第8話:面接開始

再びメールが届く。さっきの女性だ。

今からでも大丈夫です。30分で辿り着けます。との事。

いよいよ冷やかしか。30分後の時間を指定した。ここからなら5分、いやこの身体だと10分か?

それにしても、すぐにでも面接したいって、なんでそんなに焦ってるんだ?

確かに今日は土曜日でしかも祝日だ。休み中に決めたいのかも知れない。

それとも、今の住処を追い出されるようなことをやらかしたのか?

だとするとそんな人を雇いたくないんだが。


さて、そろそろ出かけよう。コーヒーを飲んだばかりなのに喫茶店に行かないといけないとは。

約束の喫茶店に3分前に到着する。店員に待ち合わせだと伝えて、さっきの写真を見せる。

まあ、居ないよな。しかし、店員の返事は違った。

奥の窓際のお席です。って来ている?この写真の本人が?

案内された席に向かうと、確かに写真の人物が座っている。だが、女子高生?制服を着ている。

そもそも今日は11月3日。文化の日で学校は休みだ。

19歳だから普通は高校を卒業している年齢だ。コスプレ?

しかし、コスプレして面接に来るか?一応確認しないと。

「あの、吉野川さんですか?」

本人だった。履歴書も持参している。

スーツは無いので学校の制服で来たそうだ。まあ、スジは通っている。

まだ注文していなかった彼女の分と、私の分の二人分の飲み物を注文する。


履歴書に目を通す。書式は特に問題ない。問題は内容だ。

年齢は19歳になっている。学歴は高校在学中となっている。入学年から計算すると留年したのか?

資格には調理師と普通運転免許が記載してある。

運転免許も見せてもらった。名前は吉野川佳乃と書かれている。写真も目の前の人物だ。

偽造ではなさそうだ。少なくとも素人目には本物に見える。


「まず、質問。仕事の内容は理解してる?」

これが答えられないとどうしようもない。

「家政婦とはいってみればメイド、メイドの仕事であれば、炊事洗濯掃除などの家事全般ですよね?」

まあ、ちょっと気になることはあるが、一応問題なさそうだ。

「それと車の運転も」

思い出した様に付け加えられた。募集要項に要普通運転免許と書いてあったのを思い出したのだろう。

だが、免許はあるけどペーパーかもしれない。ちゃんと運転できるのか?

「セバスチャン的に先に降りてドアを開けたりするのでしょうか?」

ちょっと知識に偏りがあるみたいだけど、大丈夫だろうか?

「そこまでしないで大丈夫です。詳しい話は家でしましょう」

実際の現場を見てもらったほうがはやいしな。


「それは採用していただけるということでしょうか?」

まあ、こちらとしても早急に家政婦はほしいから、あまり贅沢なことは言えない。

「一応その予定です。もっと詳しい話をしたい、実際の仕事場見てもらってから意見も聞きたいし」

住み込みで働いてもらうんだから、当然ではあるのだけれど。

掃除にしろ洗濯にしろ、規模を把握してもらわないといけない。

もともと俺一人でできていたのだから、問題ないはずではあるのだが。

「そうですね。ここでは人目もありますし」

人目?なんの話だ?

会計を済まして、二人で家へと帰る。


「ところで、ご主人様と呼べばよいのでしょうか?それともお嬢様?」

ああ、この子の中ではメイドという認識なのか。しかも割と間違った方の。

「私の名前は真白小姫。そうね小姫ちゃんとかでいいわよ?」

すぐに訂正された。

「雇い主をちゃん付けとか恐れ多いです。お嬢様」

お嬢様になったわけね。別にどうでもいいんだけど。

で、マンションに到着。部屋の中に招き入れる。

もしかしなくても女性が入るのはこれが初めてだ。自分を除けば。

「おじゃまします」

そう言って吉野川さんも中に入ってくる。

脱いだ靴をキチンと揃えるあたり、しつけが良い感じがする。俺が脱いだ靴まで揃えてくれる。


リビングに通して、コーヒーを淹れる。

今日すでに3度目のコーヒーだ・・・この身体にはカフェインの取り過ぎかもしれない。

ちゃぶ台しかないので、とりあえずは座ってもらう。

一人暮らしだと応接セットとか使わないし。

「色々と聞きたいことはあるの」

吉野川さんの顔がこわばる。緊張しているのだろう。


面接 -side:真白-

高校生って書いてあるけど、留年とかしてるの?

「ええ、恥ずかしながら3回目の2年生です」

高2?高3じゃなくて?2留って何やったんだろう。

そんなに勉強が出来ないのか?

「出席日数が足りずに進学できなくて」

素行が悪いのか?停学を何度か食らってるとか?

「実は、両親が離婚していまして、母親に引き取られたんですけど、母親も男癖が悪く」

複雑な家庭環境なのか。

「学費は父が出してくれてはいるのですが、それも高校卒業するまでとのことなので」

普通は大学卒業までじゃないのか?よく知らないが。

「であれば、高校在学中にいろいろ資格を取ろうかと思って」

なるほど。それで調理師か。


「更に母親も男と出ていってしまって、今の住まいも今月いっぱいで引き払われてしまったので・・・」

それで焦っていたのか。

「タイミング良く住み込みの募集がありましたので、これはチャンスかと思いました」

今月中に住む場所を探さないといけなかったわけだ。

高校生だと友達も実家住まいだろうから、泊めてもらうってわけにも行かないよな。

学校の寮とかは?

私立の女子校なら寮もありそうな気がするけど。

「新入生の入学の時期でもないので空きはありませんでした」

それもそうか。

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