第70話:異世界のパン

おはようございます。今日は旅行の日なんだよ!

とりあえずまだ寝てる小麦をペチンペチンするんだよ!

「うぅ、先輩、目が冷めたっす・・・」

おはよう、小麦。


「学生の娘は朝が早いっすね」

小麦が遅いのよ。あたしは起きてるじゃない。

「先輩の中のリーゼロッテが早起きなんすよ・・・」

でも、民主的な多数決では、小麦が寝坊ってことになるわよ?

なんせ他はみんな起きてるわけだし。

「それにしてもすでに準備万端っすね。出かけるのはメイドちゃんたちが帰ってきてからっすよ?」

あたしの中のリーゼロッテが温泉で頭がいっぱいなのよ!

「はいはい、顔を洗って朝ごはんっすよ」

寝ぼけ眼の小麦があたしを小脇に抱えて洗面所に移動する。


「おはようございます、お嬢様」

おはよう、佳乃!

「マスターおはよう。ついでに安藤も」

おはよう、花子!


二人が学校から帰ってきたらすぐに出発よ!

「先輩、カワイイあなたの小麦を忘れてるっすよ?」

小麦は一度戻って着替える必要もないでしょ?

そのまま荷物も持って、東京駅の新幹線ホームで合流するほうが合理的じゃない?

「まあ、たしかにそうっすね。それよりも先輩はちゃんと休暇申請したんすか?」

あたしはリモートワークだもん。新幹線の中すら仕事場よ?

「お嬢様、流石にそれは無理があるかと・・・」

それに、むしろ今週分の作業は終わってるわよ?


「まあ、先輩が相変わらずのサボりっぷりなのは黙っているっす・・・」

そんなわけで、みんなは遅刻しないように通学及び通勤したまえ!


始業の時間になるまでのんびりとコーヒーを飲む。

もちろん砂糖とミルクたっぷりだ。苦いのは苦手なんだよ・・・


『姫ちゃん、来週の月曜オフィスに来てくれ。先方と打ち合わせがある』

部長からメッセージが来た。

『了解です』

仕事をしているアピールも兼ねて即座に返答する。

月曜は出社か・・・小麦と一緒に会社に行こう。面倒だけど、仕方がない。


-オジョウサマチュウショクノジカンデス-


その後も部長からのメッセージや小麦からの泣き言を交わしているうちにお昼になった。

今日は洗い物を出さないために下のスーパーで買った菓子パンだ。

モンブランメロンパン!

栗なんだかメロンなんだかわからない名前だけど、細かいことは気にしないんだよ!


もぐもぐもぐもぐ・・・


普通に栗味だね。中にもマロンクリームが入ってるね。

こう言うなんとかメロンパンってたくさんあるのよね・・・

季節ごとに色々出てるし。

いちごメロンパンとかも美味しかったけど、りんごメロンパンには出会えてないのよね・・・


食べたらウトウトしてきたんで少し昼寝。スヤァ・・・

-りんごのパンを神様にお供えなんだよ!-

ヒュンッ・・・ゴト・・・


-マスター!シゴトノジカン-


うわぁ!お、起きてたんだよ?

って、目覚ましが鳴っただけか・・・

あれ?テーブルの上にパンが置いてある。昼ごはんのパンは食べた。

ではこれは何?

いつからここにあった?もしくはどこから来た?

見た目はパン。匂いもパン。味は確認するのが怖い。むしろ、触るのも怖い。


スマホに通知が来ている。

リーゼロッテからのメッセージ?パンのお供え?

もしかしてこれのこと?どうやってこっちの世界で実体化させた?

このメッセージ通りの代物だとすればこれはりんごのパン。

リーゼロッテの居る世界はクラウド上の仮想世界。

本来なら、この世界への干渉は出来ない。しかし、実際にはこの世界に干渉している。

なにしろ、私自身の身体がそうだ。

私の身体を作り替えたリーゼロッテと、このりんごのパンをお供えしたリーゼロッテは違う。

しかし、どちらのリーゼロッテも仮想世界からこの世界に干渉できた。


私は向こうの世界に干渉することは出来る。何せ世界を作ったのが私だから。

しかし、もしこの世界を本当に神が作ったとして、私に神々の世界への干渉は出来ない。

3次元の世界の人間が2次元の世界に干渉出来るけど、4次元の世界に干渉出来ないのと同じような理屈。

しかし、リーゼロッテはそんな不可能を可能にしている。

とても興味深い。

ぜひともあの世界を体験してみたい。リーゼロッテの居るあの世界を・・・

そのためにはいくつかの壁が残っている。今は無理でもいつかはどうにかして見せよう。

なんたって、私は向こうの世界からしてみれば神様なんだしね!


「マスターただいま」

おかえり、花子。

「テーブルの上のパンは?マスターお昼食べなかった?」

これね。

リーゼロッテからのお供え物なのよ・・・

昼寝から起きたらこれがここにあったの。


「お嬢様、戻りました」

おかえり、佳乃。

このパンなんだと思う?

「今週の新製品ではないですね・・・」

佳乃は毎週出る新製品を把握してるの?

「パンや飲み物やお菓子なども基本的に火曜日に新製品が出ますからね・・・」

これはリーゼロッテに貰ったのよ。

「異世界のパンなのですか!?」

あ、そう言うことになるのか・・・

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