#3「プロローグ3」
「うん?」
俺は最初に聞けなかった疑問をぶつける。
「なんで飛び降りようと思ったんだよ?」
俺は今までのこの短いやりとりで知ってしまった。
彼女はさっき、笑った。
声をかけた直後のあのゴミでも見るかのような熱を帯びていないあの瞳。
でも徐々にその瞳に陰りはなくなっていた。
それなら……
「うーん、そうだなぁ——」
彼女は思案する素振りを見せつけてくる。
その実答えなんて最初からあるだろうに。
「単にね、面倒くさくなったからだよ」
また振り出しに戻る。
あぁ、戻っちまった。
声をかけた時の最初の顔に。
「ここへ来る最中に思っちゃってさ。この学校に入ることができたとして、じゃあその後自分はなにをするんだろって」
そりゃ勉強だろ。
そんな陳腐なツッコミでさえ口にすることができなかった。
勢いよく身を翻す少女。両手を大きく広げ今度は遠くの灰色に染まった空を見上げる。
何かの演目か一人芝居か。
誰かに語り、聞かせようとしているのか或いはただの独白か。
それらを判断などできないほどに俺は目を奪われる。
「入学できたとして、じゃあわたしは何がしたいんだろうなって」
「それで卒業して彼氏作って結婚して子供産んで離婚して再婚して」
「なんかつまんないな~って」
「なんの目的も目標も、敷かれたレールすらない人生」
淀みなく淡々と紡がれるその言葉は果たしてどこへ行くのか。
俺は宙を舞ったそれに少しだけ心の目を背けた。
「だったら死んでみるのもありかなって」
誰だって思う疑問。
でも世の中案外そうじゃないのかもしれないという猜疑。
「試験中にそんなこと考えて、気づいたらここにいた」
「……本当にそれだけか?」
「そうだよ」
あっさりと即答された。
「そうか」
“今”はまだ聞かないでおくことにしよう。
「それじゃあやりたいことはないのか?」
これは愚問。
馬鹿はどっちだ、人の話はよく聞いておけ。
「……うん。ないかな」
少しの間を置いた後、彼女は俺の中身のないはずの質問に答える。
「じゃあさ——」
俺はなんでこんな事を言ったんだろうか。
可哀そうで放っておけないから? いたいけに見えるから? 人様の役に立ちたいから?
ふざけんな。
そんな殊勝な理由なんかじゃないのは分かってる。
俺はもう惹かれていた。
同時に自分の中にある昏いものがどんどんと体の外へ押し出されていく。
「俺が手伝ってやるよ」
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