通常時攻撃力ゼロのデバフを背負った才無し冒険者オタク、配信カメラマンとなって密着配信始めます~感情が憤怒に染まったらデバフ解除で無双~

すー

第1話:デバフスキル「憤怒の大罪」は才能無し





 僕が物心つく頃には、ダンジョンというものが存在していた。


 己の腕一本でモンスターと戦い、仲間と泣き笑いながら誰も見たことのない景色を見る。 そして大金を稼いで億万長者になる、そんな夢物語は若者であれば一度は描くストーリーである。


 かくいう僕もその一人、だった。


「デバフ?」

「そう君には珍しいバッドステータスが、制限が掛けられている」


 学校で身体測定と共に、希望者のみで行われたステータス鑑定にて僕は現実を突きつけられた。


「憤怒の大罪――これは通常攻撃力がゼロになる。 ただし怒りに感情が染まった時、力は増す――そんなスキルさ」

「ということは……?」

「君は冒険者になりたいんだったか」

「はい、そうです」


 鑑定してくれたギルドの職員さんは引きつった笑みを浮かべて言った。


「君は怒りっぽい?」

「いいえ、全く」

「うん、だよね。 話しててそんな気はしたよ。 なんかいい子そうだもんね」


――非情に言いずらいが、


――君には冒険者の才能がない


――他の道を探すことを強く勧めるよ


――ごめんね


 こうして僕の夢物語は終わりましたとさ――


「なんてね。 簡単に諦められないよ」


 僕は才無し通告を受けた中一の夏から、中三の夏まで青春の全て、生活の全てを捧げ己を鍛え上げ夢を追いかけた。


 そして都合よく近所の河川敷にできた未発見ダンジョンで僕は日々、練習をしていた。


「う、うおおおおおお!」


 戦闘技術は自分でもよく頑張ったと思うほど洗練されたと思う。


「こ、このごみクズさんが! ムカつくんだよばか!」


 中学生とは思えない程、体も大きくなった。


 しかし一番の問題は、


「ばーか! あーほ! こ、殺すぞおおおおお」


 憤怒できないことだった。


――ぽよん


 僕が放った木刀による渾身の薙ぎ払いは、優しくスライムを押した。


――ぽよん、ぽよん


 スライムはそれが面白かったのかもう一回やってとばかりに、近寄ってきた。


「こいつ、人なれしてやがる」


――ぷるぷるぷるぷる


「なんか可愛いかも――はっ! だめだめ、僕はこいつに憤怒しなきゃいけないんだった!?」


 正直日常で怒ることなんてないし、憤怒なんてしたことすらないかもしれない。


 それでも冒険者という夢を叶えるため必要なのだ。 あと一歩、それすらクリアできれば僕は少なくともそれなりに稼ぐくらいの能力はあると自負している。


「この! ぽよぽよしやがって! き、キモイんだよ!」


――ぽよん


「ぷにぷにしやがって」


――ぽよぽよ


「……無理だ。 怒る要素なんてないよ。 モンスターのくせにスライム可愛いし。 目の前で家族を殺されでもしない限り憤怒なんてなれるわけないじゃん」


――ぷにぷに


 膝を付く僕の頬を、慰めるようにスライムが優しく体をこすりつけるのだった。


「やめろよ……あ、やわこい」


 こうして冒険者という夢を挫折しつつも、なんだかんだ並行して勉強して合格した高校へ入学することとなった。


日比谷ひびや小豆あずきです! 将来の夢は――




――まだありません」





 僕が通う高校は冒険者特進クラスと一般クラスの二種類が存在する。


 もちろん僕は一般クラスだが、冒険者クラスに入学した中学の頃の知り合い――山本――がある日焦った様子で教室へやってきた。


「カメラマンが飛んだ」

「ああ、最近始めた配信の? わざわざ雇ってたんだ」


 最近、若者の間で冒険する様子を配信することが動画投稿界隈でブームとなっているらしい。

 ダンジョンから産出される物品や、冒険者のスキルや魔物など、情報としては知っていても実際に見れる機会は少ない。 ダンジョンの中ともなれば皆無だろう。


 故にダンジョン配信は子供から大人まで、楽しめるネイチャー番組のような地位を確立しつつあった。


「うん、俺が手配を頼まれてて知り合いに頼んだんだ。 それで今日、中ボスなんだけど」

「おー、結構進んでるね。 すごいや」

「あ、うん。 それはありがとうなんだけど」


 動画配信と言っても自動追尾するドローンカメラなんてものは未だ開発されていないので、撮影者が必要だ。

 しかしただの撮影者では冒険についてこれない。 最低限レベルアップによって強化された冒険者に置いていかれない体力と、モンスターを恐れない度胸。 それと自衛できる戦闘力があればなおよし。


 とはいえそんな優良人材はそうそういない。

 それだけの要素を兼ね備えていれば、冒険者になるはずなのだ。


 カメラマンとなるメリットは直接戦闘がないため危険が少ないとか、決まった日当を手に入れられるくらいで、それなら普通に働けばいいだろう。


 それでもカメラマンとしてダンジョンへ行くのは、冒険者やダンジョンに関する何かが好きだからに他ならない。


「頼む! 代わりが見つかるまでカメラマンやってくんない? 割り増しで報酬払うし、俺が守るから!」


 故に代わりのカメラマンは今日明日すぐに見つかる可能性は低いだろう。


 失意のまま中学を卒業し、新しい人生を歩むつもりで僕は一般クラスに入った。 けれどやはり冒険に行けると思うと、どうしても心が躍る。


 カメラマンも一度は考えたことはあった。

 しかし目の前で自分がしたかった冒険をレンズ越しに眺めるだけなんて、お預け食らってるみたいで絶対辛くなると思って選択肢から外したのだ。


 けれど興味がないかと言われれば嘘になる。


「分かった。 少しの間よろしく」

「まじか!!! ありがてえ、助かる!!」


 少し打ち合わせした後、僕らは急いで荷物をまとめて冒険者ギルドへと向かうのだった。






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