第2話:初めての冒険配信




「今日、カメラマンとして同行します日比谷小豆です。 よろしくお願いします」


 ギルドのカフェスペースに向かうと、すでに三人の男女が待っていた。


「あれ? 知り合いのプロに頼むって話じゃないの?」

「こら、日奈ひな。 人を見た目で判断するな」

「確かに同い年くらいに見えますね?」

りんも……全く、初めまして」


 人の良さそうな青年は立ち上がり、愛想の良い笑みを浮かべて手を差し出した。


「俺はこのパーティで一応リーダーを務めている春斗はると。 今日からよろしくお願いします」

「こちらこそ――その前にお話が……」

「ああ、それについて俺から言わせてもらうよ」


 僕が臨時であるなどの話が伝わっていなさそうなので、友人から説明してもらった。 すると春斗は申し訳なさそうに、他女子二人は納得の表情を浮かべた。


「それは急で申し訳ない。 でも動画のランキング的に日程をずらすわけにはいかないんだ。 これからバズるかどうかがかかってる」

「そうでしたか。 なるほど、詳しくはないですけどなんとなく理解しました」

「本当にありがとう」


 ダンジョン配信にはランキングが存在する。

 それは日間から週間、月間などで順位が表示されたり、冒険者の等級数などによっても別れている。


 そのランキングは評価や投げ銭、新規登録数などによって少しずつ上がっていく。

 そして上位者は配信アプリの目の付きやすい位置に表示されるので、固定ファンの少ない配信初心者は必死でランキングを上げることを目指す。


 彼らの動画を見たことはないが、現状ランキングが順調に上がってきているのだろう。 そして今日の中ボス戦を配信することによって、さらに上を目指そうというわけだ。


「その代わり報酬は期待してますよ」

「いいわよ。 その代わり私たちの晴れ舞台、しっかり配信してよね」

「頑張ります」


 ある程度打ち解けた僕らは、その足でダンジョンへ向かった。





 ダンジョンの一階層、ここは基本的にモンスターがいない。

 その代わり冒険者ギルドの出張所と、祭りの出店のごとく冒険者に必要な物資を販売する露店が並んでいる。


 そして中央には転移クリスタル――冒険者カードに記録したクリスタルへ移動できる――があり、配信する場合はここで導入部分を撮影していく。


「お前仮免なんて良く持ってたなあ。 実はカメラマン志望だった?」


 友人の問いに僕は首を横に振った。


 ダンジョンに入るためには身分証の提示、冒険者カードが必要だ。

 危険な場所に一般人が入らないための措置だ。 しかしカメラマンのように戦闘を主に行わない者は、非戦闘員入場許可証という免許を手に入れることでダンジョンへの出入りが可能――その場合は戦闘員の随員が必須――となるのだ。


「いやこれは前にツアー言った時のやつ」

「ああ、前に流行ったよな。 安全な冒険をあなたに、とかいうCMの!」

「うん、事故が起こって廃れたけどね」


 冒険者に付き添われダンジョンを観光するというツアーに参加した時に、僕は許可証――通称仮免――を取得した。 取得は簡単なダンジョンに関する問題だったので、少し勉強すれば誰でも取れる。


「全ての出来事に意味のないことはないのじゃよ……」

「ぷ、誰ですかそれ?」

「キメ仙人でしょ?」

「おー! 日比谷くん、君もしやなかなか詳しいね?」

「ええ、まあそれなりに」


 キメ仙人とはダンジョン配信界隈では知る人ぞ知るおじいちゃん冒険者だ。 モンスターを刀で切り捨てるたびに、意味深なキメ台詞を吐くというスタイルだがいかんせん低層が主な活動場となっているため、世間にはあまり知られていない。


 しかしキメ仙人は冒険者に詳しいか、そうでないかを見極め同士を見つける丁度良いラインとして、ネットなどでは時々名前が出されている。


「はいはい、お喋りはそれくらいにして!」


 リーダーの号令で僕たちは心なしに整列した。


「よし、じゃあ始めようか」

「はーい、じゃ。 オープニングいきまーす」


――3


――2


――1


「こんにちは! 今日は中ボスに挑んで――」


 クリスタルに触れると、一瞬で景色が変わる。


 僕は慌てて、目の前に鎮座する禍々しい黒い扉をカメラで捉えた。


「ここが先日、俺たちが見つけたボス部屋。 黒なんて珍しいよね」


 ボス部屋につながる扉の色は様々だ。 しかしそれはモンスターの脅威を表しているのか、はたまた属性なのか、それともランダムなのか、諸説あるが未だに不明とされている。


 ただよくある色、珍しい色なんてものはあって、珍しい色は勝利時の報酬が旨いなんて噂は聞いたことがあった。


「さてどんなモンスターが出るのか、お宝は何なのか――さっそく暴いていくよ!」


 リーダーの言葉と共に、友人と女子二人がかりで黒の扉が開かれていく。


 そして僕たちは扉の先、暗闇へと足を踏みいれた。


――キィィィィィッ、ダンッ


「扉が?!」

「嘘??! なんで?!」


 扉がしまった風圧で体が前に押し出された。


 メンバーの錯乱した声がして、すぐに明かりが灯った。


「なんだよ……これ」


 目の前にはぼろきれを纏った骸骨が、空虚な瞳でこちらを見つめていた。


――かたかたかた


 骸骨が笑うように揺れながら杖を振るうと、黒いエフェクトと共にこの世の者ならざるものがうぞうぞと現れ、うごめくのであった。





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