第80話:噴水広場的な場所

『ささやき・えいしょう・いのり・ねんじるんだよ!』

リーゼロッテが呪文を唱えながら、薬をバシャバシャかけている。

それにしても、そんな呪文どこで覚えたのよ?

ピカピカに光る花子がむくりと起き上がる。

「これは?」

花子が倒れたから、リーゼロッテが死者蘇生の儀式?をやってたのよ。

「よかったハナコが生き返ったんだよ!灰になったらどうしようかと思ったんだよ!」

いや、全然死んでないし。むしろ、呪文を唱える前に目を覚ましてたし。

「ベタベタで気持ち悪い・・・」

謎のファンタジーな液体をかけられたからね。

普通に洗いなおした方が良いんじゃないかしら?


「ここがお風呂場でよかった」

いつの間にか佳乃が花子の身体を洗ってあげている。

「山田、かゆいところはないですか?」

あいかわらず、佳乃の洗い方はいやらしい。

「こら!メイド!そこには触れるなと!」

まあ、どうにか大丈夫そうね?


「普通の温泉も悪くない感じなんだよ・・・」

今はみんなで露天風呂に浸かっている。

「昼間だといまいち風情が足りませんね・・・」

夜だったら星空が見えたりするけど、今はまだ午前中。

しかし、たまにはこんなのも悪くない。

「先輩、この後はどうするんすか?」

今からじゃどこかに行くのも時間が中途半端ね・・・

でも、晩御飯のカニは食べるから今日もここに宿泊よ?

「いや、それまでの間っすよ・・・機材が無いから調査も出来ないっすよね?」

調査?何の?

「リーゼロッテの世界っす」

ああ!、そう言えば世界が止まったって・・・

温泉にのんびり浸かってたらすっかり忘れてたわ・・・

まあ、家に帰らないとどうにもならないから、後ね、後。焦っても仕方が無いわ。

そんなことよりもお昼ごはんはどうしようかしら?

シウマイ弁当を食べるつもりでいたから他には何にも考えていないのよね・・・


「お昼を12時過ぎに食べるとして、あと2時間ほどあるっすね・・・」

マッサージにちょうどいい感じの時間ね。

「お嬢様はそんなに肩が凝ってるのですか?」

言われてみると全く凝ってないわね・・・

この身体はリーゼロッテのファンタジーボディーだ。

永遠の10歳児だし、肩や腰が凝ることもない。

そうするとマッサージは不要?

いや、あの雰囲気を味わいたいんだよ!

「この佳乃にお任せを!」

佳乃に任せると違うマッサージになりそうだからやめておくわ。


「この街のギルドに行ってみたいんだよ!」

無いわよ。と言うかこの国に冒険者ギルドはないわよ?

「え?じゃあ、冒険者の人はどこで依頼を選ぶんだよ?」

そもそもこの国に冒険者は居ないわ。やることが無いから。

「魔物が襲ってきたらどうするんだよ?」

大丈夫よ。魔物が居ないから。

「薬草の採取は?」

薬草もないわよ?

だから、もちろんポーションもないわよ。

「恐ろしい世界なんだよ・・・」

違うわよ。平和だから必要ないのよ。


「じゃあ、噴水広場に行ってみたいんだよ!」

噴水広場?あったかしら?

「普通は街の中心にあると思うんだよ?」

じゃあ、駅前かしらね?

「とにかくそこに行ってみたいんだよ!」

でも、そうすると浴衣じゃ不味いわね・・・

「マスターの予備の服とかない?」

服はどうにかなったとしても靴が無いわね。

「自分の服がアイテムボックスにいくらでも入ってるんだよ?」

アイテムボックスは使えないはず・・・だけどさっき使ってたわね。普通に薬を出してたわ・・・


リーゼロッテにはあたしの服を貸してあげるわ。

だからリーゼロッテの服を貸してくれないかしら?

「服の取り換えっこなんだよ?」

そうね、異世界の服に興味があるのよ!

「マスターばかりズルい・・・」

花子じゃリーゼロッテの服は着られないじゃない?サイズ的に。

もちろん、佳乃や小麦はもっと無理ね。

でも、あたしならサイズが全く一緒なんだよ!

「まあ、先輩もリーゼロッテっすからねぇ・・・」

そんなわけで、黒猫の服を借りたんだよ!


「コヒメの服もかわいいんだよ!」

リーゼロッテが着ているのはしまむらで買った服。

それとリーゼロッテが持っていた中で一番装飾の少ない靴。


そして歩くこと数分。駅前までやってきた。

「噴水が無いんだよ・・・」

噴水広場じゃないからね。ここから電車に乗って他の街に移動するのよ。

「乗合馬車乗り場みたいな感じなんだよ?」

そう思っても間違いじゃないわね。ただ、馬車ではないけど。

ちょうど駅に停まってるわね。あれが電車よ。

「馬車とは全然違うんだよ・・・四角い箱がたくさん繋がってるんだよ!」

すごいでしょ?一度に1000人とか運べるのよ?

「これなんだよ!こういうのが欲しかったんだよ!」

これが欲しい?ああ、向こうの世界にこういうのが欲しいってことね?

「コヒメ、あれに乗ってみたいんだよ!」

佳乃、手配して。ちゃんとお弁当が食べられる時間帯のやつよ!

「行先は熱川でよろしいですね?」

どこでもいいんだよ!駅弁が流れる景色で以下略なんだよ!

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