第5話 高崎発小山・水戸・鹿島神宮・千葉・東京経由高崎行き

 一月第二週。土曜日。

 真冬の朝。日はまだ上がっておらず真っ暗。

 午前五時。高崎駅のコンコースを学生と親御さんが、改札を通ってゆき上野・東京方面の7番線8番線ホームへと向かってゆく。この日は、大学共通テストの初日だ。学生の顔は緊張と不安に満ちている。

 

 6番線ホームに5時25分発両毛線小山行きの電車が六両編成で入線。

 車内は自分を含めて三人だけ。膝下の暖房機から暖かい空気が出ている。

 地方都市間の列車は、乗車率の少ない駅が多く、通年を通じてドアの開閉は半自動になっている。特に、冬の季節はドアの開け閉めをしないと冷たい冷気が一気に車内に入り込む。

 高崎を定時発車。窓の外は暗く、ガラスに自分の姿がうっすら見える。

 暗闇の中を列車は走る。時折、マンションの通路灯や街灯の灯りが一定間隔が見える。新前橋の車両センターの留置線の照明が停めてある列車を照らしている。

 県都の前橋。銘仙の伊勢崎。停車するも乗車する人の数を少ない。岩宿を過ぎた頃、東の空が薄明るくなってきた。

 機織りの桐生。足利氏の足利と停車すると乗車する人が増え始めた。佐野・岩舟からも乗客が乗ってくる。窓の外の景色が見えてくる。畑には薄白く霜がついている。大平下で日が顔を出した。空には雲一つない快晴。7時12分小山駅の8番線ホームに着く。

 

 小山で水戸線に乗り換える。駅構内は通勤通学の時間帯ともあり、社会人と学生たちが足早にホームへと通じている階段・エスカレーターを降りてゆく。逆に旅行客は、新幹線の改札口を通って階段・エスカレーターを上ってゆく。

 水戸線の発着のりばの15番線ホームへ降りる。ホーム上には、二十人程が列車の到着を待っている。待っている間、冷たい風が吹き込む。皆、体を縮こませ、身震いし、口から白い息を吐く。


 7時33分発水戸行きの折り返し電車が到着。車両はE531系近郊型電車。五両編成。前面の行き先表示機には「ワンマン」の文字が表記されている。この列車にもドア横に開閉ボタンが取り付けある。

 車内に入り、発車時間まで待つ。

 駅と道路の間にあるフェンスの手前にある駐輪場には、続々と学生たちが自転車を停めて駅へと通じる階段を上ってゆく。

 7時33分小山を、定時に発つと列車は左へと進む。両窓からは住宅地が見える。

 水戸線は小山‐友部間の全長五十キロを結ぶ路線。全区間単線のローカル線である。また、電気の供給方式が直流電流ではなく交流電流となっている。

 紬の結城に停車すると学生たちが乗り込む。鬼怒川を渡りきり、川島・玉戸と停車。学生たち次から次へと乗ってくる。左窓から日光と那須連山の山々が見え、山頂付近は薄く雪化粧している。下館に着くと学生たちが一斉に降りた。その代わりに、今度は社会人が乗る込んでくる。ここ下館からは、第三セクター路線の真岡鉄道と関東鉄道常総線の乗り換え駅である。

 四分間停車。列車のすれ違い待ちをして下館を発つと、右窓から日に照らされた筑波山を眺める。徐々に田畑の割合多くなりはじめる。畑には収穫前の白菜が整然と五列横隊に並んでいる。家々の屋根に付いた霜が日に照らされたキラキラと輝かせている。新治にいはり・大和・岩瀬に停車。無人駅で、駅舎がこじんまりとしている。

 焼物と稲荷の笠間に着く。紙垂のつけたロープが柱と柱の間に取り付られている。ロータリーには笠間稲荷の看板が設置されている。

 筑波連山の加婆山を横目に走り抜けて、里に出ると山に沿うようにして家々が建ち並ぶ。友部から常磐線内を速度を上げて走る。水戸の手前、臨時駅の偕楽園を通過。北側には梅林。南側には千波湖が見える。8時55分水戸着。


 次は鹿島臨海鉄道大洗線。鹿島神宮行きまで約一時間程の接続待ちがあるので、駅周辺を散策することにした。

 駅北口に出て、なだらかな坂を上ると水戸城になる。徳川御三家のひとつ水戸徳川家の居城跡。徳川斉昭の名のもとに造られた弘道館と鹿嶋神社があり、梅の木が植えられている。残念ながら、花はまだ咲いておらず、つぼみであった。

 来た道を戻って水戸駅ビル内のファストフード店で少し遅めの朝食を食べて、改札口へ戻る。


 8番線ホームのベンチに座り時間を過ごす。先行の10時19分発大洗行きのディーゼルカーが発車時間までアイドリングして停車している。車体は赤を基調として黒と白の太い帯のカラーリングが施されている。だが、所々塗装が、浮いて剥がれ落ちて、地肌の鉄が顔を出している。

 発車時間になり、エンジンが唸り声をあげて水戸駅を出発していった。

 真後ろの7番線では、弓道の道具を担いだ学生たちが談笑しながら列車が来るのを待っている。10時27分発特急「ひたち8号」が到着すると彼らはぞろぞろと乗車していった。

 ホーム上が静かになった。


 10時48分発鹿島神宮行きのディーゼルカーが到着。車両は8000形。一両編成。

 乗客が降りて、一旦ドアを閉めて車掌が車内の安全確認と落とし物忘れ物の確認をする。確認が終わりドア開いてロングシートに座った。

 車掌が、乗客一人一人に下車する駅と料金徴収をはじめた。しかし、どこか車掌の動きと手つきがぎこちない。

 自分の処に来ると制服の上に「見習車掌」の札が付いていた。後ろの運転台に先輩車掌が見守るかのように待機している。

 発車時間が近づくにつれて、駆け足で乗車する人が目立つ。いつの間にか席はほぼほぼ埋まる。

 

 水戸を定時発車。常磐線と並行に走り続けて、右へとカーブを曲がり高架橋を上ってゆく。

 鹿島臨海鉄道大洗線は、水戸‐鹿島神宮間。全長五十三キロの単線。元々、国鉄時代に鹿島線の延伸工事として建設されていたが、国鉄の経営赤字と民営化によって事業・経営を地元自治体と鹿島臨海鉄道が引継いだ。

 高架橋を上ると単線で線路がほぼ一直線につづいている。窓の下は、作付けされていない水田地帯が広がり、水戸の市街地がだんだんと遠くになってゆく。

 車内を見習車掌が、せわしなく動き回って料金徴収している。

 東水戸・常澄つねずみに停車するも乗車下車する人は一人もいない。大洗に着くと大半の乗客が降りる。大洗で十分間停車。

 向かいの席に、水戸から乗った祖母とお孫さんの二人が座っていた。どうやら、お孫さんは鉄道が好きらしくコンテナのデザインをしたリュックサック。新幹線のカラーリングを模した靴を履いている。時折、運転台の前に行き、ポケットからスマホを取り出して動画や写真を撮ったしている。

 大洗は、太平洋に近く、苫小牧行きのフェリー乗り場と漁港があり新鮮な魚などが獲れる。また、海水浴場や水族館と観光地としても有名。近年では、アニメの聖地巡礼地して多くの人が訪れる。ホーム横の留置線にアニメキャラがラッピングされた車両が停まっている。

 十分間の停車後、大洗を出ると路線は、高架橋と切通にトンネルと目まぐるしく台地を走り抜ける。

 つぎの涸沼ひぬまに停車。駅の向こうに駅名の由来である涸沼を眺める。涸沼は淡水と海水が混ぜる汽水湖でシジミが獲れる。鹿島旭・徳宿は、メロンの栽培・収穫全国一の生産量の農業地帯。半透明や白色のビニールハウスが何棟もある。新鉾田で二人乗車する。駅近くのスーパーで買った食料品の入ったエコバックを、足元に置いた。

 北浦湖畔から左にカーブする。大洋・鹿島灘・鹿島大野に停車するが、ここも、誰一人と乗車下車しない。見習車掌がホームに降りて、安全確認と乗降者確認して手に握った電子ホイッスルを鳴らして戻ってくる。

 線路はひらすら真っ直ぐ。時速約九十キロ近い速度で走る。雑木林と農家の家が続く。長者ヶ浜潮騒はまなす公園前に停車。駅名の長さ日本一の駅で、近くに由来の「潮騒はまなす公園」がある。看板に記載されるひらがなよりもローマ字に目がいってしまう。

 

 鹿島神宮の手前、臨時駅鹿島サッカースタジアムを通過。左窓からサッカースタジアムを眺める。12時12分鹿島神宮駅1番線に到着。


 次の鹿島線は13時23分発。約一時間程列車待ちとなった。

 高架式の駅舎を出て、駅周辺の観光案内板を見る。「鹿島神宮まで徒歩約8分」とあり、鹿島神宮へ参拝することにした。

 駅前の長い登り坂を上り、左へ曲がると神宮への道に出た。道の両脇には、飲食店と土産物屋と個人経営の駐車場がある。鳥居の前は、正月詣りと七五三詣りの参拝者で往来がはげしい。

 鳥居をくぐると参拝客が本殿前に列をなしている。列に並び順番待ちした。待っていると本殿に「鳥居をくぐらならくても参拝できます」の看板が目にはいった。

 ここは看板の指示に従い、本殿の鳥居の横から参拝することにした。おそらく普段は賽銭箱とひとつだが、正月ということもあってか、仮設の賽銭箱が左右に設置されている。

 参拝をすませて、境内の案内板に「要石までの約450メートル」と表記されていた。往復約九百メートル。早歩きすれば、発車時間までには間に合う。

 境内と奥宮との境界を表す敷居から、早歩きをはじめた。参道は砂利ではなく砂地で足を取られない。両脇には、植樹奉納された樹木が大木となりそびえ立つ。奥宮の拝殿前には参拝する人たちが長蛇の列をなしていた。列には並ばず、拝殿前で最敬礼して後にした。

 奥宮のさらに奥に石の囲いと鳥居が見えてきた。「要石」と彫られた石灯篭。息が上がりながらも参拝する。

 再び、早歩きで元来た参道を戻り、社務所に立ち寄って、家族全員分の御守りを買い、鹿島神宮を後にした。

 

 発車時間二十分前。駅まで戻ってくると、ホームに乗車する佐原行きの電車が待機している。

 階段を駆け上がり、2番線ホームに停車している電車に乗れた。

 鹿島線佐原行き。車両はE131系の二両編成でワンマン。ボックス席に座った。窓の外を見ると空に雲が立ち込む。発車時間が近くなり駆け込む人が多く、空いている席はすべて埋まる。

 13時23分鹿島神宮駅を定時発車。

 鹿島線は、鹿島サッカースタジアム‐香取間の十七・四キロの短いローカル路線だが、沿線には鹿島臨海工業団地と鹿島神宮そしてサッカースタジアムと工業・観光スポーツにとって重要拠点への輸送路線である。

 駅を出て、しばらく走ると北浦に架かる鉄橋を渡る。左右窓一面に北浦の水面が広がる。高架橋の線路を走り、延方・潮来と停車。このあたりは、利根川下流域で水郷地帯である。特に潮来は、江戸時代、水運業でさかえ町中に水路が張り巡らす町。またアヤメ(花菖蒲)を観光の目玉として春から初夏にかけて人が訪れる。

 北利根川を渡り、十二橋に停まる。与田浦の一部を干拓させた場所に駅を造られた。周囲一帯、水田が広がる。

 利根川を渡りきると鹿島線の終点香取に着く。香取駅で列車のすれ違いの間に高校生たちが降りた。列車は成田線に入る。伊能忠敬の生家と小江戸の街である佐原に13時44分着。


 乗り継ぎで1番線ホームに向かい、接続する電車を待つ。ホーム上には、鹿島線からの乗客と改札を通ってきた人で約五十人程いる。駅舎の壁に駅職員が制作したであろうポスターが掲示されている。

 13時52分成田行きの六両編成の電車が着く。車両は209系通勤近郊型電車。車内はロングシート。

 佐原を定時に出る。佐原の郊外に進むにつれて、水田地帯が広がり遠くには利根川の堤防が北西から東の方へと続いている。下総台地に沿うよう走り続ける。大戸・下総神崎・滑河と停車。農家と水田の農村風景が広がり、のどかである。

 滑河を過ぎると台地と台地の間を縫うように進む。久住から新興住宅団地が増えはじめる。14時26分成田着。

 

 成田駅の5番線ホームに降りて、千葉方面行きの2番線ホームへ向かう。

 千葉行きの電車到着まで二十分ほどホームで待つ。冷たい風が吹き込む。空を見ると薄黒い雲が近づきつつある。待っている人の間から「雪が降る可能性がある」と口々に言う。

 空港に近いせいもあり、キャリーケースを持った人が多い。また、成田山新勝寺の最寄り駅でもあるので、新勝寺の家紋が印刷された紙袋を手に持っている。

 14時46分千葉行きの八両編成の電車が到着。ドアが開いて席に座ると車内は満員状態になった。

 酒々井・佐倉と停車。東京・千葉市の通勤圏内に入り、丘の上を都市開発し区画整理された住宅団地が建ち並ぶ。物井・四街道・都賀になると一軒家からマンションとアパートの集合住宅が増えてくる。15時17分千葉着。


 千葉駅の9番線から向かいの8番線に停車している横須賀・総武線快速に乗り継ぎ、東京に向かう。車両は、E271系の通勤電車十五両編成。

 15時26分千葉を定時発車。窓の外には、黒い雲が垂れ込む。稲毛・津田沼に停車。マンション・雑居ビル群の先に海浜幕張地区のタワーマンションが、摩天楼のように建つ。みぞれ混じりの雨が窓ガラスにつき、左下へと流れる。

 船橋・市川と停まり、江戸川を渡り、東京に入る。新小岩で満員電車になる。中川・荒川を渡りきる。背後の窓から東京スカイツリーがモヤに隠れていた。16時05分東京着。

 地下ホーム1番線に着き、階段・エスカレーターを上がる。

 コンコースは、人の流れが激しい。帰りの新幹線の自由席券を購入するため新幹線の発券売り場へ向かいたいが、コンコース内のみやげもの売り場で買い物をする人達に行く手を阻まれる。

 どうにか、発券売り場に着き高崎までの自由席券を購入。新幹線改札口を通り、20番線ホームへつづく階段を上る。

 16時25分発北陸新幹線「はくたか571号」金沢行きが発車待ちしていた。自由席車の車内は、空席が目立つ。

 定時に東京を出発。上野東京ライン・山の手線・中央線の線路を横目に加速しながら通過してゆく。

 夕方四時だが、空一面を雲が覆われている。大宮を発ってしばらくすると田畑や家の屋根に雪が、降ったらしく辺りが薄白くなっている。熊谷を通過するころには、雨に変わる。17時09分高崎着。

 辺りは、日が落ちてうす暗くなっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る