#2「プロローグ2」

「…………」


 突拍子もない言葉にただ黙ることしかできなかった。


「あぁちょっと違うかな。飛び降りようとしてた」


 いたな、本当に。命を絶とうとしていた後輩の卵が。


「でも、センパイが来たせいでなんかタイミング逃しちゃった」


 自分の頭に拳を当てて「えへっ」とわざとらしく嗤う。


「……そうか」

「も~また?」

「センパイって冷たいんだね。これから後輩になるかもしれない女の子相手にそれだけって」

「ここから飛び降りたら少なくとも俺の後輩にはなれそうにないけどな」

「それもそうだね」


 彼女の口調は至って普通。


 冷静に自分の人生を終わらせることをその口唇から淡々と放つだけ。


 事が事だけにもう少し冷静さを欠いているものだと思っていたんだが。


 まさか自殺現場に居合わせちゃうとはな……まだ未遂だけど。


「止めないんだ?」

「止めてほしいのか?」


 俺もその冷静さを見習ってみることにした。


「うーんどうだろ。仮にこれが成功したとして困るのはセンパイだと思うよ?」

「なんでだよ」


 俺は手すりから手を離し今度は背中を預ける。


 対称的に彼女はそのまま。視線は冷たく固いコンクリに向けている。


「現場の目撃者として証言を求められたり、ワンチャン他殺も視野に入って目撃証人として犯人識別のために協力しなくちゃいけなかったり」

「もしかしたらセンパイがその犯人に仕立て上げられちゃうかもね~」

「アホか。警察舐めんな」


 少女はおもむろに振り返ってしゃがみこみ屋上の床を眺める。


 なにやってんだ……?


「よし! じゃあここにダイイングメッセージを書いちゃおう!」

「おい」


 すると制服の懐からおもむろに赤いマジックペンを取り出す。


「センパイ名前なんて言うの?」


 下から覗き込むようにして俺の名を尋ねてくる。


「……飛鳥あすか白河しらかわ飛鳥あすかだ」

「飛鳥……なんか女の子みたいな名前だね」


 うるせぇ、割と気にしてるんだからそんなとにストレート投げ込んでくるな。


「おっけー。じゃあ、あーちゃんって呼ぶね」

「名前聞いた意味は!? 原型ほとんど残ってねーぞ!?」


 聞く耳を持つ様子もない少女は手に持ったペンでキュッキュッと音を立てながら真っ赤な文字を床に連ねていく。


 なんでこんな形で自己紹介をしなければならないのか。


「えーっと……」

「わたしはコロされました、犯人はあーちゃんです、助けてください、っと」

「お前やっぱり馬鹿だろ」


 書き終えた彼女は何故か自信満々に顔をドヤらせている。


 一応、うちってちゃんとした進学校なんだけどな……。


「それ水性?」

「え、油性だけど」


 校長、こいつもう不合格でいいです。


「あははっ。うそうそ、ちゃんと消えるやつだよ」


 少女は悪びれることもなさそうな様子で訂正をする。


 そして立ち上がると足の裏で自分の書いたダイイングメッセージを綺麗に消していった。


「なんでさ……」


 そうだ、まだ聞いていなかった。

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