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確かに、駄目ではないと言った。だが、いかんせん前のめりすぎやしないか。少々圧倒される。
「名前、ねえ……」
それで満足するのなら、と。仕方ないので付き合ってやる。思考を巡らせてみるが、自分の名前と言われてもいまいちピンと来ない。
「神様のお名前……むずかしいですね」
僕の隣で、少女も頭を抱えている。それを見ながら、ふと急に我に返る。どうしてこんなことに労力を費やしているのだろうか。手っ取り早く決めてしまおう。神の名前、それならば最初からある。この神樹の名をそのまま言ってやればいい。
「トネリコ」
「え?」
「トネリコ、さ。神の名前はそれだ」
「トリネコ?」
「違う、トネリコ」
「かわいいお名前ですね。トリとネコですか。ふふ。覚えやすくて良いです」
「いやだから……」
「それでは、今からそう呼ばせていただきますね、トリネコ様!」
人の話を聞かない悪癖がここぞで発揮されてしまった。少女は嬉しそうに何度も間違った名を呼んでいる。
まあ、良いだろう。楽しげな少女の笑顔を見てると、細かいことはどうでもよくなる。彼女がそう呼ぶのは僕のことだし、それもあと数日の間だけ。悪く思わないでくれ。真後ろの本物に心中で呼びかけた。
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