第72話:売店とゲームコーナー

「本当に駅の近くっすね」

熱海の駅から歩いて10分ほどのところ。

温泉旅館『黒猫の湯』がある。元の名前は忘れたけど、老舗だった旅館だ。

現在はあたしの好みにフルリフォームしてある。元の面影はない。

ただ、なるべく温泉旅館に見えるようには気を付けてはいる。

決してリゾートホテルのような感じではない。


「いらっしゃいませ、黒猫の湯へようこそ」

女将が出迎えて挨拶をする。

うんうん、こういう感じなんだよ!

「真白様御一行ですね?」

そうよ、予約した真白よ。


「こちらになります」

仲居さんが案内して特別室に到着。

ここはいつでも空いている。あたし専用の部屋。

まあ、その分客室が常に1室空いてるわけだけど・・・細かいことは気にしないんだよ!


「特別室ってわりに普通の作りっすね?」

そりゃあそうよ。お貴族様のような豪華チックな部屋を期待してたの?

「私はもっと狭い秘密基地のような部屋かと思っていました・・・」

でもね、考えてみて?ここは温泉旅館なのよ?

妙に豪華な部屋は雰囲気に合わないでしょ?


「むしろ、頭に思い描くような温泉旅館の部屋」

そうよ!花子の言う通り!

ベタな部屋にしたのよ!

テーブルの上にはお茶とお菓子。

床の間に掛け軸。小さい冷蔵庫。

これぞ、ザ・温泉旅館!って感じでしょ?

「ちょっと先輩の感性は偏ってる気がしないでもないっすけど・・・まあ、こんな感じっすよね?」

まあ、向こうの世界の黒猫の湯と同じにする案もあったんだけどね・・・


「ところで、お食事は部屋食なのでしょうか?」

もちろん、大宴会場よ!

「なるほど理解しました」


-完全に修学旅行とか社員旅行っす-

-家族旅行ではないですね-

-リーゼロッテの影響?-


夕飯は18時30分からだから、まだ少し時間があるわね。

「黒音は売店を見たい」

売店もゲームコーナーもあるわよ!


-多分ペナントとか木刀とか売ってると思うっす-

-さすがに、ご当地〇〇のキーホルダーとかでは?-

-黒猫の湯に行ってきましたのお菓子があると思う-


ここが売店なんだよ!

「やっぱり予想通りっす・・・」

小麦がペナントと木刀を手にとって遠い目をしてるんだよ?


「意外とおいしい・・・」

花子はお菓子の試食をしてるね。気に行ったなら買って帰るわよ?


佳乃はゲームコーナーかしら?

「お嬢様、この筐体本物ですか?」

正確に言うと一部本物よ。

佳乃が指さしてるのはテーブル筐体。

パックマン、ギャラガ、ゼビウス、ドルアーガの塔・・・

「やっぱり先輩はちょっと偏ってるっすね・・・」

ナムコしかないのを偏ってると言われると否定出来ない・・・


当時の筐体だとブラウン管がダメになってるのが多くてね・・・焼き付きとか。

だから画面は液晶に変えてあるのよ。

それ以外にも、パーツが無いものは出来る限り当時の雰囲気を残しつつ今の物に置き換えてるわ。

例えば、レバーとかボタンね。ガタが来てたのは最新パーツに換装してあるのよ。


「何で画面が下にある?」

花子はテーブル筐体を見るのは初めてなのかしら?

大昔はこういう筐体が主流だったのよ。

「先輩すら生まれてないほどの昔の話っすよね?」

今でもこのゲーム自体は出来るじゃない?色々移植されてるし。

でも、せっかくだから本物が欲しくて集めてみたのよ。


「うぅ、これアームが弱すぎじゃないっすか?」

小麦がクレーンゲームに文句を言っている。

ちなみに中に入っているのは黒猫ちゃんのぬいぐるみだ。

これはオリジナル製品。

こういったクレーンゲームって取れそうで取れないもんなのよ!

「次は私です」

今度は佳乃が真剣になってクレーンゲームを操作してる・・・


おお?

取れた・・・小麦の失敗を考慮してのクレーンさばき?

「メイドにそんな知恵はない。多分野生の勘」

うん、まあ、そうかもね・・・佳乃だし・・・


「お嬢様、そろそろ夕食の時間ではないでしょうか?」

時計を見ると18時20分。大宴会場に向かいましょう。


「はい、『白ウサの間』のお客様ですね。こちらのお席になります」

仲居さんに案内されて席に着く。

他のお客さんも大体みんな席に着いている。

全員が同じ団体じゃないからね。配膳されたら食べ始めている。

そして目の前に用意されたあたしの分の食事!

カニが少なくない?鍋もないし・・・

「お嬢様、今出ているのは前菜でメインは別になるそうです」

え?

「先輩、これ全部食べきれるんすか?」

今目の前にあるだけなら可能か不可能かで言えば可能だ。

だけど、そのあとに出てくるメインにまで手が回るかは疑問だ。

おそらくは途中でリタイヤすると思う・・・


佳乃はあたしの隣ね。食べきれない分を手伝ってもらうことにする。

考えた末に出した結論。佳乃に半分くらいを手伝ってもらって全種類制覇する!

どう考えても全部の量は無理。でも、全部の種類は食べたい!

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