最終的に船から投げ出されるしかなかった。















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