第4話:神様作業中

まあいい、駅には着いたんだ。

あとはコンビニに寄って、コーヒーじゃなくて紅茶にするか。ミルクティーにしよう。

「おはようっす先輩」

エレベーターを待ってると後輩に声をかけられた。

何の疑問もなくこの姿を先輩として認識したようだ。

普通に挨拶を返して一緒にエレベーターに乗る。

12階のボタンが押せないだと?いや、車いす用のボタンが横の壁にある。

冷静にそっちの12階のボタンを押す。

12階のオレンジワークスが勤め先の会社だ。

社員20人ほどのそんなに大きくないけど、小さくもないような規模の会社。


俺はサーバーというかインフラ担当。

今はクラウドが当たり前だから、AWSにGitとdockerで構築するだけの簡単なお仕事です。

昔のようにデータセンターに行かなくて済むから楽なもんだ。

社員はみんな昨日までの記憶の通りの人物だ。

座席の配置も一緒。記憶のまま自分のブースに向かう。

位置は同じだ。しかしサイズが違う。机と椅子がお子様サイズになっている。

キーボードも小型のやつだ。PCの中身は変わっていない。一安心だ。


そういえば、この会社に入社して10年になるわけだが、

見た目の年齢で言えば、赤ん坊の時に入社したことになる。むしろまだ生まれていないかもしれない。

入社前の履歴書の写真とかどうなっているんだ?人事部に行けば残っているか?

当時からずっと見た目が変わっていないのかもしれない。むしろこれからもずっとこの姿なのか?

考えても仕方ない。まずは目の前の仕事をこなそう。

担当しているサーバーのログを確認。エラーログは無し。正常稼働している。

依頼していたテストの結果がメールで届いていた。

次回のメンテナンス時に本番環境に適応させる機能のテスト結果も問題ない。

スケジュール通りに本番に組み込めそうだ。

当面の作業内容をメンバーにメールで指示を出しておく。


これで少し時間ができた。人事部に行ってみよう。

人事部に掛け合って履歴書を見せてもらう。そこには自分の記憶にある姿が写っていた。

あれ?お子様じゃないじゃん。女の子でもないじゃん。男だよ。

人事部の社員もそれを確認して不思議がっている。

どういうことだ?この世界でも俺は昔は男だったようだ。いつからだ?


運転免許は3年前に更新した。その時点でこの姿だったことになる。

その前の姿がわかるもの。何がある?卒業アルバムは実家だから確認できない。

入社してからの写真。社員証!これは入社時に作成したものだ。この姿だ。

履歴書を出して社員証を作るまでの期間に何かあったのか?


そう思って再び履歴書に目を移すと写真が変わっている。今のこの姿の写真に。

さっきまでは男のころの写真だった。

人事部の社員もさっきの写真は見てたはずだ。

しかし、確認してもずっとこの写真だったという答えが返ってくる。

おかしい・・・ほんの数秒前の話だぞ?


記憶ごと書き換わっている?リアルタイムに俺の過去が書き換わっているのか?

1日で10年くらい書き換わるということは、2~3日中には生まれた時からこの姿だったことに書き換わるだろう。

誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。

人事部の社員も俺を変な奴みたいに見ているので、一度自分のブースに戻ろう。


リアルタイムで写真が書き換わった。そして人事部の社員の記憶すらも。

そんなことができるのは神とか悪魔とかそういう存在なのか?

それにしても、何の説明もチュートリアルも用意されていないなんて、なんてクソゲーだよ。

記憶とかの改ざんに時間がかかってるみたいだし、神様とやらも忙しいのかもしれん。

むしろチュートリアルも準備中なのかもしれん。

今すぐ実家に帰れば、昔のアルバムとかは男のままかもしれないが、

それだって2~3日でこの姿に改ざんされるんだろう。

出来れば全部改ざんされてからスタートしてほしかった。

神様の手違いか?正式サービス前にログインしてしまったようなものか?

まあ、フライング気味にサービスを開始して後からパッチを当てるなんてよくあるしな。

そんなことに文句を言っても仕方がないか・・・


どうせだったら名前も変えておいて欲しかった。この姿で橋本真一はないよな?

と言うか、今まさに名前も変わっている最中かもしれないな・・・

なるべく考えないようにして仕事に集中しよう。

もしかしたら、明日の朝、目が覚めると元に戻ってるかもしれんし。

でも、戻りたいかというとそうでもない気がする。

元のブサメンに戻るよりもこっちの姿のほうが勝ち組な気がするし。


だとすれば、当面の問題は見た目にそぐわない名前だな。

ロシアとか北欧の方でもこの姿はないな。アルビノ、アルビノはどうだ?

画像検索をしてみれば肌や髪の色はそれらしくもあるが、目の色も赤いし。

そうか、一応存在するのか。よく見れば顔つきは日本人のそれだ。

アニメなどでは割とよくある存在だが、まさか実在したとは・・・

欧米人のように鼻が高かったり、顎が割れてたりはしない。

結論としては日本人のアルビノということか。


日本人なら名前は無理にカタカナ系でなくてもいい気がしてきた。

この姿を選択した神様がきっと素敵な名前を用意してくれるに違いない。

でも、容姿ガチャでSSRを引いたとすると、名前ガチャでは大外れというオチもあり得る。

最悪は、どうにかして自分で名前を変える手段を検討しよう。

この姿で涙で訴えれば、役所も融通を聞かせてくれるかもしれない。

それに所作だ。いつも通りオッサン的な動作はやめたほうがいいかもしれない。

見た目に即した、立ち居振る舞いを考慮したほうがいい気がする。

難しいな・・・この年代の女の子の所作がさっぱりわからん・・・

元の姿でこの年代の女の子を観察しようものなら即通報ものだ。

逆に今のこの姿で1人でうろついていても別な意味で通報ものだろう。

学校を抜け出したかサボったかしたと思われて普通に補導されそうだ・・・

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