第95話:もう一人の姫ちゃん

「おはようございます、お嬢様」

おはよう、佳乃。

「本日は撮影ですよね?」

そうよ?スタジオを予約したのは佳乃でしょ?

「見学に行きたいのですが・・・」

ダメよ?佳乃は学校があるでしょ?

「そして先輩はナチュラルにサボるんすね・・・」

サボらないわよ?

ちゃんと午前中は小麦と一緒に会社に行くし。

昨日すっぽかした打ち合わせに出るために。

お詫び用の『とらや』も(佳乃が)用意したし。

先方の会社に行ってごめんなさいした後に打ち合わせ。

あたしはそのまま直帰の予定。

「そう、上手くいくっすかな?」

私の計画に問題はないはず・・・


「そうすると私はどうすればいいんだよ?」

はっ!?

そういえばリーゼロッテって1人で電車とか乗れるのかしら?

「絶対に無理っすね」

SUICAもスマホも持ってないわよね・・・

そもそも路線図も知らないわけだし。やはり連れていくしかないのか・・・

「コヒメと一緒にお出かけなんだよ!」

仕方がないわね・・・

でも、どうしようかしら?

打ち合わせの場に連れて行くわけにはいかないし・・・


「仕方がないっすね、私が面倒を見ててあげるっすよ」

じゃあ、小麦は仕事をどうするのよ?

「見た目は先輩と同じっすからね、会社に居ても問題はないと思うっすよ?」

大問題よ!

本物のあたしは取引先に居るのよ?部長と一緒に!

あたしが二人居ることになるじゃない?

「ネット的には二人居ることになってるから問題ないっすよ?」

それも問題なのよ。


「何もしないでおとなしくしてるんだよ・・・」

本当かしら?

小麦と一緒に静かに待ってられる?

「私がどうにかごまかしておくから大丈夫っすよ!」

いまいち信用できないのよね・・・小麦だし。


「失敗したらごめんなさいすればいいんだよ!」

だから、そのごめんなさいをしに行くのよ・・・

「コヒメがさぼったのが悪いんだよ?」

まあ、その通りだから何も言えないわ・・・


それはそれとして撮影用の衣装をもっていかないと・・・

「私がアイテムボックスに入れれば楽ちんなんだよ!」

じゃあ、あたしとリーゼロッテのサンタ衣装を持っててくれる?

リーゼロッテの暇つぶし用にタブレットも持っていこう。

「一応お弁当も作りましたが・・・」

打ち合わせの時間が長引くかもしれないのよね・・・

まあ、あたしが昨日すっぽかしたのが悪いんだけど。

よし、リーゼロッテに持っててもらおう。

「アイテムボックスなら出来立てのままなんだよ!」


電車に乗るために駅に向かう。マンションの2階がそのまま駅につながってる。

なんとも楽ちんだ。

「そう言えば、リーゼロッテって子供料金っすよね?」

SUICAって子供料金で乗れるのかしら?

スマホで調べる。子供用のSUICAがあるらしい。

緑の窓口で手に入るらしいけど、リーゼロッテでは購入出来ない。

なんせ、戸籍とかないからね。

まあ、普通のSUICAでいいか。面倒ごとは避けよう。

券売機でSUICAを購入し適当にチャージしておく。

「これが電車に乗れるカードなんだよ?」

そうよ、それに対応してるお店なら買い物も出来るのよ?

「すごいんだよ!」


そんなわけでようやく電車に乗る。

「先輩のスーツ姿は違和感ありまくりっすね・・・」

何も言うな、自覚している。どう見ても七五三だ。

あたしの予備のしまむらで買った服を着ているリーゼロッテの方が普通に見える。

年齢的にはあたしは32歳で、職業的には会社員で、スーツを着ているのはおかしくないはず!

「先輩は普段会社に来るときは私服じゃないっすか」

そう、服装は自由な会社だからね。でも、今日は取引先の会社に行く。

しかもお詫びと打ち合わせに行くんだ。ちゃんとした格好でないとダメだと思う。


そんなわけで会社に到着。途中のコンビニでリーゼロッテ用のお茶とお菓子を購入。

小麦とリーゼロッテは小麦のブースに。

あたしは部長と合流して取引先の会社に向かう予定。


「おお、姫ちゃん!」

昨日は申し訳ありませんでした。

そう言いながら頭を下げて、まずは部長に謝る。

「ところでもう一人の姫ちゃんは誰なんだ?」

は?

何故に部長がそれを知ってる?会社に来る途中で見られたのか?

「いや、娘に見せられたんだが、これ姫ちゃんだろ?どっちかわからんが・・・」

そう言って見せられたスマホの画面にはくるくる回ってるあたしとリーゼロッテが・・・

「双子だったのか?」

いえ、あの、なんて言うか・・・親戚の子?

「あれ?真白さんさっきと服が違う・・・安藤さんのブースに居た時は私服だったよね?」

通りがかった高橋さんが話しかけてきた。

「もしかしてもう一人がここに居るのか!?」

あああ、速攻でバレた。


部長が小麦のブースに向かってしまった・・・

仕方なくあたしもあとを追いかける。

「おお、本当に姫ちゃんにそっくりだな。影武者か?」

周りでも双子説とかクローン説などがささやかれている。


「ここが間違ってるんじゃないかな?文字の雰囲気が違うんだよ!」

何故、リーゼロッテが小麦のソースを見ながらダメ出しをしている?

「こっちも文章の雰囲気が変じゃないかな?こことかがダメだと思うんだよ?」

しかも、なぜか指摘箇所が適切だ。

「なんて書いてあるかはよくわからないけど、そう言う間違い探しは得意なんだよ!」

古代語も龍語も現代語に見えて普通に読めるリーゼロッテだ。

もしかするとpythonのソースコードも普通の文章に見えているのかも?

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