第4話 高崎発河口湖・甲府・東京経由高崎行き

 今回の一周日帰りは、急な変更となってしまった。

 当初の予定は、八高線‐中央本線‐小海線‐しなの鉄道‐北陸新幹線の一周することを計画に立てていた。

 だか、日帰り旅の一週間前のこと。仕事から帰ってきて、遅い夕飯を摂っている時、居間でテレビを視ていた母親から日帰り旅の行き先を聞かれた。

「あんた、来週、電車でどこへいくの?」

「八高線で八王子まで行って、そこから中央本線に乗り換えて小淵沢。小淵沢で小海線に乗って小諸。小諸からしなの鉄道で軽井沢。軽井沢から新幹線で戻ってくる」

素直に、旅の工程を言う。

「小淵沢・・・山梨・・・?」

考える母親。

「山梨に行くの」

別室から来た妹が、会話に入る。

「山梨に行くなら、信玄餅買ってきて、シャインマスカットでもいいから」

山梨のお土産を要望してきた。すると、さっきまで考えていた母親が、その会話にのってきた。

「じゃあさぁ、富士山羊羹買ってきて」

 二人とも、冗談混じりの本音で言われた。

 仮に計画をこのまま実行すれば、陰口を言う可能性がある。

 翌日から、仕事の合間を縫い、ルートの変更と時刻表で乗り継ぎを確認を行い、山梨県内を折り返す、日帰り旅となった。


 9月最終週。土曜日。天候曇り。相変わらず天気に恵まれていない。

 八高線の一番列車。5時28分発高麗川行きが、3番線ホームに入線待機。高崎駅の3番線ホームは、八高線専用ホームで東京寄りにあり、2番線と4番線の島式ホームの突端にある。車両はキハ110形ディーゼルカーが二両編成。

 定刻になり、自分を含めて四人を乗せた列車は高崎を出発。エンジン回転数を上げながらホームを離れて、高崎線内を走る。八高線は、倉賀野‐八王子間の九十二キロを結ぶ路線。高崎から高麗川間は関東圏内で非電化区間最長のローカル線でもある。左窓から高崎電車区と機関区を、横目に通過しつづける。まだ、家々は眠りつき、街灯の明かりが一定間隔についている。

 倉賀野を発つと、烏川の橋梁を渡り、新町の手前から速度を落として八高線内へと分岐する。線内は全区間が単線であるため、主要な駅ですれ違いを行う。北藤岡・群馬藤岡と停車。沿線の田んぼの稲は、徐々に黄金色になりつつ、収穫の時期が近い。保育園か幼稚園では、建物の屋上から運動場の防球ネットの柱の間に万国旗がのびて、運動会の準備が完了している。左に大きくカーブして神流川の橋梁を渡り埼玉県に入る。

 埼玉で最初の駅。丹荘は、関東平野と関東山地の真ん中にあり、周辺は畑と田んぼが広がる。山の稜線に沿うように、住宅地が建ち並ぶ。児玉から乗客が増え、田んぼの中を颯爽と走りつづけると、徐々に登り坂に差し掛かり関東山地の山の中へと進む。松久・用土と停車。里と山の間がつづき、人家は少なくなる。小高い崖の上に工場が見える。

 6時10分寄居着。列車のすれ違いのため数分間停車。寄居は、秩父鉄道と東武東上線が接続する埼玉北西部のターミナル駅で長大なホームが三本。一番奥のホームに東上線の車両が停車している。

 寄居を発ち、秩父鉄道のアンダーパスを下り、荒川の橋梁を渡る。渡りきると、すぐに、上り坂なり、エンジンを唸らせ上ってゆく。折原・竹沢と山間を縫うように抜けて、小川町に停車。

 小川町につくと東武東上線から乗り継ぎ客が乗車し、席が満席になる。再び山へと進み、明覚みょうかくまで上りきると、なだらかな下り坂になり、人里に出る。人家の数が増えはじめ、アパートやマンションといった集合住宅の団地が見える。越生・毛呂で、さらに乗客をのせて終点高麗川に6時50分着。


 2番線から、目の前の3番線で接続待ちする。通勤通学の時間帯になり、休日出勤や土曜授業に登校する生徒たちとホームにいる人の数は多い。

 高麗川‐八王子間は電化区間になり、それまでのローカル線から都会の路線に様変わりした。7時02分八王子行きが川越線から入線。車両はE231系の四両編成。車内はすでに満員に近い状態。

 高麗川を定時発車。列車は、平野と山地の端を縫うよう走る。東飯能・金子と山を切り開いたニュータウンの住宅団地が広がる。左右の窓からは、大型の生活関連施設が見えてきて、いよいよ東京に入る。

 東福生で、左窓から在日米軍の横田基地を横目に通過。拝島の手前で青海線・五日市線の線路と車両が合流。駅に着き、ホーム側のドア開くと、一気に人が乗り込みすし詰めとなる。多摩川橋梁を渡り、小宮・北八王子と停車し、終点八王子に7時45分着。


 八王子からは、「あずさ3号・富士回遊3号」に乗り、河口湖へ。そのためには、特急券が必要のため、一度改札を出て、コンコースに隣接するみどりの窓口へ向った。構内は人の往来が激しい。往来を抜けて、みどりの窓口に入り、カウンター越しの駅員に発券と購入をお願いする。すると駅員から説明があった。

「あずさ・富士回遊は全車指定席となっております。現在、席はすべて埋まっており、立ち席のみの販売となります。9時台の列車であれば、席に座れますが」

と丁寧な口調で言われた。

「わかりました。立ち席でも大丈夫です」

と駅員に返答して、特急券(立ち席)を購入。完全な下調べ不足だ。ちなみに料金は特急券と同額である。

 購入後、駅構内の狭小コンビニで朝食用のパンと飲み物を買い、改札を通り、大月・松本方面のホームへ向かう。ホーム内は、通勤通学・旅行客とでごった返している。


 8時02分「あずさ3号・富士回遊3号」が入線。流れる窓に目をこらすと、席はすべて満席である。車両は、比較的新しいE353系十二両編成。最後尾車両のデッキから乗る。八王子を定刻発車。列車は八王子市内をどんどん加速し、関東平野西部の端から甲州路へ進む。高尾を通過すると上り勾配のある坂を蛇のように左右に上ってゆく。右ドアのガラス越しから中央道の橋脚が見える。小仏トンネルを抜けると相模湖と湖畔に隣接するように建てられた住宅地が左ドアから見える。やはり、東京に近いこともあり、ベットタウンエリアと感じる。上野原を通過し、甲州街道と並行しながら、8時30分大月に着く。

 大月で、前より9両は甲府・松本方面へ後ろ3両は河口湖方面と列車の切り離し作業が行われる。また、河口湖行きは、私鉄の富士急行なるので、鉄道業務の引継ぎも行われる。10分間停車し8時40分大月出発。

 富士急行は、大月‐河口湖までの全長二十六キロの私鉄路線。富士登山・信仰と沿線利用客の目的として、大正十五年に開業。

 大月を発つと、すぐ左に大きく曲がる。床下から鉄輪とレールが擦れる音が聞こえる。線内は、ゆっくりと速度をおとして走る。並行している県道を走る車に追い抜かれてゆく。田野倉を通過すると、超電導リニアの実験線の高架橋と山の中腹を拓いた実験施設と資料館が見える。あと四年後にリニア中央新幹線として、品川‐名古屋間が開業する予定。その時、ここはどう発展するのか。

 山と山の谷間を、走り続け富士山駅に着く。元の名は、富士吉田だった。

 富士山でスイッチバックを行う。ドアガラスに雨粒がつき始め、小雨になった。あいにく傘はもってきていない。テーマパークを横目に通り過ぎり、9時26分終点河口湖着。


 ホームに降り立つや、ホームから駅舎まで訪日観光客でいっぱい。皆、大きなキャリーケースをひきずり、背中には登山リュックサックを背負っている。駅舎内は、日本語は一切聞こえず、英語・中国語・その他の言語は四方八方が聞こえる。

 駅舎を出て、駅前ロータリーのバス発着場へ行き、甲府行きの時刻を確認すると10時18分の甲府駅行きがあった。時間的に余裕がうまれたので、頼まれていたお土産を買うことにした。

 駅舎横の物産売り場へ向かう。売り場内は、海外向けの土産物が多く、富士山を模したグラス・工芸品が陳列されている。妹に頼まれた信玄餅は買えたが、母親の頼んだ富士山羊羹は見つからなかった。レジで会計を済ませて、すぐ隣の宅配便の受付に行き、土産物を発送した。

 バス発着場へ戻り、甲府駅行きの乗り場に備え付けのベンチで、バスが来るのを待つ。待っている間も駅から出てくる訪日観光客の行き来は止まらず、東京方面あるいは御殿場方面の発着場でバスを待っている。先入観だが、列に並ばずマナーを守らないイメージがあったが、礼儀正しく列をつくっていたことには感心した。


 10時18分甲府駅行きのバスが到着。中型の路線バス。運転席左側の端の座席に座り、備え付けのシートベルトを着けて発車時間を待つ。

 定刻になり、河口湖駅を出発。駅前のメインストリートをゆっくりと走る。車窓から見える商店は、国際色を意識して英語表記の看板や関税免除の店舗が建ち並ぶ。また、宗教的観点から一部の食材が飲食不可の観光客に配慮した飲食店と、こうした対応が多くの人々を引き寄せてリピータを増やしていることを実感した。

 河口湖湖畔に出て、湖畔に面する旅館街を通過する。左窓から富士山が眺められると思っていたが、四合目から上には厚い雲に覆われて見れずじまいだ。山の方へとバスは進み、閑静な住居エリアが見える。

 国道137号に入り、幾重にも連なるカーブを曲がりながら、山道を上る。山の木々は、まだ色づておらず、葉は青々としている。新御坂トンネルを抜けて、甲府盆地に入る。盆地内入るやいなや、天気が一変して晴れになる。先ほどまでの小雨のせいか、盆地の北側の山々は霞んで見える。国道沿いにブドウ農家直営の販売所が、等間隔に並び、県外ナンバーの車が駐車している。笛吹川を渡り、バス正面に甲府駅の駅ビルが見える。左右は行政機関とオフィスビルが建ち並ぶ。11時45分甲府駅に着く。

 

 バスから降りると、戦国武将武田信玄の銅像が鎮座。甲府は、夏場になると猛暑により最高気温を記録することで有名であるが、この日はそこまで暑くない。

 駅ビルに入り、東京方面の時刻を確認するため、電光表示板を見に行く。

 次の東京方面行きの列車は、13時16分「あずさ26号」新宿行き。

 これに決めて、みどりの窓口に入り、カウンターの駅員に新宿までの特急券の発券をお願いする。駅員は、自席の横に設置されている発券機を手際よくタッチ入力して、ものの一分で発券してもらえた。

 約一時間程の余裕もあり、昼食をしようと駅ビルの外に出た。山梨ときたら、「ほうとう」だと駅周辺を歩くも、大手チェーン店しかない。ならば、駅ビル内にあると思い、飲食店のあるフロアへ向かうと一軒「ほうとう」を販売している店があった。しかし、店の入り口に満席の札が掲げてある。なくなく、諦めてコンビニのパンと考えていたら、隣の店で甲州牛のカレーに目が止まる。甲州牛の単語に、ひかれて入店し、注文した。七月の長野・新潟の昼食は、コンビニで買ったパンと質素だったが、今回な豪華な昼食となった。

 昼食を済ませて、コンコース階へ降りて、改札口を通り、2番線ホームへ向かった。

  

 13時15分「あずさ26号」が入線。指定してもらった座席に座る。一分間程停車して、定刻に甲府を発つ。列車は盆地の北側を進む。左右の窓からブドウやモモの果樹園が目に付く。石和温泉・春日居町・山梨市と通過。青海街道の入り口である塩山に差し掛かると、山の斜面一帯がブドウ畑になっている。勝沼ぶどう郷を通り過ぎると盆地の斜面を駆け上がるように列車は上がってゆく。甲府盆地を離れ、新大日影トンネルに入る。全長一三六八メートルある。平成九年に旧大日影・深沢両トンネルから機能を移した。

 トンネルを抜けて甲斐大和を過ぎる。駅のコンクリート壁に「甲斐武田家 終焉の地」とかかれた看板が設置されていた。

 新笹子トンネルに入る。全長四九七〇メートルあり、昭和六年に開通した上越線の清水トンネルまで日本一だった。

 トンネルを抜けて、笹子・初狩を通過。駅近くにスイッチバックの遺構が見える。開業当時の中央本線の山岳路線区間で重宝されていたが、複線化や高出力な電気機関車の導入で廃止になった。現在、初狩のスイッチバックは破砕輸送用として使用されている。

 大月を過ぎる。朝の時には気付かなかったが、大月から相模湖の間は河岸段丘になっている。段丘の狭い土地に、田畑と家々からなる集落が形成される。田んぼに目をやると夫婦と地域住人たちが稲刈りの作業にいそしんでいた。

 八王子まで来ると、多摩丘陵の上に建つ住宅群とわずかに残された山林。都会にな戻ってきた。豊田・日野を過ぎ、多摩川を渡る。立川から新宿まで一直線の線区になり、西国分寺から住宅団から雑居ビルや高層マンションへと建築物が代わる。

 新宿の五つ手前の阿佐ヶ谷で、ドア下の電光表示板に「湘南新宿ライン 車両トラブル遅延」の文字が表記された。遅延になれば、必然的に高崎・宇都宮・上野東京ラインも遅延なること意味する。新宿からの乗り換えはやめて、東京駅まで向かい新幹線で高崎に戻ることに決めた。

 高円寺を過ぎ、窓の向こうに副都心のビル群が見えてきた。14時40分新宿着。


 新宿駅の乗り換え通路内は、週末ともあり人でいっぱい。なるべく、早めに東京駅へ向かう列車を探す。各番線の入り口にある時刻表示板に、目をこらし、中央特快のホームへ向かう。

 14時49分発。中央特快に乗り換える。オレンジと黒のラインがのびる通勤電車。車内の席はほとんど埋まり、立ち客も多い。わずかにあいているつり革に手をかけてられた。各停の中央・総武線の電車を横目に千駄ヶ谷・信濃町を通り過ぎる。市ヶ谷でビルとビルの間から防衛相の通信アンテナが見えた。飯田橋から御茶ノ水まで江戸城の外堀の内側と神田川を沿って走行する。15時03分東京着。

 

 ホームへ降りて、新幹線の自由席券を購入するため、改札を出て、券売機場へ向かうが、夕方目前ともあり、券売機前に長い列が蛇腹になっている。列に並んで券の購入待ちしている間、改札の向こうにある、列車の発車時刻を報せる掲示板を見ていると15時40分発上越新幹線と15時52分発北陸新幹線が東京駅を発車してゆく。

 列は前々と進み、ようやく自分の番になった。急いで、高崎までの自由席券を買い、新幹線の改札口を通り、22番線ホームへ向かう。

 ホームには、車内清掃を終えた上越新幹線「とき331号」が待機していた。ドア付近には、乗車待ちの列ができており、これに並んだ。

 自由車のドアが開き、席に座る。

 16時16分定時発車。八重洲・日本橋のオフィスビル群を抜けて、秋葉原から地下に入る。上野の地下を出ると、赤羽・大宮の街並みが夕日に染まる。秋も四時半になると日の沈む時間が早く、西日も強くなり、マンションやビルの壁を赤く染めていた。17時11分高崎着。

 駅を出ると日は落ちかけて東の空は薄暗くなっている。

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