【課長が迎えに来ない!②】

「新規採用職員は各配属課の課長が迎えに来ます。」


と総務課の職員に言われて、役場庁舎内の課に配属された同期たちは続々と課長と共に去っていった。


残ったのは私と会議室に入った時に挨拶した若い男性だった。


この男性も私と同じ社会教育課へ配属だったのである。


同じ課に同期がいて安心した。


しかし、一向に課長が迎えに来ない!


「どうしたらいいんだろうねぇ?」


と同期くんと困った顔をしながら立ち尽くしていたけれど、総務課の職員の方がもっと困惑していた。


総務課から連絡を受けて迎えに来たのは課長。ではなく、主査(※)のAさんだった。


※主査は公務員の役職。


一縷の不安を感じながらも、すぐに公民館に向かい、私は社会人になって初めての職場に足を踏み入れた。


公民館に着くなり、おじさんが館内をウロウロしながら歩いていた。


Aさんから「課長だよ。」と紹介された。


この人が課長か!


気の良さそうなおじさんが「お、よろしく!」とだけ軽く言った。


ガチガチに緊張した頭を深く下げたけれども、頭の中身は「課長は私たちを迎えに来ないで何をしていたのだろう?」とばかり考えていた。


このおじさんが課長に昇進したのはこの年度からだった。


昇進と同時に社会教育課に異動してきたらしい。


社会教育課で働いた経験は、ほんの昔の数年くらいだったらしい。


課長は、後に「仕事内容はあまりわかりません!」と自らカミングアウトするようなお人で、「よろしく!」からも読み取れる軽いスタンスはいつまでも続いた。


船は船頭が脆い、あるいは責務を放棄すると新たな船頭が登場する。


後にこの事務所内は船頭が複数の船となり、私は行き場がわからなくなるのであった。



課長の次に紹介されたのは、課長補佐。


課長とは打って変わって、厳しそうな印象を感じた。


その印象は的確だったようで、顔を合わせた途端にこう言われた。



「ビシバシ鍛えるから!」




一瞬だけ嫌な予感がしたのを、私は気のせいだと思うようにした。
























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