【郵便】

発熱で潰れたゴールデンウィークが明けた。


私は郵便を送る作業をしていた。


いるだけで疲れる空間から逃れたくてCさんに「仕事が欲しい」と頼んだら、「郵便を送って」と言われた。


やることは封筒詰めと宛名書きと発送だけだった。

社会教育課は郵便を頻繁に送らない。1日1通あるかないかくらいだ。

それでも、「郵便を送って」と言われれば妙な安心感があったのだ。

やることがなくて気まずいあの感覚から解放されるから。


それから、Aさんからも郵送するものがある時は「これ、送っといて」と頼まれた。


これで気まずさから解放される時間が増える。

と私は嬉しくなった。



郵便業務を始めて1週間が経った頃、Bさんからも「これ、送っといて」と言われ、書類を2枚ひょいと投げるように渡された。


2枚とも私に内容がわかるわけないのだが、そのうちの1枚は課内の人たちの印鑑が押されていた。


この時の私は

「決裁(※)のような気がするけども、こういう書類も取引先に送ることあるのかな?」

くらいにしか考えていなかった。


※決裁とは起案(〜していいですか等)や申請に対して判断を仰ぐこと。

基本は起案文書を役職が下から上の順に回覧する。回覧して問題なければ1人1人捺印欄に印鑑を押す。

(問題があれば、起案者が質問責めに遭う。この質問責めほど辛いものはない。)

社会人の方にはお馴染みかと思いますが念のため解説を加えときます。



翌日、郵送先の相手から電話が来た。


担当者のBさんが要件を聞く。


届いた郵便の中に印鑑がたくさん押されたが入っていたとのこと。


Bさんは「それうちで保管するヤツですね〜、送り返してもらえますか?」と答えていた。



電話を切った後、Bさんは、

「神山さん、昨日の書類に決裁の書類入ってたらしいよ。」

と言った。


あのたくさん押してあったハンコはやっぱり決裁だったのか。

取引先に送っていい決裁関係の書類なんてなかったんだ!


送ってはいけないモノを送ってしまったため、罪悪感で冷や汗が出た。


Bさんから立て続けに

「送ったらいけない書類もあるからね、ちゃんと見ないとダメだよ〜。」

と言われた。


「すみません。」と私は心から申し訳ない顔をして謝った。


それと同時にこんな自問自答をしていた。


『「決裁のような気がするけども、こういう書類も取引先に送ることあるのかな?」の時点で言葉に出せばよかったのか?』


『いや、新卒が勤続10年超えの上司に指摘なんてできるわけないよ。』


『だったらどうしたらいいんだよ〜!』


この自問自答はすぐに無駄だとわかった。


Bさんが向かいの席のAさんと顔を見合わせて【ニヤニヤと笑っていた】から。


2人の表情を見て、この事象を起こしたのだと悟った。




















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