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 このままでは、そう時間はかからず彼女は死ぬ。その現実は変わらない。この世界の命を救う術を僕は持たない。尽きようとする命を前に、僕はただ無力だ。

 それでも、諦められなかった。考える。この世界の命を救うには、この世界の技術に頼るしかない。人里にさえ連れて行ければ、彼女を救うだけの医術を持つ人間がいるかもしれない。

 わずかな可能性にでも縋りたかった。彼女を抱き抱え、僕は立ち上がる。

 

「……あ」


 何かを感じたのか、少女は突然声を上げた。突然立ち上がったことで、傷が痛んだのかもしれない。謝ろうとして、そうでないのだと気付いた。

 彼女の瞳はその瞳は僕の後ろ、静かにたたずむ神樹へと向けられていた。

 振り返る。まばゆい光が目に飛び込んできた。夕焼けの太陽のような橙を帯びて神樹が光り輝いていた。

 世界はもう、黄昏を迎えようとしていた。

 ゆるやかに陽は地平へと沈んでいく。空の色が、緋から宵闇へと移ろってゆく。 

 それはまさしく、審判の刻であった。

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