第5話:プロジェクト会議

そろそろお昼か。この身体の味の好みを探る意味でも、色々なものを試す必要があるな。

コーヒーがいい例だ。おそらく他の食べ物の好みも変わってるだろう。

その前に、この姿で一人でラーメン屋とか入ったら怪しまれないか?

コンビニが無難か?朝はトースト一枚だったし、あんまり量は必要なさそうだ。

おにぎりやカップ麺でいいか。ここで考えても仕方がない。移動しよう。


カップ麺コーナーを見る。以前なら激辛系を食べていたが、やめておこう。

コーヒーのことを考えれば、激辛ラーメンは気絶するかもしれん。

王道中の王道である、日清のカップヌードルのしょうゆ味にしよう。

会社に戻って給湯室でお湯を入れる。入れられない。届かない。

通りがかった部下の安藤にお湯を入れてもらう。ついでにブースまでもっていってもらう。

普通に持ったら熱くてこぼしそうだった。カップ麺すら自力で作れないのか。


小学生の時ってこんなだったか?男と女の差なのか?この身体が小さすぎるのか?

さて、出来上がったので食べてみよう。

熱い!かなりの猫舌になった気がする。でも、そんなものはフーフーすればいい。

見た目通りのお子様ではなく中身は大人なのだ、冷静に対処すれば問題ない。

味は大丈夫だ。苦手な味ではない。普通においしく感じる。

どうやらカップ麺は大丈夫なようだ。熱さ以外は。

そして予想通りに普通サイズのカップ麺一個で満腹だ。

以前なら、肉まんかおにぎりを追加しても足りなかったのに。

困ったことに食べたら眠くなってきた。薄れる意識の中スマホのアラームをセットする。

すぴー


会議室 -side:安藤-

「安藤、ちょっと姫ちゃん起こしてきてくれ」

先輩寝起きが悪いっすからね。でも、部長命令だし仕方ないっすね。

でも、さっきカップ麺にお湯入れてあげた時は機嫌よかったし、今日は大丈夫かもしれないっすね?

とりあえず先輩のブースに行くと、やはりお昼寝中だったっす。

アラーム鳴ってるっすよ。これで起きないんすね。

肩をゆすってみる。

「先輩、起きてくださいよぅ」

目をこすってる先輩。カワイイ。

スマホのアラームを停止して、先輩を会議室へと連れていく。

部長が待ってると伝えるとおびえた顔をする先輩。カワイイ。

急いで会議の用意を始めている。と言ってもノートパソコンを持っていくだけ。

会議室についてノートパソコンをプロジェクターに接続してあげる。

「アプリコットカフェのECサイトの案件ですが、以前他の案件で使用したコンポーネントが流用可能です」

てきぱきと必要事項を簡潔に説明する先輩。凛々しい。カワイイ。


見た目はお子様だけどとても頼りになる先輩。

「基本は月見酒造のをベースにDBのテーブル構成を修正すれば問題ありません」

部長もウンウンうなずいているから、先輩の説明が正しいんすね。さすが先輩。カワイイ。

「そういうわけで、安藤でも十分に可能であると思います」

何やら名前が呼ばれたっすね?

「そうか!頼むぞ安藤!」

部長も私のほうを向いている。

え?もしかして、私がやるんすか?この案件。一人で?


「それと真白、以前から申請のあったテレワークの件、社長の許可が下りたぞ」

しかもテレワークって在宅ってことっすよね?先輩が居なくなるんすか?

「打ち合わせや会議で週に1回は出社してもらうが、それくらいは勘弁してくれ」

週に1日しか先輩に会えない。これからどうすればいいんすか・・・


会議室 -side:橋本 -> 真白-

体が揺れている。

「先輩、起きてくださいよぅ」

安藤の声がする。今日はよく安藤に会うな。

朝のエレベーターに昼の給湯室。そしていま俺の肩を揺らしている。

彼女はうちのチームのサブリーダー。

ちなみにリーダーは俺だ。以前は生ごみでも見るような目で俺のことをにらんでいたが、

今日は笑顔で見つめている。中身が同じでも見た目が違うだけでこれだけ扱いが変わるのか。

ん?なんだこの音。スマホのアラームだ!寝過ごした。

とっくに昼休み終わってるじゃないか。

確か午後一で会議だったはず。それで安藤が起こしに来てくれたのか。

ノートパソコンは安藤が持ってくれてるから、書類を持って急いで会議室へ。

部長怒ってるだろうな。気が滅入る。


今回の会議は来週から開始する新規のECサイト構築についてだ。

安藤がプロジェクターの設定をしてくれている間に資料を配る。

「アプリコットカフェのECサイトの案件ですが、以前他の案件で使用したコンポーネントが流用可能です」

まあ、基本はよくあるタイプだ。Webサーバーを立ててDBサーバーを立てて負荷分散はあまり考慮しなくてもいいほどのアクセス数だ。

Webのデザインは外注のデザイナーさんがやるからインフラの設計がメインだが、それも以前に似たようなのを作ったから流用が可能。

「基本は月見酒造のをベースにDBのテーブル構成を修正すれば問題ありません」

部長も納得してくれたようだ。

「そういうわけで、安藤でも十分に可能であると思います」

このレベルなら安藤一人に任せても大丈夫だろう。入社3年目だし、そろそろこの程度は一人で回してもらわないとな。

「そうか!頼むぞ安藤!」

突然話を振られた安藤が目をぱちくりしてる。

だいたい自分が会議に出席してるんだから、何かしら関係があると思わないのか?


「それと真白、以前から申請のあったテレワークの件、社長の許可が下りたぞ」

真白?俺のことか?社員証を見ると真白小姫と名前が変わっている。

そういう名前になったのか。真っ白で小さくてお姫様の様という安直な名前だが、

悪くない。橋本真一と比べればものすごくしっくりくる。

そして、いつの間にかテレワークの申請をしていたことになっている。

これで電車通勤から解放される。こんなに話がうまく進んでいいのか?

神様に感謝した方がいいのかもしれない。

「打ち合わせや会議で週に1回は出社してもらうがそれくらいは勘弁してくれ」

まあ、週に1日くらいなら別に問題ない。何ならタクシーを使ってもいい。

部長に礼を言って自分のブースに戻る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る