作戦開始!

前回のあらすじ

・好きな男の子と一人ぼっち同盟を組んだ

・天江の魔法のおまじないの効き目は…?

・ラブレターの行方は…?

・魔法は存在しないのか…?


☆★☆★☆☆★★★☆☆☆☆☆☆★★★★★


「ごめんなさい、僕には好きな人がいるから寺下さんとは付き合えない。ごめん」


なぜか振られた。

そもそも、私まだ告白すらしていないのに。

あ、もしかして、そういうドッキリ?

なんだそうか、一人ぼっち同盟の会長である私をからかっているだけなんだね。

なんだ、可愛いやつめ。


「昨日、君からのラブレターを読んだんだ」


ん?

なにを言っているのかがわからない。

ストーリーがある系のドッキリですか?

そもそも、ラブレターは昨日書いたはいいものの、消えてなくなったのであって……。

そういえば、なんで消えたんだっけ?

あのときは、疲れているという理由をつけて目をそらしていたが……。


「とても君の愛情がつまった素晴らしいラブレターだったよ。後半にかけてのあの大好きラッシュには僕も心を揺さぶられたよ」


「ちょ、ちょっと、人のラブレターを勝手に評論しないでぇぇぇ」


「いや、言わせてくれ。僕はあんなに愛情をぶつけられたことがないから感動したんだ。手紙の半分以上が好きという言葉で埋め尽くされていて、「いやぁ、僕のこと好きすぎだろぉ」と思うくらいすごいラブレターだった」


「遠回しに私の語彙力がないことをバカにするのやめてぇぇぇ、ねぇ、私を殺したいのかな、宮元くんは」


「とにかく、僕のことをこんなに好きでいてくれてありがとう!」


「…………っ」


「でも、ごめなさい。僕には好きな人がいるから、君とは付き合えない!」


泣きそうだ。

恥ずかしさ頂点の状態で振られた。

まるで、小動物をいたぶってから殺す肉食獣のごとく、私は狩られてしまった。

もう、死にたい。誰か私を殺してくれ。


「ははは、帰っていいですか?」


灰になった私は家に帰って布団にくるまって、今日のことを忘れることを推奨します。


「待って! 寺下さん」


「な、なに?まだ私をいたぶる気なの?それともドッキリだった?そうか、わかった、私を殺すことが目的なんでしょ。一人ぼっち同盟に任命されたのが、よほど嫌だったから私を恨んでいるんでしょ!」


「別に寺下さんをいたぶる気なんかないよ。こういうのはスッパリ断ったほうがいいと思ったから、なるべく端的に振ったつもりなんだけど………」


「あぁ、振られたのはドッキリじゃないのか!そういうことね、じゃあ帰る」


「そんなことより、寺下さん!」


「私の恋をそんなことで済まされてしまった……」


「えっと、そのごめん……僕、こういうの初めてだから告白の断り方がよくわからなくて……いちおうネットで振り方を調べたんだけど」


ネットで調べたってあんた………。

それをいま言うかね。


「………はぁ、なんだかなぁ、百年の恋も一瞬で冷めたような、蛙化現象に直面した感覚だよ……なんか惨めだ。そして、宮元くんがここまでバカだとは思わなかった」


「ご、ごめん。寺下さん、そろそろ本題入ってもいいかな?」


「お、さては、こいつサイコパスだな」


「どうやって、僕にラブレターを送ったの?寺下さん」


「………そもそも、送ったつもりはないよ」


「でも、夕方くらいに僕の視界が急に謎の光に包まれて、気づいたらこの【寺下 くるみより♡】が僕の手元にあったんだ」


「ちょっ、なんで、それが!?」


宮元くんが持っていたのは、正真正銘わたしが昨日おばあちゃんの遺品である便箋に、彼への恋を綴ったものであった。


「僕ははじめてラブレターをもらったという嬉しい気持ちと、この超常現象に遭遇できた喜びでもう頭が混乱だよ!」


「私はさっき振られた衝撃と、そのラブレターが宮元くんに読まれたという恥ずかしさで死にそうだよ!」


とりあえず、これまでの出来事を整理すると……?


私がラブレターを書く

ラブレター消失し、宮元くんの手元にワープ

翌朝、宮元くんに盛大に振られる

私、死ぬ?


なんだこりゃ?

私の脳内では処理できない問題だ。

これは現実なのか、それとも夢なのか。

私は後者のほうに、1億円を賭けてみる。

頬をつねる、痛い。1億円、損しました。

意味がわからない………。


「私、意味ワカリマセン」


「大丈夫!?処理落ちしないで、寺下さん」


「……やっぱり、これは夢?」


「これは夢じゃないよ、現実だよ。僕が君を振ったのも事実だし、ラブレターが僕の手元にあるのも事実だよ」


「嫌よ、こんなの現実なんかじゃない!

だって最近、やっと追い風吹いてきたと思ったのに、また台風並みの向かい風が吹いてくるなんて………こんなの、理不尽よ!」


「それが人生なんだよ。人生山あり谷ありって言うじゃないか。だから、この事実に立ち向かおう!」


「なんか、宮元くんに言われるとムカつく。いま、宮元くんの一挙手一投足すべてに腹立つ。宮元くんの好感度、0%到達だよ!」


「そんなことより、このラブレターなんだけど……」


「おぉ、君、コミュ障なのかな?それかサイコパス?」


「なんで僕の手元にラブレターが届いたのか………」


「……それはわからないね」


「僕はだと思うんだ」


「いやいや、魔法って……。魔法は存在しないって偉い学者さんが言ってたじゃない」


「でも、魔法以外でこの現象をどう説明するの?」


「それは……説明できないけど」


「……僕、これで二回目なんだ……」


「……?」


「10年前僕は、はじめて魔法というものを見たんだ」


「魔法を見た?」


「10年前、僕はいじめられていた」


まぁ、こんなサイコパス、いじめられて当然だよな。


「でも、ある少女が僕を助けてくれたんだ。それも不思議な力で、いじめてた奴を吹き飛ばしてね」


「へぇー」


「それから、僕はその少女を好きになった。これが僕の初恋であり、魔法に出逢った瞬間なんだ」


「そういう、夢を見た?」


「いやいや、夢じゃないから」 


「大丈夫、大丈夫。いじめられていたのは本当だよね」


「いやいや、魔法使いの少女も現実だからね。というより、なんか喋り方になんかトゲがない?」


「………」


なんか、腹立つな。

その夢の中の少女に負けて、私は振られたのかと思うと、イライラしてくる。

そもそも、なんでこんな男を好きになったのだろうか?

恋は盲目というが、こんな男の性格も見抜けなかった私に腹立つ。

よくよく見ると、こいつの顔……。

中の中の上くらいのフツメンだな。


「もう、いいかな? 私帰っても」


「ま、待って、寺下さんっ!」


私は宮元くんの静止を振り切り、この場を走り去った。

この世には、王子様なんて存在しないし、魔法も存在しない!

私はそう強く思ったのであった。


★☆★☆★☆☆☆☆★★★★★★★☆☆☆


宮元くんに振られたその日、天江の家に足を運んだ。

なぜ天江の家に行ったのか、それはもちろん慰めてもらうため。


「また、嫌なことあったの?」


「うん」


天江に膝枕をしてもらい、私は溜飲を下げることに成功させる。

彼女の膝には不思議な力がある。

どんなに私が怒りや不安を抱えていても、彼女の膝に頭をうずめた途端にスッキリする。

天江の膝にこそ、魔法が宿っていると私は思う。


「落ち着いた?くるみ」


「うん、眠くなってきた。今日、ここに泊まる」


「えー、いきなりだなぁ、くるみは」


「ダメなの?」


「ダメじゃないけど、お母さんにくるみの分の夜ご飯頼まないと」


「いいよ、私、ごはんはどこかで食べてくるから」


「だめよ、お金は節約しなくちゃ。おばあちゃんの大事な遺産なんでしょ」


「う、うん……じゃあお言葉に甘えて」


☆★☆★☆★★★★★★★☆☆☆☆☆☆★


あっという間に、夜になった。

私と天江はとなり同士で、布団に入りガールズトークをしている。

そろそろ、眠気も襲ってきてウトウトと夢の世界に引かれそうになったとき、


「私、好きな人がいるの」


そう彼女は言った。


「え、天江に好きな人!?」


「そんなに驚くこと?」


「だって、天江って絶対男に興味ないと思ってたもの」


「えぇ、私ってそんなイメージだったの?これでも、思春期の恋する乙女なんだよ」


「まじか……ちなみに誰が好きなの?」


「どうしようかなぁ、くるみ口が軽いからすぐ言いふらしそうだからなぁ」


「そんなこと言わずに、お願い、教えてよぉ」


「もう、しょうがないなぁ。えっとね、同じクラスの男の子でね」


「うんうん」


「とても優しい男の子でね」


「うんうん」


「くるみの後ろの席のくんが私の好きな人!」


「うんうん………えっ」


いまなんて言った?

ちょっと、衝撃的なワードが飛び出してきましたよ。

宮元 実?

私の幼馴染みは宮元 実が好き?

あの私を完膚なきまでに振った、あの男の名前と一緒のようだけど、まさか違うよね。


「宮元実くんって、あの宮元実くん?」


「あの宮元実くんって、くるみの後ろの席の宮元実くんだよ。くるみもよく知ってるでしょ」 


「あ、あぁ、そうだね。そうだよね」


天江が、あの魔法サイコパス野郎のことが好きだと……。

どう考えても、おかしい。

天江みたいに巨乳美人が、中の中の上くらいのフツメンである宮元くんのことを好きになるはずがない……。


「宮元くんのことは、なんで好きになったの?」


「えぇ、それ聞いちゃうぅ?恥ずかしいなぁ」


ダメだ。これは恋は盲目状態に天江も陥っている。

このときの女の子は、好きな人のすべてが美化されて、嫌なところは蚊帳の外。

彼女は、宮元実マジックにどっぷりトリップしちゃってる。


「1年前ね、私が不良に絡まれてるときに、宮元くんが救ってくれたの」


宮元くんは正義感が強くて大胆な人間だから、不良から彼女を守ったという話しはきっと嘘ではないのであろう。

正義感以外の性格は最悪だけどね。


「それから、彼は私の王子様なの」


「そ、そうなんだぁ」


本当は宮元マジックから彼女も救ってあげたい。でも、いまの彼女に何を言っても聞いてはくれないであろう。

だって、私もつい最近までそうだったのだから。

だから、私は


「よし、私は天江の恋を応援するよ!」


「ほ、ほんと、くるみ!」


私にできることはただ一つ。

天江の恋を全力で応援する。

そして、あいつのサイコパス性格を叩き直し、最高の王子様を作る。

宮元くん調教作戦&天江の恋を応援作戦。

私はそれを同時並行で遂行することをここに誓うよ!

私は天江の柔らかい手をぎゅっと握り、


「私に任せて、天江!」


「う、うん!ありがと、やっぱり持つべきものは幼馴染みだね!」


「えへへ」


そこで、私の眠気は最高潮に達した。

私はそのまま、となりの天江の布団の中に入って、目をつむる。


明日から頑張ろう。


★☆★★☆☆☆☆☆★★★★★★☆☆☆☆


次の日、私は宮元くんを屋上に呼び出した。


「あんたは魔法の存在を信じているって言っていたよね」


「寺下さん、なんか怒ってる」


「はいか、いいえで答えて」


「は、はい」


「で、あんたはどうしたいの?」


「どうしたいの、とは?」


「昨日、魔法の話をわざわざ私の告白を遮ってまでしてきたということは、何かをしたいんだよね」


「う、うん、僕は魔法の存在を見つけたいと思っている。この世にはまだまだ色々な魔法が眠っていると思うんだ、だから僕は数少ない魔法の手がかりである、あのラブレターについてどういうしくみなのか調べたいと思っている!」


趣味のこととなると饒舌になるタイプの人間か、宮元くんは。

これは相当、調教が必要だな。


「わかった、それに協力する」


「ほ、ほんと!?」


「ただし、私の要望を飲んでくれたらの話だけど」


「要望?」


「霧達天江、彼女を知ってる?」


「うん、知ってるよ。クラスメイトだ」


「1年前、彼女を不良から救ったことは、覚えてる?」


「えっ、誰が?」


「あんたが救ったと彼女から聞いている」


「うーん、1年前かぁ。思い出せそうで、思い出せない」


「まぁ、いいや。天江はその一件から、あんたのことが好きらしくてさ」


「えっ、そうなの!でも、それは困る」


バコン!

人のことを殴るとこんな音がするのか。

私ははじめて、人を殴ったかもしれない。


「な、なんで、殴るんだ、寺下さん」


「あんたが人の気持ちを理解できない男だから」


「……っ!?」


「まずなんで殴られたかを知りたい?天江の恋を困るって言ったからだよ」


「いや、それは違うんだ。困るというのは、僕には好きな人がいるから困るって意味で」


「天江は本気であんたのことが好きなんだ、それでも困るって言える?」


「それは……言えない……」


よかった、こいつにも最低限の良心はあるようだ。本当のサイコパス野郎だったら、天江の恋を応援することができなかったであろう。

こいつは私が調教すれば天江に釣り合う男になるはずだ。


「別にあんたの恋を邪魔する気はないよ。あんたが10年前の少女を好きなのは本気だろうからね。でも、天江には最低限のマナーをもって接してほしいんだ」


「………」


「私の要望は、天江に夢を見させてほしいというものだ。天江の恋は100%実らないのはわかっているけど、彼女に最後まで良かったと思える恋をさせてあげたいんだ」


「………」


「だから、あんたをいまから調教する」


「えっ!?」


「あんたのそのねじ曲がった性格を叩き直してあげる。どんな手段を使ってでもね。そういうことで、よろしくね宮元くん」


「あ、悪魔だ………」


「じゃあ、さっそく魔法探しの旅にレッツゴーだよ!」


よし、これでまずは天江の恋を応援作戦の初期段階は成功かな。

あとは私の調教しだいだね!


「明日から調教スタートだから、気合いれてね宮元くん!」


ビシッと宮元くんに指をさし、かっこいいお姉さんポーズをとる。

今日の寺下くるみちゃんはちょっと違うよ。

いつもみたいに、おっちょこちょいな私とは違う。

私はカッコよくその場を去る。

なんてったって、私はカッコいいお姉さんなのだから。


だが、人というものはそう簡単に変れるはずもなく……。

屋上から下に降りる階段に足を踏み入れたとき、


私は階段から足を踏み外し、落ちた。


「だ、大丈夫?寺下さん、怪我はない?」


「だ、大丈夫だから、全然平気だから、あははは」


私は恥ずかしくて、逃げた。

なんか、宮元くんからいつも逃げている気がする。


★☆★☆★★★★☆☆☆☆☆☆★★★★★


「天江、まずは宮元くんに声をかけようよ」


「えぇー、急にハードル高いなぁ」


昼ごはんタイムのとき、私はさっそく天江の恋を応援作戦を開始することにした。


「そんな弱気じゃ、だめだよ。まずは好きな人に自分を認識させなくちゃ」


「う、うん、でも恥ずかしくて喋れないよ」


「わかったよ、私が宮元くんに話しかけるから天江も一緒についてきて」


「急だよ、くるみ。私はゆっくり恋を進めていきたいタイプなんだよぉ」


「そんなこと言ってたら、あっという間に卒業だよ」


「うぅー。でも、何を話せばいいのかな」


「そこは、私がなんとかするよ!」


彼女は恋愛に対しては、どうやらポンコツのようだ。

でも、彼女には最強の武器がある。

それは、男子生徒を虜にするあの魅惑の巨乳だ。

この武器さえあれば、宮元くんを魅了することができるかもしれない。


「宮元くん♡」


「な、なに、寺下さん」


ここから、作戦開始よ!

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くるみの冒険 一宮ちゃん! @oppai030939

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