第78話:歌え!歓喜の歌!
「ところで、リーゼロッテは移動出来るのですか?」
ぽてぽてと歩くことは出来ているみたいだけど、佳乃が気にしているのはそういうことではない。
「黒音はリーゼロッテに触れない。リーゼロッテは黒音の肩に登れる?」
一生懸命よじよじ登ろうとしてるけど無理なようだ。
『ダメなんだよ・・・』
これはちょっと問題かもしれないわね・・・
「じゃあ、リーゼロッテはここに置き去りっすか?」
そういうわけにもいかないわよね・・・
『歩くことは出来るんだよ』
で、歩いてどこまでいけるの?
『もしかして馬車とかに乗らないとダメなんだよ?』
馬車ではないけど、乗り物には乗るのよ。
『もっかいアンドーの石板に入れないかな?』
ああ、スマホの中なら移動出来るかもね。
『それか精霊の力に満ち溢れてるところとかないかな?』
精霊の力?もしかして薬を作るの?
『精霊薬とか神薬を私の身体の中で作ったら効果があるかと思ったんだよ』
材料はあるのね?
問題は精霊の力か・・・
この世界には精霊は居ないはず。
『材料は要らないんだよ。精霊さんの力が集まってお薬になるんだよ』
なおさら無理な気がしてきた・・・
『回復の泉とか温泉も無いんだよ?』
温泉ならあるわよ。まさに今いるここが温泉街よ。
『お薬を作ってみるんだよ!でも、温泉が見当たらないんだよ?』
ここは街の中だからね。宿屋に行かないと温泉は無いわ。
『どうやってお風呂屋さんに行くんだよ?』
リーゼロッテは持ち上げることも出来ないし・・・
またふりだしに戻ったわ・・・
結論、私の身体には触れることが出来た。
私の中のリーゼロッテ成分が関係しているのかもしれない。
もしくはリーゼロッテが私のことを神様だと認めているからかもしれない。
理由はともあれ、いろいろと試した結果として、私には触れることが出来るらしい・・・
だから、今は私の肩に乗っている。
そうと決まればさっさと宿に戻って温泉だ。
リーゼロッテの出現で色々と予定が狂ったが、それすらも楽しんでしまうべき。
なんて言うか駅弁どころではなくなった。
『ここが温泉?癒しの湯とか、美白の湯とかは無いの?』
そんなものは無い。あれはファンタジー世界の温泉だ。
『温泉にお薬を混ぜればいいんだよ!』
ダメ、リーゼロッテが持ってる薬は異世界の代物。
『じゃあ、私がやらかしても大丈夫な壺風呂とかを用意して欲しいんだよ』
なるほど。
それだと大浴場ではなくて部屋風呂ね。
そんなわけで、大浴場から自分たちの部屋に戻った。
特別室の『白ウサの間』には内風呂もある。
一般的なバスタブで洗い場もそれほど広くない。
間違っても金魚鉢ではない。普通のだ普通の。
マンションや建売の一戸建てでよく見かけるやつ。ベージュっぽいヤツ。
だからみんなで一度に入るのは無理。
しかし、今回は風呂に入るのが目的じゃない。
『ここならお薬とか入れても大丈夫なんだよ?』
ええ、ここなら大丈夫。
まずはお湯を・・・
もしかしてバスタブじゃなくて洗面器の方が良いのかな?
リーゼロッテは今手乗りサイズだから、バスタブにお湯を満たすと沈んでしまう。
ケロリンの洗面器にお湯を満たしてリーゼロッテを入れる。
『早速お薬を注いでみるんだよ!』
おそらくアイテムボックスから取り出したと思われる虹色にピカピカ光ってる薬を注いでいく。
もちろんケロリンの中のお湯もピカピカ光る。
確かにこれを大浴場でやられるとまずかった。
『おお?』
なんか少し半透明っぷりが薄くなったというか色が濃くなった?
「割とはっきり見えるようになりましたね・・・」
佳乃がリーゼロッテに触ろうとするが、素通りしてしまう。
「黒音も触れない」
花子も試したけど結果は同じ。
『今入れたのは精霊薬なんだよ・・・』
じゃあ、いっそのこと神薬でも入れてみれば?
『惜しみなく注いでみるんだよ!』
またしてもピカピカ光ってる薬をケロリンに注いでいく。
『これは結構いい感じだと思うんだよ!』
ほとんど透けて見えなくなった。
やっぱり、自分に振りかけるんじゃなくて、薬に浸かるのが有効みたいね。
『そしてこの状態なら、精霊さんの力だけじゃなくて色々な力が満ち溢れてると思うんだよ!』
なんて言うかケロリンの洗面器を中心に浴室中が光ってるからね。
『風よ、火とともに素材を分解、乾燥、粉砕せよ!』
『水よ、風とともに素材を混合、溶解、攪拌せよ!』
『土よ、水とともに素材を設置、固定、安定せよ!』
『火よ、土とともに素材を煮沸、浸透、抽出せよ!』
『光よ、闇とともに素材を圧縮、選別、錬成せよ!』
『闇よ、光とともに素材を変質、聖別、浄化せよ!』
『薬よ、夢とともに世界を改変、修復、顕現せよ!』
『歌え!歓喜の歌!!』
ら・ら・ら・ららら・ら・ら・らららら・らーららー
らん・らら・らんらら・らんら・らんらんらーら・らーらーらー
「これってベートーベンの第九っすよね?」
キュゥゥゥゥ・・・パキィィィン!!!
-生命の錬成に成功しました-
「くははっ、ふははっ、はーはっはっはっはー!!!」
元のサイズに戻ったリーゼロッテがケロリンの洗面器に片足を突っ込んだ状態で高笑いをしている。
「悪の組織の首領の笑い方・・・」
花子が冷めた目で見ている。
「普通に触れるっすね・・・」
小麦がペタペタ触って確認する。
「そうですね、見た目はお嬢様と区別がつきません・・・」
佳乃はいったいどこを見て確認している?
「これでカニが食べられるんだよ!」
そしてリーゼロッテの野望は思ったよりもしょぼかった・・・
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