side ???

 許せない。

 許さない。

 許さない。

 許せない。

 辛い。苦しい。息もできない。


 女の子と合っていた。

 一緒に登校をしていた。

 告白をされていた。


 そしてキスをしていた。


 どろりとしたものが渦巻いている。

 止められない。

 どろどろと流れ出す感情は必死でせき止めていたものを飲み込み、今にも外にあふれ出そうとしている。


 辛い。苦しい。息もできない。


 どうして?

 お兄ちゃんは言った。

 私が一番好きだと言った。


 お兄ちゃんは嘘をつかない。

 お兄ちゃんは格好いい。

 お兄ちゃんは優しい。

 お兄ちゃんは強い。

 お兄ちゃんは頭がいい。

 お兄ちゃんは素敵。

 お兄ちゃんは万能。


 なのに、お兄ちゃんは……なんで私の傍にいないんだろう?


 いやだ。いやだ。いやだ。

 だめだ。だめだ。だめだ。


 叫びたい。逃げ出したい。笑い出したい。壁に頭を打ち付けたい。

 なんでだろう。


 何がいけないのかな。

 誰がいけないのかな。

 気付けばぶつぶつと呟いている。


 聞きたくない。見たくない。知りたくない。生かしたくない。

 どうすればいいかな。

 何をすればいいのかな。

 誰をどうすればいいのかな。

 誰に何をすればいいのかな。

 

 お兄ちゃんに嫌われたくない。

 でもそれ以上にお兄ちゃんを取られたくない。

 お兄ちゃんがいないと生きていけない。

 お兄ちゃんがいなくなるなら生きている意味が無い。

 

 グサグサとぬいぐるみを切り刻む。

 こうしていると落ち着く。

 最近はお兄ちゃんがいない時はいつもこれをしている。

 押し入れから見つけたクマの人形は、かろうじて原型を保ってるだけになっているけど。

 これをしないと落ち着かない。


 もうすぐお兄ちゃんが帰ってくる。

 グサグサ。

 落ち着かない。

 落ち着けない。

 そうだ、いいことを考えた。

 グサグサ。

 

 頼んでみよう。

 お兄ちゃんは私のだから取らないでくださいって。

 お願いしてみよう。

 きっとわかってくれる。


 だって私にはお兄ちゃんしかいない。

 お兄ちゃんがいないと生きていけない。

 だからわかってくれる。

 きっとわかってくれる。


 そうと決まればすぐに行こう。

 もうすぐお兄ちゃんが帰ってくる。

 だから早く行かないといけない。


 どっちから行こう。

 やっぱりキスをしていた人だろうか。

 それとも告白をしていた人だろうか。

 

 迷う。

 わからない。

 まあいいや。

 どうせどっちも行くんだから。


 頭を下げてお願いしよう。

 きっとわかってくれる。

 お兄ちゃんは私のことが一番好きだって言ってくれた。

 

 住所はわかる。

 キスの人はお兄ちゃんと同じクラスだから連絡網が冷蔵庫に張ってあるし、告白の人は一度家まで行ったことがある。


 笑いが出る。

 なんだか楽しくなってきた。

 うん、大丈夫。

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