第3話:お子様の初出勤

まずい、そろそろ出かける準備をしないと。

コーヒーをセットして、それからトイレだな。

パジャマ代わりにしている短パンを下ろして用を足そうとする。が、無い。

マジか。この身体の年代でもポークビッツ程度のものはぶら下がっているはずだが。

そもそもなにもぶら下がっていない。袋も。

未使用新品だったとはいえ、不用品だったわけじゃない。

そんなアルトバイエルン的なものは影も形もなくなっていた。

男だと思ってたから中性的な顔立ちかと思ってたが、そもそも女の子だったのか。

どうりで髪の毛が長すぎると思った。胸以上腰未満的な長さだ。ウエストのあたり?

とはいえ、尿意は我慢できない。便座に座って用を足す。終わったら拭く・・・であってるよな?


そうだ、着替えは?今着てるパジャマ代わりのTシャツと短パンは俺のものだ。

サイズはこの身体用に縮んでいる。他の服は?靴は?

外に出られる程度のものはあるのか?

最悪ネット通販で買うしかないが、それだと届くまで外出できない。

会社にも行けない。マズイ。


落ち着け。まずはコーヒーだ。精神を安定させよう。

苦い!とても飲めたもんじゃない。舌もお子様になっている。

いつもブラックで飲んでいたからミルクも砂糖もない。

とりあえず牛乳で割るか。カフェオレになってしまったがそれでも頭は冴えてきた。


色々と確認しなきゃいけないことがある。

外出するための服と靴。これが無いと始まらない。

幸い、クローゼットの中にはこの身体に合うサイズの服があった。

玄関にも子供サイズの靴もある。とりあえずは大丈夫だ。


適当な服に着替えてトーストをかじる。一枚で満腹だ。コスパ最強。

財布を確認。金も入っている。カード類もある。

各種カードの名前は俺の名前になっている。

カバンの中をあさる。社員証もあった。昨日まで勤めていた会社のものだ。

ただし、写真はこの顔になっている。

複数あるスマホの指紋認証と顔認証も問題なく解除できた。

ここまでの状況証拠をもとに推理すると、誰かと入れ替わったのではなさそうだ。

この身体が俺の身体だということらしい。


すると、次は俺の目か脳がおかしくなって本当はオッサンだがお子様に見えている可能性。

しかし、目で見えている感じと手で触った感じに不整合はない。

見た目通りの小ささだ。少なくとも身長は低くなっている。確実に。

だから目も脳も異常はないと思う。断言はできないが。

昨日も別に特にいつもと違うことはなかった。

一体何が原因でこうなった?さっぱり分からない・・・


会社から帰ってくる途中で事故に巻き込まれるとか、そんなこともない。

じゃあ、寝ている間に心筋梗塞とか脳溢血で死んだのか?

でも、病死にしろ事故死にしろ転生したのであれば神様的な存在から説明があるのでは?

アニメでもラノベでもそういうシーンはあったはず。

少なくともアレとかアレではあった。

それに転生するなら異世界だろう?王道RPG的な剣と魔法の世界じゃないのか?

まさか、ここ、『異世界』なのか?


ニュースで見た限りでは俺の知っている2018年の日本だ。

もともと俺が住んでいた世界だと思う。

それともパラレルワールド的な感じか?

その場合でも俺の身体はオッサンのままじゃないのか?

精神だけパラレルワールドの俺に乗り移ったのか?

それが一番近い気がする。元の世界に戻れるのか?

と言うか、世界的には別に変わらないのか?俺の身体だけ変化したのか?


いかん、時間がない。もう出勤しないと。この身体だといつもよりも時間かかるだろう。

駅までいつもは5分だったが倍くらいかかりそうだ。

今日眠って明日目が覚めれば元に戻ってるかもしれないしな。

なるべく平静を装って一日をやり過ごそう。まずは遅刻しない。

肉体労働じゃなくてよかった。IT土方とは言われるけど、デスクワークだ。

この身体でもどうにかなるだろう。


甘かった。まさか電車に乗るだけでこれだけ辛いとは。

たった20分の乗車時間が何時間にも感じた。

普段からすると、それほど混んでいたわけではない。

座れはしないが割とすいている路線だ。

まさか吊革に手が届かないとは・・・意外な盲点だった。

そして掴まる場所が無いと、小さな揺れでもこの身体には危険な揺れだった。

かといって、手すりに掴まると必然的にドアの近くなので、乗り降りする人に流されてしまう。

一番前か一番後ろの車両だな。運転席側の壁にも手すりがある。

もしくは新型車両なら座席の真ん中にも手すりがある。

新型車両はいつ来るかわからないから、先頭か最後尾の車両が無難か?

電車通学している小学生とかどうしてるんだろう?

1年生なんかこの身体よりも小さいだろう?

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